暗いニュースが多い中で、ひとつ前向きなニュースがアフリカから出てきましたので、本日ご紹介します。

 

それは 武力介入をちらつかせてニジェールの軍事政権を脅していたフランスが ついに"根負け"して、ニジェールからの軍と大使の撤退を決めた というものです。(今年いっぱいで撤退)

 

フランス軍の撤退についてはニジェールの軍事政権だけでなく、国民の大多数もそれを要求していましたので、これはニジェール国民にとっての大きな「政治的勝利」と言ってよいでしょう。

 

なお、ニジェールでクーデターが起こった背景やその後の経過等は 私のブログの以下の過去記事をご参照下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

では、早速本日の記事をご紹介します。アメリカのロイター通信発の9/25の記事を別のサイトで転載しているものです。

Analysis-West Losing Sight of Sahel After France Announces Niger Withdrawal

 

(和訳開始)

 

フランスがニジェール撤退を発表後、西側諸国はサヘルを見失った

 

ジョン・アイリッシュ、エドワード・マカリスター著

[パリ/ダカール 16日 ロイター] - ニジェールから1500人の軍隊を撤退させるというフランスの決定は、10年にわたるイスラム反乱に対抗する西側の取り組みに大きな穴を残し、西アフリカの広大で治安の悪い低木地帯全体でロシアの影響力を強化する可能性があるとアナリストや外交官らは述べた。

ニジェールは、7月26日のクーデターでフランスの撤退を求める軍事政権が発足するまで、サハラ砂漠以南のサヘル中央地域における西側最後の重要な同盟国だった。

フランス軍は隣国のマリとブルキナファソでのクーデターを受けてすでにこれらから追い出されており、反フランス感情の波が広がる中、旧植民地での影響力は弱まっていた。

2年前に数十万平方マイルの地形に及んだその監督は今ではほとんど消え去った。

ロンドンに本拠を置くリスク会社ベリスク・メープルクロフトの上級アナリスト、ムカヒド・ドゥルマズ氏は、「西アフリカ諸国の国民は、西側の軍事駐留を受け入れることにますます警戒感を強めている」と述べた。「フランス軍のニジェール撤退は、西側軍をサヘル中央部からさらに遠ざけることになるだろう。」

日曜夜のテレビインタビューでフランスのエマニュエル・マクロン大統領が発表したこの撤退はニジェールでは歓迎され、軍事政権はこれを「ニジェールの主権に向けた新たな一歩」と表現した。

同国は声明で「我が国の領土において帝国主義勢力はもはや歓迎されていない」と述べた。

しかし、治安アナリストや外交官らは、マリとブルキナファソのクーデター後に不安定さが急上昇しているのは、武装勢力が近年すでに数百人の民間人を殺害しているニジェールを待ち受けている兆候かもしれないと述べており、懸念している。12月になれば、フランスの航空偵察、情報、地上支援に頼ることはできなくなる。

マリ軍事政権は、人権侵害で国連から非難されているロシアのワグナー・グループの傭兵たちと協力した。ロシアはブルキナファソの指導者らにも求愛している。

現在、多くは米国が何をするかにかかっている。

ニジェール北部の無人機基地に約2億ドルを投資し、1,000人以上の兵士が配備され、サハラ砂漠でリビアに向かう移民、人身売買業者、過激派の出入り口を監視している。

米国はニジェール乗っ取りをクーデターと呼ぶことを拒否しており、これは当面は関係断絶を回避できることを意味している。当局者らはワシントンの次の動きについて依然として慎重だ。

ロイド・オースティン米国防長官は月曜日、ナイロビで「我が国軍の態勢に大きな変更は加えていない」と述べた。米国政府は平和的解決と「民主的に選ばれたニジェール政府の維持」を望んでいると同氏は付け加えた。

フランスとは異なり、アメリカ軍はイスラム過激派に対してニジェール軍と積極的に交戦しておらず、民政移行の範囲内で協力することに前向きである可能性がある。それでも、西側諸国が残留すれば、少なくとも現地に駐留することになるだろう。

コンサルティング会社オックスフォード・アナリティカの西アフリカアナリスト、ナサニエル・パウエル氏は、ニジェールは「情報収集と一種の安全保障支援の重要な拠点とみなされている。彼らはそれを手放したくないだろう」と語った。

選挙の年に、ジョー・バイデン米大統領はおそらくワシントンのアフガニスタン撤退との類似点を示す機会を提供することを望まないだろう、と同氏は述べた。

異なるアフリカ

2週間前、マクロン氏は大使らに強気の演説を行い、ニジェールの民主主義を守ると誓った。

しかし、彼の立場は維持できなくなった。今月、マクロン大統領が軍事政権の退去期限を無視したため、フランス大使はニアメの大使館に立てこもった。首都のフランス軍基地の外には数万人が集まり、軍隊の撤退を求めた。デモ参加者はフランス国旗を燃やし、ロシア国旗を振った。

ニアメ在住のアイサミ・チロマさんは月曜日、「今は違うアフリカだ。目覚めて立ち上がったアフリカだ」と語った。「法治国家と言われるフランスは、完璧なギャングのように振る舞う。」

日曜日の夜、マクロン大統領はインフレ、ガソリン、移民に関するインタビューの途中で、ニジェールはもはやテロリズムと戦うことを望んでいない、そのためフランスは撤退すると述べた。大使も去った。

2013年にフランスがマリ北部を制圧したイスラム教徒戦闘員を撃退し、地元住民を大いに喜ばせてからは長い年月が経った。

オックスフォード・アナリティカの西アフリカアナリスト、ナサニエル・パウエル氏は、「フランスにとって、これは何よりも敗北の象徴だと思う」と語った。

チャドからギニア湾へ

フランスには選択肢がほとんどない。一つは、約1,000人の軍隊を擁する隣国チャドに軍隊を派遣することだ。

しかし、チャドはジハード主義反乱の中心地から数百マイル離れており、独自の安全上の問題とくすぶる反フランス感情を抱えている。

地域的な再考の一環として、パリはヨーロッパのより協調的な支援を求めていた。

しかし、サヘル地域で以前に作戦を行った欧州のパートナー4国の外交官らによると、欧州の同盟国にはフランスを救済したいという特別な要望はないという。

かつてマリ、特に東ヨーロッパへの派兵を申し出た国々は、ウクライナで戦争が続いている現在、派兵する気はない。多くの人はマクロン大統領がニジェール撤退を発表するとは予想していなかった。

外交官2人は、ニジェールで軍隊が訓練や後方支援を行っているイタリアやドイツなど欧州のパートナー国も現段階ではニジェールからの撤退に消極的だと述べた。

彼らの躊躇は、ヨーロッパで拡大する移民危機と関連している。多くの移民は、サハラ砂漠を越えて地中海に向かう前にニジェールを通過します。ニアメとの関係を断つことは、これらのルートの警備に悪影響を与えるだろうと彼らは述べた。

それはフランスがこの地域を完全に放棄するという意味ではない。

ガーナやコートジボワールといった地域の経済大国を含む沿岸諸国に向かっているイスラム主義者の脅威に対する懸念は依然として残っている。

外交官や軍関係者らによると、これら諸国は軍事支援を正式に要請できるが、それは訓練や兵站、一部の諜報活動に限定されるだろうとの考えだ。

一方、コートジボワール、セネガル、ガボンにあるフランスの基地はすべて、パリの役割を軽視するために共同管理作戦に転換されつつある。当局者らによると、フランスでは軍事学校と訓練学校が大きな焦点となるだろう。

ロンドンのシンクタンク、王立ユナイテッド・サービス研究所のアソシエート・フェロー、ジャレル・ハルチャウイ氏は、「マクロン政権は2017年以来、アフリカ大陸で数々の挫折に遭遇したが、そのどれもが戦略や考え方、人材の再評価を促すものではなかった」と述べた。

(ジョン・アイリッシュとエドワード・マカリスターによる報告、ニアメのアブデル・カデル・マズー、ブリュッセルのアンドリュー・グレイ、ナイロビのジョージ・オブルツァによる追加報告、アンドリュー・ヘヴンズによる編集)

著作権 2023 トムソン・ロイター。

 

(和訳終了)

 

上の記事は西側の大手メディアのロイター通信のものなので、「マリとブルキナファソのクーデター後に不安定さが急上昇している為、今後フランス軍の撤退によってテロが増えないかという懸念がある」というようなことを書いていますが、実際に西アフリカでテロが激増したのは2011年にアフリカ北部のリビアでカダフィ大佐の政権をNATOがISやアルカイダのテロリストを連れてきて打倒したところから始まっています。

それに対して駐留しているフランス軍やその傀儡政権は何もできませんでした。

テロの回数でいえば、アフリカ大陸全体で2002年、2003年にはわずか9件だったのに対し、昨年はブルキナファソ、マリ、ニジェール西部だけで2,737件も起こりました。(米国国防総省の調査のアフリカ戦略研究センターの報告書による)

 

表向き「テロ掃討作戦」を行うと言って、ただ資源の搾取しかしていないフランス軍に対し、国民の怒りが爆発したのが 今回のクーデターと言ってよいでしょう。

ニジェール国民の80%は未だに電気のない生活をしているのに、原子力発電への依存度が大きいフランスの1/3の電気は ニジェールから輸入されたウランで賄われています。

しかも、フランスがニジェールから買っているウランは市場価格のわずか2%の価格 という、タダ同然でとんでもない搾取をやってきたわけですから、今後はフランスやEUは「適正な価格」でウランを買って、ニジェール国民がウランや石油等の国の資源を使って、「アフリカで2番目に貧困」と言われる状態から脱出できるように協力すべきでしょう。

 

フランスはまだ、クーデターで軟禁されたバズーム大統領を復職させるべきだ という公式の立場を変えてはいませんが、頼みのECOWASも武力介入の準備だけはしたものの、実際に行動を起こすことについては非常に腰が引けていました。

 

アフリカ一の経済大国であり、ニジェールの南で国境を接するナイジェリアは ニジェールと同じ民族 ということで、ナイジェリアの大統領は軍事介入に前向きでも、国会議員からは異論続出で同じ民族の兄弟国の人間同士で殺し合うことには後ろ向きであったのはある意味、当然です。彼らがもし軍事介入をしていれば NATOがウクライナをロシアへの代理戦争の道具に使ったのと同じように、フランスがナイジェリアを始めとするECOWASを代理戦争の道具にして、ニジェールへ戦争を仕掛けるのと似たようなことになるはずでした。ですから、そのような事態を避けられたのは本当に賢明な判断だったと思います。

 

また、ニジェールの軍事政権は バズーム大統領を傷つけることなく、彼は自宅で軟禁され、医師にも面会できて健康状態も問題ないわけですから、クーデターで追放された大統領に対しても 紳士的に扱った とも言えるでしょう。

この点も 2014年のウクライナでの暴力マイダン・クーデターと比べて、とても理性的で人権にも配慮したやり方でした。

 

ニジェールの軍事政権は フランスが大使の撤退を拒否した時、大使館への電気と水、食料の供給を停めました。そして、同じようにクーデターを起こしてフランスの傀儡政権を打倒したマリ、ブルキナファソとの軍事協定を結びました。

食料や水、電気を停められた仏大使館員は フランス軍からの配給食料を食べている状態でしたが、ついに"根負け"して、退去を決断した ということでしょう。

 

今後、軍事政権は3年かけて「文民政府」へ移行するとアナウンスしていましたので、その時に選挙も行われるはずです。

もちろん、クーデターで大統領を追い出したこと自体は 憲法違反で褒められたものではないですが、その後ウクライナのように自国民を虐殺するような暴力もなく、クーデターに参加した兵士たちも ただフランスによる非人道的な搾取に異議を唱えて公正な取引を訴えているのであって、国全体を大混乱に陥れようとする意図を持った人たちではありませんでした。

この点もウクライナでのクーデターと違って、クーデターに参加した兵士たちは非常に理性的で賢く振る舞ったと私は評価しています。