アリセプトの治験について(2)
前回の記事
(←こちらをクリック)の続きです。
今日は、
1)ダウン症者の症状はアルツハイマー型認知症なのか? について。
ダウン症の人は大人になってアルツハイマー型認知症になる確率が、健常者よりも高いこと。
老化が比較的若い年代から始まることが明らかになっています。
ところが、インターネットでダウン症研究の第一人者、菅野敦先生が講演で「自分は20年近く
ダウン症の方を診てきたが、アルツハイマー症状の人と会う機会は全然なかった」とおっしゃって
いて、これはどういうことだろう、と気になったのです。
アルツハイマー病の特徴
症状 もの忘れ(自分でもの忘れをしているという自覚なし)
病理所見 脳の観察(解剖・MRI・CT)
→①老人斑 (アミロイドβたんぱくの過剰生産が原因)
②神経原線維のもつれ
③神経細胞死 (とくにアセチルコリンを作るマイネルト核で顕著)
田平武、 『アルツハイマー・ワクチン』、2007年、中央法規出版会 より
むずかしい言葉や理屈はさておいて、脳みそに上のような特徴的なキズが
見られます。そして、アルツハイマーと診断されているダウン症の方にも、①と②の
特徴的なキズが同じく見られます。(これはお医者さんの立場からの見方)
しかし、菅野敦先生は、実際に患者さんの行動を観察したところ、どうもおかしいぞ
と思われました。
例えば、パジャマの上から洋服のズボンをはく、時や場所を考えずに洋服を脱いだり
着たりする。このような行動はアルツハイマーの人に典型的に見られるが、一度覚えたら
常にそのとおりに行動することを好むダウン症の人は、このような行動はしない。
外国で30歳以上のダウン症者はすべてアルツハイマーだとする報告もあるそうですが、
菅野先生は「自分は20年近くダウン症の方を診てきたが、アルツハイマー症状の人と
会う機会は全然なかった」、また、「症状をキチッと押さえていないでボーっとしている姿
を見て、ダウン症の人達はアルツハイマー病にかかりやすいと言っているんじゃないかな
という気がするんです。」とのこと。
症状が悪くなってから脳の検査をすると、前述のようにアルツハイマーと同じ特徴・キズが
認められるが、実はこのキズはダウン症者の場合、もっと子どものときからあるのではと
推測されています。つまり、同じ脳のキズの原因として、アルツハイマーと
ダウン症特有の別の病気の2種類があるのでは、という主張です。
「豊かな青年期・成人期を迎えるために」(2)
(←菅野先生の講演はこちらをクリック)
また、脳のキズが見られる部位がアルツハイマー病とダウン症者では違っているという
報告もあります。 ( 過去の蝉コロンの記事
より ←こちらをクリック)
そして、このダウン症特有の別の病気というのが、菅野先生が提唱された
「急激退行」です。
急激退行とは
ある時期にこれまでできていたことが比較的短期間にできなくなる現象。
20歳前後と20歳代後半に多い。
急に元気がなくなり引きこもりが始まり、日常生活への適応に様々な困難や支障を生じる。
今日の記事の要点は、
1)ダウン症者の青年期・成人期の大きな病気として、
「アルツハイマー型認知症」と「急激退行」の2つがあること。
2)アリセプトの治験は、ダウン症者の「急激退行」への有効性を
確認するために行われること。
※アリセプトは現在アルツハイマー型認知症の進行を抑える薬であるが、同時に
ダウン症の急激退行にも効果があると考えられる。急激退行への効果に
対して大きく期待されている。
補記:菅野先生の講演ではダウン症者の脳についての発症以前の検査が行われていない
という現状が述べられていますが、(それよりかなり後の段階で書かれた)
田平氏の本によれば、ダウン症の脳をいろんな年齢で調べた調査があるそうです。
出典は不明です。外国の事例でしょうか。
この調査の結果、アルツハイマーの発症の時間的推移に関して、
老人斑の出現→(約10年)→神経原線維変化の出現→(約10年)→
認知症の症状の出現。という順序が明らかになったとのこと。(同書、74頁)
アルツハイマーを防ぐには、おおもとの老人斑の防止=アミロイドβたんぱくの
異常増殖をどう抑えるかがカギだという方向性が見えてきた。