コロナ禍の最中では、季節外れのインフルエンザが流行ったりしてずいぶん他の感染症のパターンも乱れましたが、またインフルエンザの季節性が戻ってきている印象です。不思議なものですね。次のインフルエンザシーズンは例年のごとく、年末ぐらいからになるでしょうが、ちょっと注意すべき情報がありました。まずは引用を。

 

『米国の保健当局が、米国内で2つの変異を併せ持つH1N1インフルエンザウイルスの感染者が2例、確認されたことを報告した。米疾病対策センター(CDC)の研究グループによると、この変異株は、ウイルス表面のタンパク質であるノイラミニダーゼの2カ所に変異(I223VとS247N)を持ち、代表的な抗インフルエンザウイルス薬であるオセルタミビル(商品名タミフル)の効果を減弱させる可能性があるという。このインフルエンザウイルスの二重変異株に関する研究グループの分析結果は、CDCが発行する「Emerging Infectious Diseases」7月号に掲載された。

 この最新の分析結果は、2024年3月に香港の研究グループが「The Lancet」に発表した、これら2つの変異がオセルタミビルへの耐性を高めている可能性があることを示した報告書に続くものだ。CDCの研究グループによる実験では、この二重変異株のオセルタミビルに対する感受性は、これまでのいくつかのインフルエンザウイルスの変異株と比べて最大で16倍低いことが示された。

 ただしCDCは、現時点ではパニック状態になる必要はないとの見解を示している。CDCのスポークスパーソンはCBSニュースの取材に対して、「この二重変異株は、より新しい薬であるバロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)などのオセルタミビル以外の抗インフルエンザウイルス薬に対する感受性は保持していた。そのため、直ちに現在の臨床判断を変える必要性はない」と話すとともに、ワクチン接種はこの二重変異株に対しても保護効果があるとしている。

 CDCの報告書によれば、「この二重変異株は、複数の大陸の国々に急速に広がっている」ものの、現時点ではまだまれだという。二重変異株は、2023年5月にカナダのブリティッシュコロンビア州の症例で初めて確認されて以降、アフリカ、アジア、欧州、北米、オセアニアから総計101症例が報告されているとCBSニュースは報じている。米国の2症例は、2023年の秋から冬にかけてコネチカット州保健局とミシガン大学の研究室で検出された。

 CDCのスポークスパーソンは、「次のシーズンにこの二重変異株がどの程度流行するかは不明だ。同ウイルスの感染拡大と進化の状況について監視を続けることが重要だ」と話している。

 CDCによると、オセルタミビルは最も広く使用されている抗インフルエンザウイルス薬である。2023年に「Pediatrics」に発表された研究によると、小児に処方される抗インフルエンザウイルス薬の99.8%をオセルタミビルが占めているという。また、CBSニュースは、2024年に酪農場で発生し、現在も流行が続いている鳥インフルエンザに感染した人の治療にもオセルタミビルが使用されていると報じている。』

 

以上です。オセルタミビル(タミフル)は内服薬であるため、リレンザやイナビルなどの吸入薬よりも小児に処方しやすく、ゾフルーザのように耐性化しやすいとわけでもないので、私も殆どのケースでタミフルを処方していますが、この変異が広まると厄介ですね。今後の情報に注視したいと思います。

記事ではこの変異があってもゾフルーザなら影響なしと書かれていますが、そもそもゾフルーザ自体が耐性化しやすいとされていますので、ゾフルーザが第一選択となればゾフルーザ耐性インフルエンザウイルスが流行るのはまず間違いないので、悩ましいところです。まあ本来はインフルエンザも基礎疾患のない小児や若年者にはそれほど怖い病気ではないので、全例にタミフルなどの抗インフルエンザ薬を処方する必要はないのですが、日本では希望される方が大半ですし、軽症で本人や母親はインフルエンザ薬はいらないと帰った後で、家族から「なんで処方しなかったんだ」とクレームが入ったことも1度や2度ではないので、「処方しない努力」が馬鹿らしくなります。でもまあ面白いことに、必ずしも耐性菌や耐性ウイルスが一気に感受性菌、感受性ウイルスを駆逐するというわけでもないので、注意深く見守ろうと思います。

2つの変異を持つインフルエンザウイルス、タミフルが効きにくい可能性も|医師向け医療ニュースはケアネット (carenet.com)