200日以上に渡る長い長い死闘が続いていた東部ドンバス地区にある要塞、バフムートがついに5/20、ワグナーの手によって奪取されました。

 

本日このニュースに関するロシア政府、ウクライナ政府のコメントをご紹介します。

ロシア政府はプーチン大統領のバフムート解放についてのワグナー、ロシア軍への祝福とねぎらいのコメント、ウクライナ政府はゼレンスキー大統領の補佐官、ポドリャク氏のコメントで、どちらもロシアメディアのRTに掲載されている記事です。

 

Putin congratulates troops on battlefield success

 

(和訳開始)

 

プーチンは軍の戦地での成功を祝福

ロシア大統領は、アルチョモフスク市の攻略を完了したワグナー戦闘員と正規軍兵士を賞賛している

 

ロシアのプーチン大統領は、ドンバス地方の都市アルチョモフスク(別名バクムート)をウクライナ軍から解放した民間軍事会社ワグナーのメンバーと一般兵士を祝福したと、クレムリンが日曜未明に発表した。

ワーグナーのエフゲニー・プリゴジンは土曜日に、兵士がこの街を完全に支配したと述べた。

ロシア国防省は数時間後、アルチョモフスクの占領を確認した。

国防省によると、正規軍から砲撃と航空支援を受けたワグネル戦闘員による襲撃で作戦は完了したという。

一方、ウクライナは、同市をめぐる戦闘は終わっていないと主張している。

 

塩鉱山の街アルチョモフスクは、ロシア軍が西側郊外からウクライナ軍を計画的に追いやっていたため、何カ月も激しい戦闘の舞台となってきた。街そのものはほとんど破壊されている。

 

(和訳終了)

 

 

そして下の記事は ウクライナ政府の反応です。ウクライナ大統領補佐官、ポドリャク氏のコメントが掲載されています。

 

Ukraine to recapture Donbass stronghold – Zelensky’s top aide

 

(和訳開始)

 

ゼレンスキー大統領側近ーウクライナはドンバスの本拠地を再び取り戻す

ミハイル・ポドリアク氏は、モスクワのアルチョモフスク完全制圧の発表を軽視している

 

ウラジーミル・ゼレンスキー大統領の上級顧問であるミハイル・ポドリアクは、ドンバスの重要都市アルチョモフスク(別名バフムート)を奪還すると土曜日の夜に発言した。この発言は、ワグネルの民間軍事会社のボスであるエフゲニー・プリゴジンが、彼の戦闘員がこの都市を完全に支配したと発表した後に行われた。

ロシア国防省は日曜日の早朝に、ワグネルが正規軍の助けを借りて作戦を実行したことを確認した。しかし、ポドリアクは、ロシア軍は戦闘で疲弊していると主張した。

「ロシアは次に何をするのだろう。たとえ、あと2つの街区を占領したとしても。どのような部隊で、どこに、なぜ進軍するのだろうか?」ポドリアクは、ウクライナのテレビのインタビューでこう語った。

「我々としては、中途半端なところで止まるわけにはいかない。バフムートは、他のウクライナ領土と同様に解放されるでしょう」と同顧問は語った。

 

ウクライナ国防省は陥落を否定し、戦闘はまだ続いていると主張した。

ポドリアック氏は、プリゴジンがゼレンスキーの欧州数カ国、サウジアラビア、日本での海外ツアーから注意を逸らそうとしたと主張した。ウクライナの指導者は、金曜日にジェッダで開催されたアラブ連盟首脳会議に出席し、翌日には広島で開催されたG7会議に出席した。

アルチョモフスク陥落のニュースは、ウクライナが注目される反撃の準備を進めているときでもある。キエフの政府関係者は、反攻のタイミングと成功は西側からの武器供与に依存すると繰り返し強調している。

ゼレンスキー氏は先月、アルチョモフスクからウクライナ兵が撤退することはないと約束した。撤退すれば、「ロシア軍とワグナーが我々の土地をさらに占領する機会を与える」ためだ。アルチョモフスクの街は、数ヶ月に及ぶ激しい戦火によって、ほとんど破壊されてしまった。

 

(和訳終了)

 

ワグナーの代表、プリゴジン氏は この224日間にものぼるバフムートでの戦いで、自軍のワグナーの兵士を「世界一強い」と褒め称え、ウクライナ軍兵士にも「世界で二番目に強い」と称賛の声をあげています。

バフムートで戦っていたウクライナ軍がワグナーに次いで「世界で二番目に強い」かどうかは 私には分かりませんが、言えることは ロシア軍とウクライナ軍の火力には圧倒的な差があるにも関わらず、一部に逃げ出したり命令を拒否して自ら投降したウクライナ軍兵士もいたものの、多くの方は 勇敢に戦い、命を落としていった ということです。

 

さらに言えば、この戦争は長年に渡ってのアメリカ側のロシアに対しての度重なる約束破り、挑発がなければ、外交努力によって100%防げた戦争であって、ウクライナ軍、ロシア軍とも、末端で戦う兵士たちは この戦争の本質と言って良い、「経済戦争」の犠牲者なのであり、不幸にして若くして散っていった彼らにも愛すべき家族がいる と考えると、1日でも早くこの戦争を終わらせてほしいと私は思います。

 

ウクライナ側で傭兵として参加したアメリカ兵の話によれば、ウクライナ軍兵士のこのバフムートでの平均生存期間がわずか4時間ということが以前記事になっていました(下のリンク)。

US merc says Bakhmut frontline life expectancy around 4 hours

(米傭兵、バフムート前線での余命は4時間程度と発表)

 

バフムートが「肉挽き器」と言われるほど、凄惨な状況になったと言われていたウクライナ軍の状況ですが、米軍による昨年12月位から何度も進言していた撤退要請にも関わらず、ゼレンスキー大統領がそれに従わずに、「肉挽き器」に毎日新しい兵士を送り込み、今回最終的にはバフムートから撤退して、どれほどの損害を負ったのか、今回Military Summary チャンネルのビデオでご紹介されていますので、それを転載させていただきます。

 

 

 

上の写真の中に書かれている数はロシア側の発表で、各用語は分かりやすいように、私が日本語訳を横に付けています。

バフムート(アルチョモフスク)での戦いが終わった2023.5.20時点でのデータです。

ロシア側の主な部隊はワグナーだけになっていますが、もちろん、ワグナーの兵士たちを後方から火器で支援するロシア正規軍がいます。ウクライナは実に多数の旅団が参加しています。上の写真で数えただけで33の旅団にもなります。通常、1つの「旅団」には3000~4000名の兵士がいますので、33旅団だと99,000~132,000人がバフムートに送り込まれたことになります。

 

そして、注目すべきは KIA(兵士の戦死者数)とKILLED(殺害された)で、戦死者39,000人、殺害されたのが23,000人 ですので、合わせて61,000人のウクライナ軍兵士がバフムートで死亡したことになります。(ウクライナ側死亡者数は65,000人に上るという話もこのビデオでは語られています。)そして多数の傭兵がNATOや世界各地から、ウクライナ側兵士として参加していましたが、それらの海外傭兵、契約兵士も約6,500人が死亡しました。(海外傭兵死亡数の情報元はこのビデオ)

 

61,000人のウクライナ人兵士の死亡者数を、先に挙げたバフムートでの戦闘に参加したウクライナ軍兵士数の99,000~132,000で割って100を掛ければ、死亡率が46~62%程度にまでになります。 送り込まれた兵士の半数前後が死亡 というのは かなり恐ろしい数字ではないでしょうか。

 

この数字がどんなに深刻かというと、第二次世界大戦での日本陸軍兵士の24.22%、日本海軍兵士の19.76% という数字を上げれば分かることです。(日本兵の死者数割合はWikipediaを参照しました。)

 

ちなみに、ロシア軍のほうの損害の数字が発表されていないので分かりませんが、ワグナーの兵士は 昨年夏に刑務所からも志願者を集めて、一番最多の時でも合計50,000人しかいませんでした。刑務所からリクルートされた兵士のほとんどは半年のみの契約期間です。ですから、すでに契約が切れて家に帰った兵士も多く、ワグナーの兵士の人数はその後は3~4万人しかいない状態です。

 

バフムートのような高いビルが要塞のように立ち並ぶところでは まずはロシア正規軍がビルを爆弾やミサイルで焼き尽くして廃墟のような状態にしてから、突撃部隊であるワグナーの兵士がライフル銃を手にビルの中に入って行く というやり方を取っていますので、ワグナーも ウクライナ軍兵士が隠れている中を闇雲に突っ込むような自殺行為は行いません。

ただ、ビルに突撃した時に ウクライナ軍兵士がビルから退却する時に仕掛けた地雷が ワグナー兵士の突撃時に爆発したり、ウクライナ軍が仕掛けた大きな爆薬が爆発してワグナーの兵士がビルごと吹き飛ばされたこともありますので、ワグナーが負った損失も小さくはないと思います。

 

ただ、上の数字で分かる通り、もし3~4万人しかいないワグナー兵士の過半数とかがバフムートでの戦闘で死亡したならば、通常負傷者数が死者数の2~3倍出るということを考えれば、毎日ワグナーの兵士が進軍するということは不可能になるはずです。

ですが、ワグナーは 防御側に有利な高いビルが立ち並ぶこのエリアを 毎日少なくとも数百メートル、多い時は数キロメートルを進軍して、最終的に100%掌握にまで至ったわけです。ですから、彼らの死者数の具体的な数字までは分かりませんが、ウクライナ側の損失に比べれば、かなり小さいのだろうと予想はできます。

 

そして、ウクライナ軍にとってもう1つ大きな悪いニュースが ウクライナ軍最高司令官であるヴァレリー・ザルジニー氏の今の状況です。

5/8のロシア軍によるミサイル攻撃で死亡またはかなり重篤な状態である可能性が高く、それ以降、ザルジニー氏は公の場に姿を見せていません。

Skypeで遠隔地から参加するはずだったNATOの会議にまで出席せず、その後、部下の結婚式に出席していたのでその会議を休んでいた とか、キプロスでバカンスを過ごしている とか、いくつかのザルジニー氏健在をアピールする写真やビデオがネットに出てきたようですが、それらの撮影された日が 全部古いものであるようです。

 

 ↓

Voenkorは、AFU(ウクライナ軍)の司令官の危篤状態を発表した。

ヴァレリー・ザルーズニーはキエフの主要な軍事臨床病院にいる。

「彼の人生のための闘争は、外国の専門家の参加を含め、そこで続いている」とAndrey Rudenko記者は述べている。

 

AFUの指導部の情報源から彼によると、ザルジニーは5月8日にドニプロペトロフスク地方のAFUの東部グループの司令部の一つを訪問している間に重傷を負ったとのことです。軍のパニックを防ぐため、情報は隠されている。

 

 

上のtwitterでの情報が本当かどうかは分かりませんが、ロシア軍は指揮官が死亡した場合、すぐに発表しているのに対し、ウクライナ軍は 最高指揮官の長期不在に対して「何か」を隠している という印象が否めません。

 

ザルジニー氏は 一般のウクライナの方々の中では むしろ国の代表のゼレンスキー氏よりも人気があった という話もあり、そのザルジニー氏が もしも指揮を取れない状況 となると、ウクライナ軍全体の士気低下にもつながりかねない懸念があります。ですから NATOもウクライナも ザルジニー氏が まだ健在だ ということを言い続けなければならないのでしょうが、録画されたビデオの投稿とか写真や記事ではなく、生身の彼がどこかで姿を現さない限りは 死亡または重篤な状況 という噂は消えないと思います。