先日のNATO首脳会議にも出席していたトルコのエルドアン大統領ですが、NATO首脳会議に出席する前、7/8にトルコを訪れていたゼレンスキー大統領と会談し、「ウクライナはNATO加盟に値する」と発言しています。これは 最初から無理なことは分かっていて、ゼレンスキー大統領を前にしての「リップサービス」と思われますが、もう1つ、ロシアにとってかなり不愉快なエルドアン大統領の「約束破り」がありました。
それは2022年、トルコが ロシアとウクライナの間の仲介役となってアゾフスタル製鉄所に立て籠もっていて最後に降伏したネオナチのアゾフ連隊の上官5人の身柄を「戦争終了時までトルコに滞在させ、出国させない」ということで、アゾフ連隊の隊員がロシアで軍事裁判にかけられて処罰されるのを回避した ということがあったのですが、ゼレンスキー大統領の7/8のトルコ訪問で このロシアとの合意をひっくり返し、アゾフ連隊の上官5名全員をトルコからウクライナに帰還させてしまったのです。
また、イスラム教の経典、コーランを焼くなどの侮辱行為やクルド民兵組織を支援している等の理由でずっと保留にしていたスウェーデンのNATO加盟にも同意する と言いました。(これは後になって「トルコ議会での批准が必要」と一歩後退させるコメントを出しています。)
こういったエルドアン大統領の突然の掌返し、裏切りに対し、プーチン大統領はまだコメントを出してはいません。しかしトルコの「約束破り」に対し、不快感は感じているでしょうし、エルドアン大統領とプーチン大統領の関係に亀裂が入ったことは間違いないと思います。
ここ数年は友好関係を続けていたロシアとトルコの間に何が起こったのか というと、シリアで 3週間くらい前からシリア政府軍とそれをサポートするロシア空軍が トルコが後ろ盾になっている反政府軍を激しく空爆していて、それにエルドアン大統領が腹を立てていた というのが原因の1つとして挙げられます。しかし、シリア政府軍にとっては「外国からの侵略者」であるトルコが支援している民兵やテロリストを自国の領土から追い出す というのは当然の権利であって、シリア政府軍とシリア政府の許可を得てシリア領土内に基地を持っている事実上の同盟国であるロシア軍がそれを手伝っているのは当たり前のことです。
トルコはすでにアサド政権を打倒するのは無理 と悟って、トルコが受け入れた大量のシリア難民(350万人にのぼる)をシリアに帰還させるには シリアと和平をしなければならない という流れで最近はロシアやイランと交渉をしていたわけですから、トルコが支援している民兵はシリアから撤兵させるのが筋であって、彼らを攻撃したロシア軍に腹を立てる というのも道理が通らないと思います。
それと、もう1つの原因はトルコが抱えている「お金と経済の問題」です。
皆さんも御存知の通り、トルコでは2/6に大規模な地震が発生しました。地震からの復興や被災者への住宅提供で多額のお金が必要なのですが、トルコはここ数年、30%台とか、酷いインフレと通貨安に苦しんでいます。喉から手が出るほどお金が欲しい時期に、IMFから経済援助のオファーがあって、結局「エルドアン大統領はお金のためにプーチン大統領を裏切った」というのが真相のようです。
そのことを世界的なジャーナリストである、シーモア・ハーシュ氏が記事に書いていますので、今回はハーシュ氏の記事を紹介したロシアメディアのRTの記事をご紹介します。
Biden offered Erdogan IMF money to ratify Sweden NATO bid – Seymour Hersh
(和訳開始)
バイデンはスウェーデンのNATO加盟を批准するためにエルドアンにIMFの資金を提供した - シーモア・ハーシュ
アンカラ(トルコ)は今週、ストックホルム(スウェーデン)の米国主導の北大西洋条約機構(NATO)加盟への反対を撤回した
ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリスト、シーモア・ハーシュは木曜日、ジョー・バイデン米大統領がトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領に対し、スウェーデンのNATO加盟を批准するために110億ドル以上のIMF支援を提供したと主張した。
ハーシュは、自身のSubstackアカウントに投稿した記事で、匿名の情報筋から、「バイデンは、国際通貨基金(IMF)がトルコに110億〜130億ドルの融資枠を設けると約束した」と知らされたと書いた。これは、今週リトアニアで開催されたNATO首脳会議に先立ち、ストックホルム(スウェーデン)がアメリカ主導の軍事ブロックに参加することへのアンカラ(トルコ)の反対をエルドアンが取り下げた見返りではないか、とハーシュは示唆した。
5月下旬にトルコの指導者に再選されたエルドアンは現在、少なくとも5万人が命を落とした2月の地震で被害を受けた、あるいは破壊された数十万棟の建物の建て替えや修復という途方もない仕事に直面している。
トルコは以前、スウェーデンの加盟に反対していたが、その主な理由は、ストックホルムが1980年代にトルコ国家との武力紛争に関与したクルディスタン労働者党(PKK)の過激派を匿ったと訴えるアンカラの姿勢にあった。PKKはトルコ、スウェーデン、ヨーロッパ、アメリカからテロ組織に指定されている。
「エルドアンにとってこれ以上良いことがあるだろうか」とハーシュ記者は、アメリカ大統領とトルコ大統領の取り決めについて、それに詳しい政府関係者の言葉を引用しながら書いている。
報告書はまた、独立系シンクタンクの外交問題評議会が6月に発表したアンカラの財政分析にも言及している。
それによると、トルコは「差し迫った財政危機」の崖っぷちに立たされており、「金塊の売却、回避可能なデフォルト、あるいは政策の完全な撤回と場合によってはIMFプログラムという苦い薬を飲み込む」という選択に直面しているという。
ハーシュ氏(86歳)は今年初め、ロシアからヨーロッパにエネルギーを供給するノルド・ストリーム天然ガスパイプラインを無力化した昨年の爆発事故は、米国に責任があると匿名の情報源から知らされたと主張し、大きな話題となった。ワシントンはこの主張を "完全なフィクション "として否定した。
(和訳終了)
シーモア・ハーシュ氏が書いているように、トルコの財政危機、深刻なインフレに加えて大地震による被災者支援もしなければならない という中、手のひら返しでロシアとの合意を裏切ってアメリカにすり寄るしかなかった ということだと私も思います。
約束や合意を破る というのは もちろんその国やリーダーの信用を落とすもので、やってはいけないことだと思いますが、トルコが置かれた状況を考えると、ここでエルドアン氏を強く責める気には私はなりません。
トルコは スウェーデンのNATO加盟を認める と言った”ご褒美”に、アメリカの制裁によって共同での開発がストップしていたF-35の問題も前進するようですし、米からの嫌がらせで、領土問題で敵対するギリシャより後回しにされていたトルコへのF-16戦闘機売却、EUのメンバーには今後もなれないと思いますが、EUへのトルコ国民の入国がしやすくなるというメリットを享受できるように検討されているそうです。EUへトルコ国民が入国しやすくなる、イコール、シリアからトルコにやってきて、すでにトルコ国籍を取った元シリア難民が トルコでの高いインフレ率による生活苦から、自らEUへ出ていくことも可能になるわけで、それはシリア難民に本当は出ていってほしいトルコにとってはメリットになるでしょう。
なお、トルコの地震は"気象兵器"によるもの と疑われている という記事は 私のブログの過去記事でご紹介していますので、これも まだご覧になられていない方は是非チェックしてみてください。