アミノ酸のひとつで、血圧を下げたり気持ちを落ち着かせてよく眠れるようにする等の目的で健康食品として販売されているGABA(γーアミノ酪酸)に Covid感染症による重症化や死亡のリスクを大幅に改善するというマウスでの実験結果が発表されているようです。

 

マウスでの実験 とは言っても、この研究を行った研究チームは GABAを何らかの理由で摂取している人間のCovid患者に なぜか 重症(人工呼吸器での酸素吸入)や死亡の率が少ないことを不思議に思ったことから、マウスの実験を始めた ということですから、今後 ヒトでの研究がもっと必要では有るものの、マウスでの実験だから・・・と馬鹿にできない興味深い内容となっています。 本日はその研究内容、結果を下のリンク先のビデオの内容の和訳でご紹介します。

 

 

 

 

本日の内容も 免疫学の博士のDr. Beenの手書きのイラストをキャプチャしたものをここで使わせていただきます。

 

 

 

上のイラストはこの研究の要約です。

遺伝子操作をしてCovidのスパイクプロテインがくっつくように肺の上皮細胞にACE-2受容体を持つマウスを人工的に作り、そのマウスを2つのグループに分け、1つのグループ(コントロール群)のマウスには餌と清浄な水を与え、もう1つのグループ(GABA投与群)には同じ餌と、水の中にGABAを混ぜたものを与えました。

そうすると、ウィルス量、重症化、肺の炎症、死亡を抑える効果がいずれも劇的に改善された というものです。

GABAを与えなかったコントロール群はCovid感染から7日以内に ウィルス量も多く、炎症も、重症化も大きなものになったのに対し、水に0.2mg/mL または 2mg/mL と2段階の濃度でGABAを与えた群では ウィルス量、重症化、肺の炎症、死亡を抑える効果が劇的に改善されました。(どの程度改善されたかは後で書きます)

 

マウスの肺の炎症については 上のイラストの向かって左側のコントロール群の赤い色のマウスの肺の大きさと、右側のGABA投与群のグレーのマウスの肺の大きさを見て下さい。赤い色のマウスのほうが肺がかなり大きくなっていますが、これは肺に炎症を起こして水が溜まって大きくなったものです。このようにCovidに感染したコントロール群のマウスの多くは肺炎を起こしてしまいました。

 

 

上のイラストの、上がコントロール群(普通の清浄な水を与えたマウス)は7~8日後に80%が死んでしまいました。

下の、GABAを0.2mg/mL または 2mg/mLの濃度で与えた群は7~8日後、20%のみが死亡しました。

 

 

 

このマウスに与えたGABAの量、0.2mg/L または 2mg/L というのを 人間には どれだけの量のGABAを摂取すればよいか を推定したのが上の写真です。

人間だと、70kgの体重の人で 1日に0.68gのGABAを摂取すればよい ということですが、これは安全な量として知られています。

 

 ↓(和訳)

この研究にはたくさんの制約がある。まず、K17-hACE2マウスモデルはSARS-CoV-2感染とヒトでの免疫応答モデルで不完全なモデルである。
2番目にGABAの免疫細胞と肺細胞へのインパクトはマウスとヒトでは違う可能性がある。3番目に、GABAでの治療は病気のプロセスの中で特定の時間だけが有益なのかもしれず、他の時間だと(有益性が)下がるかもしれない。
したがって、もし、そのGABA受容体刺激薬治療がCovid-19の患者に何か有益な効果がある場合、タイムウィンドウと投与量を決める為に慎重な臨床試験が必要である。

 

つまり、マウスでの結果が完全にヒトでも当てはまるとは言えず、ヒトでの慎重な臨床実験がこれから必要 ということです。

 

 

これはGABAが免疫にどのように作用するかのイラストです。

一番左上にあるグレーの色のが 樹状細胞、マクロファージです。これらは異物を見つけたら触手をのばして取り込む働きを持ちます。

その下にあるグレーはNK細胞(ナチュラルキラー細胞)で、これも異物を見つけたら攻撃する働きがあります。

樹状細胞、マクロファージと連携することで働くのがその右側に有る赤い色で書いてあるヘルパーT細胞で、これが別のヘルパーT細胞(その右側のグレーの丸い細胞)と連携してインターロイキンやインターフェロン等の「サイトカイン」と呼ばれる免疫を活性させるタンパク質を産生し、一番右の青い色のB細胞は抗体を産生します。

サイトカインには 炎症誘発性サイトカインと抗炎症性サイトカインがあるのですが、GABAの受容体は免疫細胞にも存在し、GABAの摂取により受容体が活性化されると、免疫系はその行動を変え、炎症性から抗炎症性へと変化するとのことです。

 

ビデオの中では 他にもGABAがどのように作用してマウスのCovid感染からの回復に役立ったのか、研究者が推測した仮説が述べられていますが、それについてはまだ仮説ですし、話が難解になってくるので割愛させていただきます。(ご確認されたい方はビデオを御覧ください。)

また、論文の原文が読みたい方も リンク先のビデオの概要欄に論文へのリンクがありますのでご参照下さい。

 

マウスでの実験とは言え、水にGABAを混ぜた群が20%の死亡率でコントロール群が80%の死亡率という大幅な差があるということと、一部の海外ではGABAは食品ではなくて医薬品になっているものの、日本も含めて多くの国では GABAは食品の一種であり、価格も安く入手できる というところが有望な点ですね。

 

この実験は ヒトでの臨床試験を今から行うのでしょうから、どのような結果になるのか、またビデオで公開されれば、チェックしたいと思います。