子どものお尻をふくとき、前から後ろに拭くように指導された方も多いと思います。後ろから前に拭くと、便についた大腸菌などの細菌が尿道口付近に付いてしまい、尿路感染を起こす原因となると言われているからです。まあそりゃそうだろうなと思っていたのですが、実際のデータというのは私もこれまで見たことがありませんでした。

今回ご紹介するのは成人女性において、後ろから前に拭く習慣の人は尿路感染のリスクが高かったというものです。まずは引用を。

 

『東北大学病院総合地域医療教育支援部の赤石哲也氏は、トイレで排泄後の肛門部の拭き方と尿路感染症(UTI)発症リスクとの関連を検討する横断観察研究を実施。その結果、UTI発症率は男性と比べて女性で有意に高く、女性の約半数が両足の間に前から手を入れて後ろから前に向かって拭いており、40~59歳の中年女性ではこの拭き方がUTIの危険因子になりうることが統計学的に初めて示唆されたCureus2024; 16: e58107)に発表した(関連記事「下部尿路症状、一般内科外来での診断ポイント」)。

 

 対象は、2020年4月~23年3月に気仙沼市立病院付属本吉医院(宮城県)または東北大学病院を受診し、排泄後の肛門部の拭き方(両足の間に前から手を入れて後ろから前に向かって拭く、手を後ろに回して前から後ろに向かって拭く)とUTIに関する自己記入式質問票に回答した、男性141例(年齢中央値47歳)と女性153例(同48歳)の計294例。

 解析の結果、経口抗菌薬の投与を要したUTIの生涯イベント数は男性と比べて女性で有意に多かった〔中央値0(四分位範囲0~0) vs. 同0(0~2)、P<0.0001、Mann-Whitney U test〕。また、排泄後に両足の間に前から手を入れて後ろから前に向かって拭く習慣を有する割合は、男性の23%に対し女性では44%と有意に多かった(P=0.0001、Fisher's exact test)

 男女とも、生涯UTIイベント数と糖尿病既往歴との有意な関連が認められたが(男性でP=0.0096、女性でP=0.0307)、排泄後の肛門部の拭き方との有意な関連は認められなかった(男性でP=0.1134、女性でP=0.7719)。

 

 サブグループ解析では、40~59歳の中年女性においてUTIと排泄後の肛門部の拭き方との有意な関連が認められ、両足の間に前から手を入れて後ろから前に向かって拭く習慣を有する者で生涯UTIイベント数が有意に増加していた(P=0.0011、ANCOVA)。一方、40歳未満の女性では同様のイベント増加は認められず、長期にわたる排泄後の衛生習慣がUTI発症に影響する可能性が示唆された。

 以上の結果から、赤石氏は「UTI発症率は男性と比べて女性で有意に高く、女性の約半数が排泄後に両足の間に前から手を入れて後ろから前に向かって拭いていた。この拭き方は中年女性においてUTIの危険因子になる可能性があり、後ろに手を回して前から後ろに向かって拭く習慣に改めた方がよいだろう」と結論している。』

 

以上です。この論文では40~59歳の女性で、後ろから前に拭く習慣の人でリスクが高く、男性や40歳未満の女性では特にリスクの上昇はなかったということでした。まあいずれにせよ「後ろから前に拭く」べき理由は見当たらないので、そういう習慣の人は性別年齢にかかわらず、「前から後ろに拭く」ように改めた方がよいと思われます。

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