鳥取県から東京へ帰る途中、山陰道(国道9号線)兵庫県で山岳地帯に入る。
あまり高くない山地の中を川が流れ、その周囲に細長い平地の広がる中国地方特有の地形だ。
これは兵庫県から山口県までどこでもそうだ。
町と町を結ぶ道路はその川沿いに網の目のように作られている。
最近は国道9号線を鳥取から兵庫県北部の神鍋高原を横切って、豊岡市のおりて京都府の福知山市の手前で合流するコースをとることが多い。
そのまま9号線を行くのとあまり変わらない。
ではなぜそのコースをとるかというと、その途中に卵かけご飯の店である但熊があるからだ。
しかしここにはもう一つの名物の近くを通る。
それは蕎麦の伝統を持つ出石だ。
今回はこの出石に寄ってみた。
出石は城下町だ。
戦国時代に豊臣秀吉の最初からの家来だった小出氏により始まった。
その後江戸時代にこれもかつて豊臣氏の家来であった仙谷氏が国替えにより信濃上田から入った。
小出氏も仙谷氏も秀吉の中堅どころの家来であるが、ここが大阪、京都に近いから信頼のできるものを城主として置くのは当然だろう。
出石のそばはこの仙谷氏が信濃から持ち込んだことによって始まった。
従って江戸時代から続く伝統的な郷土料理ともいえる。
これは店の名前である。目立ったから入った。
出石そばの特徴は五つの皿に蕎麦を分けて出されるということである。
小分けするところは盛岡のわんこそば、島根県出雲の割子そばと似ている。
出石そば一式が一度に出されるが、面白かったのはたれが徳利に入れられているということであった。
何か酒を飲んでいるという雰囲気になる。
出石そばは伝統を継承した現代の商標登録をしたそうなので、この形式や味などはたいていどこも同じだ。
だがそば自体は別に普通の蕎麦だ。
この出し方のマニュアルが出石皿そばの定義なのだ。
日本の蕎麦粉は何もか書いてなければ輸入そば粉、国産ソバ使用と書いてあれば北海道産、地元の蕎麦ならばはっきりとよく見えるように地物の使用と書いてある。
ここのそばにはそうした宣伝の文言は見られなかった。
ここの一皿当たりの分量はわんこそばより多く、割後そばよりは少ない。
卵を溶いたたれに付けて食べる。
生卵を入れると味がまろやかになる。
長崎県の五島うどんもそうした食べ方をしている。
卵かけご飯はもちろんすき焼きもそうだが、生卵をそのまま食べる日本の食文化を踏襲している。
これは外国にはない。
外国人が日本に来て驚くことの一つである。
ここのたれは関西地方なのに色が濃いことに気が付く。
卵を入れることが前提なのでわざとそうしているのか、元が信州上田なので、伝統的にそうなっているのかはわからない。
でも卵を入れるのが一般化したのは昭和30年代からだろう。
それ以前は卵は高級食材で、一個が今の値段では500円くらい、それに生ものには衛生上の問題もあった。
ここは全く普通の蕎麦だったが、自分としてはそばは山形の黒い冷やしそば、同じく出雲のこりこりの黒い割子そばにどうしてもこだわる。
出石神社やその上にある出石城址の見学は次の機会だが、出石の街中は高山や木曽山中のような古い町並みであった。
見学客も多い。
なおその後に但熊の前も通ったが、行列がありここは断念して卵だけを買った。