今もまだマイコプラズマ肺炎が流行中です。ちょっとピークを過ぎた感はありますが。現時点では小児科外来を受診した肺炎例の多くがマイコプラズマ肺炎ですが、マイコプラズマが流行していない時期は、現在は多くの小児の肺炎はウイルス性です。昔は肺炎球菌やHibによる細菌性肺炎が多かったのですが、ワクチンにより激減しましたね。

今回ご紹介する論文はアメリカからの報告で、小児の肺炎に対し抗菌薬を使わなかった例と使った例で比較したものです。まずは引用を。

 

『米国California大学San Francisco校のDaniel J. Shapiro氏らは、外来で肺炎と診断され、抗菌薬を使用した小児患者と使用しなかった小児患者の傾向スコアをマッチさせて、アウトカムを比較する後ろ向きコホート研究を行い、抗菌薬を使わなかった小児の割合は約20%だったが、治療失敗や重症化した割合はわずかで、大半の患者は抗菌薬なしで管理可能だったと報告した。結果は2024年10月29日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。

 小児の肺炎患者では多くにウイルス感染が認められ、米国感染症学会のガイドラインは、外来で治療可能な就学前の小児の肺炎には通常、抗菌薬の投与は不要であるとしている。しかし、抗菌薬を処方しないことを支持する明らかなエビデンスがないために、大半の症例で細菌の重複感染の可能性を懸念した抗菌薬投与が行われている。そこで著者らは、外来で肺炎と診断された小児のうち、抗菌薬が投与されない症例の頻度を調べ、投与された小児とアウトカムを比較する後ろ向きコホート研究を実施した。

 組み入れ対象は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが起こる前の2017年1月1日から2019年12月31日までに、外来を受診して肺炎と診断された生後1カ月~17歳のメディケイドを受給している小児患者。対象者が経口抗菌薬の処方を受けたか、初回の受診日または翌日までに調剤したかを調べた。処方箋は発行されたが調剤を受けなかった小児も投与なし群に含めた。なお、抗菌薬の処方期間が3日未満または14日以上だった患者は、市中肺炎の治療としては不自然なため除外した。

 主要評価項目は、受診日の翌日から14日後までの治療失敗とした。失敗の定義は、(1)肺炎による入院、(2)肺炎による救急受診、(3)救急または外来再受診での抗菌薬調剤、(4)複雑性肺炎(胸膜ドレーン留置、肺炎随伴性胸水、膿胸、壊死性肺炎、肺膿瘍)──とした。副次評価項目は、肺炎による入院と複雑性肺炎を合わせた重症アウトカムとした。

 抗菌薬の投与群と投与なし群から、傾向スコアの最近傍法でマッチする組み合わせを1対1の割合で選びだした。マッチさせた条件は、年代(1~4歳、5~12歳、13~17歳)、民族や人種、喘息の診断歴、外来の種類、過去12カ月の入院歴、インフルエンザシーズンか否か、初回受診日に受けた検査やX線画像などとした。

 期間中に肺炎と診断されていた10万3854人の小児患者を分析対象にした。年齢の中央値は5歳(四分位範囲2-9)で52.6%が男児だった。8万3419人(80.3%)が受診日またはその翌日に抗菌薬の投与を受け、2万435人(19.7%)が投与なしと判定された。

 傾向スコアがマッチした4万454人(2万227ペア)での治療失敗は、投与なし群の2167人(10.7%)と投与群の1766人(8.7%)に認められ、リスク差は1.98パーセンテージポイント(95%信頼区間1.41-2.56)だった。

 重症アウトカムは、投与なし群の230人(1.1%)と投与群の133人(0.7%)に発生しており、リスク差は0.46パーセンテージポイント(0.28-0.64)になった。重症アウトカムは、平均3.9日(標準偏差2.7)後に発生していた。重症アウトカムを経験した患者の年齢は中央値で4歳(四分位範囲1-7)だった。

 これらの結果から著者らは、外来で肺炎と診断された小児患者のうち、診断日または翌日に抗菌薬を使用しなかった割合は約20%で、治療失敗リスクは処方を受けた小児に比べわずかに高かったが、重症アウトカムの発生はまれだったと結論している。この知見は、肺炎と診断された小児でも抗菌薬なしに管理できる症例が少なくないことを示唆しており、そうした患者を同定するための前向き研究が必要だと述べている。』

 

以上です。抗菌薬処方の有無で予後に大きな差は無かったけど、処方群の方がちょっと良かったということですね。まあウイルス性肺炎が多いのでさもありなんといったところです。ちなみに私の場合は肺炎を見つけた際、必要に応じて血液検査やマイコプラズマ抗原や抗体、RSVなどのウイルス検査を行い、細菌性肺炎を疑えば抗菌薬を投与することが多いです。

小児の市中肺炎外来患者、抗菌薬不要例が多い可能性:日経メディカル