イスラエル軍はガザを空爆するだけでなく地上軍を送り込むためにすでに36万人の予備役を動員しましたが、正規軍の17万人と合わせて53万人もの軍をガザのハマス、レバノンのヒズボラ相手に使用する予定のようです。
イスラエルは936万人の総人口と言われていますが、そのうち、労働力としての人口は男女合わせて440万人しかおらず、今回53万人もの徴兵を行うというのは総労働力の12%もの人を ガザのハマス、レバノンのヒズボラ相手の戦争への兵役に就かせる ということになります。
イスラエルがそれだけの労働力を兵士として奪われる というのは その戦争が短期間で終わらなければ、イスラエルの経済に対しても大きな影響が出ることが予想されます。
今回のブログでは元CIA分析官のラリー・ジョンソン氏が イスラエルがガザで地上戦を行った場合はどうなるか、彼の見解を述べているビデオが面白かったので、ご紹介します。時間の都合で一文一文を和訳してご紹介することは今回はしませんが、重要な部分を要約してご紹介します。
元のビデオは↓です。
ラリー・ジョンソン氏の見解は イスラエルがもしガザで地上戦を行えば「泥沼」にはまり、イスラエル軍は大きな犠牲を払う ことは避けられない と言っておられます。以下、ラリー・ジョンソン氏の話の要点部分を書き出します。
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イスラエルのネタニヤフ首相が事前にハマスの攻撃を知って黙っていたのでは?と言う疑惑が出ているが、私(ラリー・ジョンソン氏)は 自国民をわざとハマスに虐殺させるほどにネタニヤフ氏が堕落しているとまでは思わない。
ネタニヤフ氏は連立して与党を作っているので、政府内にも諜報機関内にもネタニヤフ氏を嫌っている”敵"がたくさんいる状態。イスラエルにはモサドの他に米のNSAに該当するような諜報機関もあり、その中の誰かがハマスの攻撃を事前に知ったら、必ずどこかから漏れるだろう。
アメリカの諜報機関が 全くテロ事件等を予想出来なかった一例として、1983年にレバノンのヒズボラが ベイルートにある米国の大使館を爆破した事件があったが、このときもCIAは全く事件を予想さえしていなかったし、ヒズボラを警戒すらしていなかった。だから諜報機関の怠慢でテロ事件を全く警戒も予想もしていない ということは過去にも起きているので、珍しいことではない。
イスラエル軍は 現在ガザを激しく空爆して建物を1つ残らず破壊して、高いビルが残っていない完全にフラットな状態にしてから地上軍を投入する計画のようだが、空爆して全部の建物を破壊したからといって、それはハマスの終わりを意味するものではない。彼らはエジプトとつながった地下トンネルや地下に無数のバンカーを掘っているからだ。
ハマスを「完全に壊滅」するには トンネルでつながったエジプトまで攻撃しなければならなくなるので、それは中東全部を戦争に巻き込むことになり、イスラエルが中東のイスラム教国全部を敵に回すことになる。サウジアラビアはイスラエルと国交正常化に向けて交渉していたが、(この戦争開始後のイスラエルのパレスチナ人に対する非人道的扱いに怒り、)交渉をストップさせてしまった。
ガザへの地上戦が如何に難しいか、第二次大戦中の「スターリングラード包囲戦」の例を見れば分かる。ドイツ軍がソ連のスターリングラードを瓦礫だけの都市になるまで、まず徹底的に破壊し尽くしたものの、その後は多量の瓦礫のために戦車が立ち入れなくなって敗北した。(管理人注:スターリングラードはドイツによって90%破壊された後にソ連が形成を逆転)イスラエルがガザに侵攻すれば、イスラエル軍にもかなり大きな被害が出ることは間違いない。
別の例として、第二次世界大戦でアメリカが日本軍と戦った硫黄島も 当初、簡単に攻略できると思われていたのに、実際は(地下に掘られた巨大な塹壕トンネルがあって旧日本軍がゲリラ戦に持ち込んだので)、攻略に1ヶ月以上がかかってしまった。
レバノンのヒズボラはとても洗練された軍隊を持っており、2006年にイスラエルと戦争をしているが、イスラエル軍は勝てなかっただけでなく、たくさんの兵士を失い大きな被害を被った。(管理人注:2006年のヒズボラとイスラエルの「レバノン戦争」は決定的な勝敗はつかず、両軍ともに大きな被害を出して34日後に国連の仲介で停戦しました。)
かつては軍事的に未熟だと舐められていたハマスも今は劇的に進化している。
ハマスの兵器はウクライナのブラックマーケットから横流しされたものやアフガニスタンで米軍が置いていったものを使用している。(よって結果的には 米軍がハマスを武装させたのと同じことになっている。)
「アイアンドーム」も多連装ロケット砲を連射すれば 破られてしまうことが分かったし、アイアンドームに使用されているのはパトリオット・ミサイルで、ウクライナにも供与していることもあり、充填するミサイルが不足している状態。
また、大砲の砲弾も米軍がイスラエルにある在庫から多量にウクライナに送ってしまったので、今イスラエル軍は十分な砲弾を持っていない。(管理人注:私がどこかで見た記事では イスラエルが在庫していた大砲の砲弾8割がウクライナに送られた とありました。その後、YoutubeのMilitary SummaryのDima氏のコメントによれば、ハマスの攻撃があった10/7以降、ポーランドは本来ウクライナに送る予定だったはずのポーランド国内で製造した砲弾を急遽イスラエルに送った とのことです。)
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以上が、ラリー・ジョンソン氏がイスラエルとハマスとの戦争、特に地上戦になったらどうなるか というのを語っている部分の要約です。
ラリー・ジョンソン氏の意見と私の意見は ネタニヤフ首相が事前にハマスの攻撃を知っていたかどうか という部分では違います。(エジプト政府がイスラエルに10日前に警告したと言っているので、ジョンソン氏と違い、ネタニヤフ首相は事前に攻撃を知っていただろうと私は思っているので・・・)、地上戦に入れば、ビルが立ち並ぶ都市での戦闘は むしろ防御側に有利になるので、イスラエルは簡単には勝てず、かなり苦戦するのではないか ということについては私もそう思います。
イスラエル軍が もし空爆だけで、ガザを封鎖したりライフラインを止めたりせず1~2日程度で空爆を終わらせていれば それも非人道的なことではありますが、今に限ったことではなく、ガザで日常的に起きていることなので、周辺の中東のイスラム教国も強くイスラエルを批判したり、ここまでパレスチナとの連帯を表明することも無かったと思います。
私は当初、戦争がすぐに終われば、民間人に対する無差別テロを起こしたハマスが レバノンのヒズボラやイラン、イラク、シリア以外の他のイスラム教国から世論的に支持を得るのは難しいだろうと思っていました。
しかし、イスラエル軍が ガザにいる230万人のパレスチナの民間人に対して今やっていることが とてつもない非人道的な戦争犯罪なので、中東の中では親米寄りだったエジプトやサウジアラビアまでもがパレスチナとの連帯を表明するか、イスラエルに不快感を表明している状態になっています。
サウジアラビアの皇太子はイスラエルとの国交正常化交渉をストップし、イランの大統領と急遽電話会談したと伝えられています。イラクのスダニ首相は10/10、ロシアを訪問してプーチン露大統領と会談しています。ちなみに、プーチン露大統領は この戦争に対しては中立的な姿勢であって、アメリカのパレスチナを無視してイスラエル寄りすぎる外交政策が今回の惨劇を招いた とアメリカを非難しています。10/5のアルアクサ・モスクへの襲撃を「レッドライン」だと警告していたトルコのエルドアン大統領もプーチン大統領と電話会談を行いました。多くのイスラム教国が今、 パレスチナ人に対する70年以上にわたる酷い人権弾圧、虐殺を正当化してきたイスラエルのシオニストだけを支えてきた米国の姿勢はおかしいと思って、より中立的なロシアにコンタクトを取ろうとしています。
ガザと国境を接しているエジプトは 選挙で勝利したハマスの母体の「ムスリム同胞団」出身だったモルシ大統領を 米の策略で2013年にクーデターで追い出しそれ以降、親米のシシ大統領が政権を握っていますが、一般のエジプト国民はハマスの母体であるムスリム同胞団の支持者が多い状態です。親米のシシ大統領もエジプトの一般国民のパレスチナ人支持の声を無視はできない状態でしょう。
ですから、エジプトは当初イスラエル寄りでもパレスチナ寄りでもない、中立的な声明を発表しましたが、エジプトと国境を接しているガザで民族浄化が起きるのを黙って長期間見ている とも思えません。また、ヨルダンもかなり長く親米的なスタンスを続けている国家と言えますが、多くのパレスチナ難民を受け入れたので、国民の7割がパレスチナ系になっています。ですから、イスラエルによるパレスチナ人への民族浄化は許せない という世論になることでしょう。その他、アフガニスタンや、中立的だったイムラン・カーン首相を追い出したことで親米政権になりウクライナに砲弾を提供しているパキスタンも、パレスチナ寄りのコメントを出しています。
中東や北アフリカのイスラム教国の中では 宗派の違い(スンニ派かシーア派か)や親米か、反米か という政治的立場の違いで対立している構造が長く続いてきました。(ムスリム同士を対立させて戦争をさせるのも米とイスラエルの策略の一つ)
ですから、シリアやイエメンでの内戦では シーア派の盟主イランとスンニ派の盟主サウジの代理戦争みたいな形にもなっていたわけですが、先日 中国の仲介でイランとサウジが国交を正常化したり、今回のイスラエルの イスラム教国の大部分を敵に回すような酷いパレスチナ人の民間人に対する非人道的戦争犯罪を許せない ということで、今まで連帯していなかったイスラム国家が この戦争をきっかけに、逆に連帯する可能性があります。
ですから、イスラエルが行おうとしているガザへの地上戦は イスラエルを外交的、政治的に自滅させ、地域で孤立に導く可能性さえも出てきている ということです。
また、イスラエルは 持っていた砲弾の8割をウクライナに送って、今はそれを返してほしい と言っているようですが、ウクライナとイスラエルを支えているのは どちらも主に米国なので、その米国の砲弾製造能力が乏しいにも関わらず、二正面で同時に戦争ができる と思っている、傲慢で血も涙もないネオコンや軍産複合体が そもそも気が狂っている と私は思います。