日本のメディアでも6/6に大きく取り上げられましたが、ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムの水門が何者かによって破壊され、大量の水がダムから下流の方に流れ出し、ドニエプル川の近くのエリアでは深刻な洪水が起きているエリアがあります。

 

予想通り、ウクライナとウクライナに支援している西側各国はダムの破壊は「ロシアがやった」を口を揃えてロシアを非難しています。

 

しかし、ウクライナ側とロシア側、どちらが このダムを破壊することによって より利益を得るでしょうか?

それを考えれば、このダムの破壊でロシアが得るメリットはほとんどなく、デメリットのほうが大きいことが分かります。

 

まずは カホフカ水力発電所 とそのダムから水を引いた貯水池で燃料を冷やしているザポリージャ原発の位置関係を地図で確認してみましょう。

 

 

以下に列記することは全て事実です。

 

1. カホフカ水力発電所、その上流にあるザポリージャ原発のいずれも ロシアが管理している。

(ですから、もしロシアがダムを破壊したとすれば、自分たちが管理するインフラを自分で壊したり危機に晒すことになる)

 

2. カホフカ水力発電所のダムが破壊された場合、その水は下流に流れるのでヘルソン州が洪水になる一方、その上流のザポリージャ州のドニエプル川沿岸は水位が下がっていく。

 

3. ザポリージャ州のドニエプル川沿岸で水位が減った場合、ドニエプル川からの水を貯水池に引いて燃料を冷やしているザポリージャ原子力発電所が危険にさらされる。(ロシア企業ロスアトムが今は運営管理している原子力発電所を自ら危険に晒すというのはどう考えても不自然)

 

4.カホフカ水力発電所のダムはクリミア半島での水道の供給源や農業用水となっている。(2014年にロシアがクリミアを併合した後、ウクライナ政府はクリミア半島につながる水門を閉めて嫌がらせをしたので水不足となっており、昨年始まった「特別軍事作戦」ではカホフカ水力発電所とザポリージャ原発をロシア軍が確保することに重点が置かれた。)→ロシア軍がわざわざダムを破壊してロシア系住民が大多数を占め、ロシア軍の基地もあるクリミア半島を水不足にさせる理由がない。

 

5.ウクライナ軍には 昨年8月にこのダムを 米国から供給されたHIMARSで破壊しようとしたが、失敗に終わったという”前科”がある。(西側メディアのNewYork Timesでもそれは報道された)さらに、ウクライナ軍は昨年8月だけでなく、12月にもこのダムの破壊を考え、HIMARSで破壊できるかどうか、テストを行なっていた と2022年12月29日付のワシントン・ポストの記事でも報じられている。以下は有料のワシントンポスト記事の一部をそのまま引用したTass通信の記事の一部抜粋翻訳。

 

「(ウクライナ軍の)コヴァルチュク少将は、川を氾濫させることを検討した。ウクライナ人は、水門の1つにHIMARS発射装置による試験攻撃さえ行った」と彼は述べた。コヴァルチュク氏は、ノヴァ・カホフカ・ダムで金属に3つの穴を開け、ドニエプル川の水位をロシア人の渡河を妨げる程度に増水できるかどうかを確認したが、近くの村々を浸水させないかどうかを確認した」と述べた。「テストは成功した。」とコバルチュクは言った。「しかし、この措置は最後の手段であることに変わりはない」と保留にしたのだ。

 

6. ウクライナ軍がこのダムの破壊を狙っているのをロシア軍は知っていたので、洪水になった場合にヘルソン州のドニエプル川西岸にいるロシア軍が孤立するリスクを考え、昨年秋、ヘルソン州のドニエプル川西岸からは自ら退却した。(西側メディアが「ウクライナ軍による領土解放」と華々しく宣伝していたのは ロシア軍が ウクライナ側のダム破壊による洪水のリスクを避けるため自ら退却したことによるものであって戦闘でウクライナ軍が勝ったわけではない。)

 

(上の地図で緑になっているところは 洪水のリスクを考えて昨年秋にロシア軍が自ら撤退したヘルソン州のドニエプル川西岸)

 

7. ヘルソン州では ドニエプル川を挟んで、ごく最近まで戦闘が続いていた。そしてウクライナ軍のほうがはるかに大きな犠牲者を出していた。(西岸からウクライナ軍が砲撃したり、時にはボートに乗って東岸に上陸を試みるも全て失敗に終わっていた。ロシア軍には 洪水によって敢えて自軍の陣地まで水没させてまでウクライナ側の上陸を阻止しなくても 天然の障害物である川がある状態で、ウクライナ軍の攻撃を十分抑止できていた。)

 

 

以上が、事実となります。

 

ロシアにとっては 自軍が管理しているこのダムの破壊でロシアが管理する原発を敢えて危険に晒したり、クリミア半島の水道水や農業用水を足りなくさせてしまう理由など、全く無いわけです。また、ウクライナには昨年にもダムを破壊しようとした という「前科」があるのです。

 

ロシアがこのダムを破壊するメリットがほぼ無いのに対し、ウクライナは このダムを破壊することでのメリットが複数あります。

 

1. ダムよりも上流にあるザポリージャ州のドニエプル川の水位が下がるので、ロシア軍が支配しているザポリージャ原発周辺でのロシア軍陣地への攻撃がしやすくなる。

 

2. ウクライナ軍は6/4~6/6にかけて、たった3日間の「反撃作戦」と思われる攻撃で、3,500名以上の死傷者を出した。(情報元:このYoutubeビデオ) これは1旅団が丸ごとなくなったのに等しく、前線にいる旅団を再編成する必要が出てくる。それで カホスフカ水力発電所のダムを破壊し洪水を起こして、ヘルソン地域でロシア軍が対岸から攻めてこられないようにすれば、ヘルソン地域にいるウクライナ軍を 重点的に、攻撃したいドネツク州やザポリージャ州に再配備することができる。

 

 

この事件の報道で皆さんに思い出してほしいのが 昨年行われた西側メディアと政府の荒唐無稽な論理です。

昨年、すでにロシアの管理下にあったザポリージャ原発が毎日のように砲撃にあっていたとき、西側メディアと西側政府は 「ロシアが原発を攻撃している」と、口を揃えていっていました。(自分で自分を攻撃?)

 

ロシア軍兵士がいてロシアが管理している原発を ロシア軍が自ら攻撃して危険に晒す とか、どう考えてもあり得ない話ですが

そのような荒唐無稽な話を堂々として、ロシアを非難していました。IAEAの担当者がザポリージャ原発に査察に来たその日までも、ウクライナ軍は対岸から砲撃したり、ボートやはしけを使って兵士を上陸させようとしていました。

 

Ukraine Tries To Prevent IAEA Inspection Of The Zaporizhzhia Nuclear Power Plant

(ウクライナ、IAEAのザポリージャ原発への査察の阻止を狙う)

※上の記事にはウクライナ軍が IAEAの査察当日、7隻のボート、2隻のはしけで60人の兵士をザポリージャ原発近くに上陸させようとしたが、ロシア軍に発見されて全滅させられたことが書いてあります。)

 

それと、もう1つは ノルドストリーム・パイプラインの爆破事件ですね。

あれも シーモア・ハーシュ氏による詳細な記事が出てから流れが変わりましたが、それ以前は アメリカ、イギリス、ポーランド、巨額の投資をしたパイプラインを破壊された被害者であるはずのドイツまでもが「ロシアがやった」と口を揃えて言っていましたね。

 

もちろん、今回のダムの破壊も ウクライナがやった という確たる証拠が現在あるわけではありません。しかし、ウクライナには昨年、少なくとも2度、このダムを破壊しようと試した「前科」がある というのが事実ですし、今回のカホフスカ水力発電所のダムの事件は ザポリージャ原発への攻撃、ノルドストリーム・パイプラインの爆発の事件と、なんと酷似した展開になっているではありませんか。

 

そして今回のノヴァ・カホフカダム爆破事件をめぐる報道の「外交情報戦」で、ウクライナが勝利するのを支援したジャーナリストたちに感謝するゼレンスキー大統領の補佐官、アンドリー・イェルマーク氏の言葉もあります。↓

 

 ↓

ゼレンスキー氏の最高顧問は、ノヴァ・カホフカ・ダム爆破事件でウクライナ政府が「外交的情報戦」に勝利するのを助けてくれたジャーナリストたちに、今日、事前に感謝の言葉を述べた。ジャーナリストたちが遵守すべき国家の義務について、有益な指摘をした。

 

以下、ゼレンスキー大統領の補佐官、アンドリー・イェルマーク氏のコメント

「私はジャーナリストの皆さんにその日を祝福したいと思います。 今日、あなたの仕事は 世界が環境破壊とロシアのテロリズムに関する真実を どれだけ早く知るかにかかっています。

この日こそ、私達は真実を求める戦いにおいて、外交面と情報面で勝利しなければなりません。

お疲れさまでした。」