RSウイルスと言えば乳幼児で細気管支炎や肺炎の原因となるウイルスとして有名です。特に乳児ではRSウイルス感染の25%ぐらいが入院が必要となりますので厄介です。更にうつりやすく、有効な治療法もないため厄介です。保育所などでもよく流行りますね。だから軽い風邪の症状でもRSウイルスが心配だから調べてほしいとか、保育所から調べるように言われたと受診される方がいますが、後述しますがそもそも1歳以上の方には外来検査の保険適応がないですし、分かったところで治療法もなく予防法も他の風邪と変わりがないので、あまり調べる意義はないと言えます。

そんなRSウイルスですが、今回ご紹介する記事ではむしろ高齢者の疾患として重視する必要がありそうです。長文ですので抜粋してご紹介します。

 

『RSウイルス(RSV)感染症は、小児の感染症として捉えられがちであるが、実際には成人や高齢者の罹患(再感染を含む)が多く、重症化・死亡に至る例も少なくない1)。文献レビューとメタ解析に基づく研究によると、日本では60歳以上のRSV感染症は年間約70万例発生し、このうち入院が約6万3,000例、入院例中の死亡は約4,500例と推定されている2)。それに対し、小児の受診例は2021年には約22万7,000例と報告されており3)、日本でもRSV感染症は小児より成人・高齢者に多いことが認識されつつある。このような背景から、近年は感染予防を目的とした抗体薬やワクチンを中心に開発が進み、診療ツールがそろい始めてきた(関連記事:朗報!60歳以上対象にRSVワクチンが本日承認)。本稿では、RSV感染症の最新知見を踏まえ、診療技術の進歩をキャッチアップするとともに残された問題点を見直し、RSV感染症診療の将来を展望したい。

 

 RSV感染症の重症度に関し、髙橋らは自験例の解析を行い、成人のRSV関連肺炎例では同一期間中のインフルエンザ関連肺炎に比べ入院数が多く(43例 vs. 25例)、平均年齢や呼吸器症状の重症度は高く、平均入院期間も長かった(30.0日 vs. 15.2日)と報告している4)。この期間中、全肺炎例に占めるRSV関連肺炎例の割合は5.3%であったが、冬季の流行期は14.6%に増加したという。細菌との重複感染例は60%以上に上り、特に肺炎球菌との合併が多く、流行のピーク時には肺炎球菌肺炎例の20%がRSVとの重複感染であった。また、RSV関連肺炎例のうち21%は初診や紹介受診の時点で誤嚥性肺炎と診断されていたことから、同氏は「RSV感染症は見逃されている可能性が高い」と指摘しており、これは感度が低いといった検査・診断の抱える問題点に起因すると思われる(関連記事:健康寿命延伸に寄与、RSVワクチンへの期待)。

 RSV関連肺炎の死亡率は、急性期においては10%以下でインフルエンザ関連肺炎と同等だったが4)、高齢者では気管切開や胃瘻造設が行われたり、寝たきりになるなど日常生活動作(ADL)の低下を招きやすい。そのため、罹患後1年間の死亡率は急性期の4~5倍に及ぶ5)

 それでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と比べてはどうだろうか? Surieらは2022年2月~23年5月に、米国20州の急性期病院25施設に入院した60歳以上のRSV感染症患者304例、COVID-19患者4,734例、インフルエンザ患者746例を対象に、治療の対応を比較する前向き疫学調査を行った6)

 その結果、通常の酸素投与(30L/分未満)を必要としたのはRSV感染症で79.7%、COVID-19で58.2%、インフルエンザで65.8%(P<0.001)、同様に高流量酸素投与(30L/分以上)または非侵襲的陽圧換気はそれぞれ23.0%、11.7%、13.7%(P<0.001)、集中治療室(ICU)入室は24.3%、17.3%、16.8%(P=0.05)で、いずれも他の2疾患と比べRSV感染症で有意に頻度が高かった。また、挿管による人工呼吸管理または死亡は13.5%、10.2%、7.0%(P=0.07)と3疾患間に有意差はなかったものの、RSV感染症はインフルエンザと比べ有意に頻度が高かった(調整オッズ比2.08、P=0.001)。

 以上を踏まえると、3疾患の中ではRSV感染症が最も重症化しやすいといえよう。

 

 RSV感染症の診断としては、迅速抗原検出キットを用いた診断法があるものの、RSV感染症がもっぱら小児、特に乳児の感染症と考えられてきた経緯もあって、保険適用は1歳未満の乳児や入院中の患児、早産児、2歳以下の慢性肺疾患・先天性心疾患・ダウン症候群・免疫不全の小児への使用に限られている。また、成人・高齢者では排出ウイルス量が乳幼児の約1,000分の1と少なく、排出期間も短いため陽性となりにくいことから、同キットでの陽性検出率は2割程度にとどまる5)。診断精度の向上には、複数回の検査やペア血清による抗体価測定との組み合わせの他、COVID-19の流行を契機に普及したPCR検査機器の活用なども考えられるが5)、感度・特異度を高めた安価な迅速抗原検出キットの実用化とともに、成人・高齢者に対する保険適用の拡大が喫緊の課題である。

 

 ~中略~

 

 一方、抗体薬については開発が進み、発症予防としての使用に限られるが現時点で2つの抗RSVヒトモノクローナル抗体製剤がある。アストラゼネカ社のパリビズマブ(商品名シナジス)は、12カ月齢以下の早産児、24カ月齢以下の先天性心疾患や免疫不全およびダウン症候群児などの乳幼児を対象に保険適用が認められており、RSV感染流行期に月1回投与をする。今年(2024年)3月に承認、5月22日に発売されたアストラゼネカ社/サノフィ社のニルセビマブ(商品名ベイフォータス)は、前記の重症化リスクの高い乳幼児(保険適用)だけでなく、それ以外の全乳幼児(保険適用外)が対象になり、1回投与で流行期の1シーズンをカバーできる長期間作用性を特徴とする。

 英国、フランス、ドイツの3カ国で行われた第Ⅲb相非盲検ランダム化比較試験HARMONIE7)では、パリビズマブが適応とはならない生後12カ月齢以下の健康な乳児をニルセビマブ投与群4,037人と対照群4,021人にランダムに割り付け、流行期におけるRSV関連下気道感染症による入院を主要評価項目としてニルセビマブの有効性を評価した。その結果、入院はニルセビマブ群で11例(0.3%)、対照群で60例(1.5%)、予防効果は83.2%(95%CI 67.8~92.0%、P<0.001)であった。国別の予防効果を見ると英国で83.4%、フランスで89.6%、ドイツで74.2%と、診療環境が異なっても効果は近似していた。また、有害事象の発現率も両群で同等だったことから、安全性プロファイルは良好と結論されている。』

 

以上です。だいぶ省略しましたがそれでも長いですね。というわけで、私的に重要と思われるポイントを列記してみます。

 

・日本では60歳以上のRSV感染症は年間約70万例発生し、このうち入院が約6万3,000例、入院例中の死亡は約4,500例(小児では年間23万例ぐらい)。

・成人のRSV関連肺炎例では同一期間中のインフルエンザ関連肺炎に比べ入院数が多く(43例 vs. 25例)、平均年齢や呼吸器症状の重症度は高く、平均入院期間も長かった(30.0日 vs. 15.2日)

細菌との重複感染例は60%以上に上り、特に肺炎球菌との合併が多く、流行のピーク時には肺炎球菌肺炎例の20%がRSVとの重複感染であった。

・米国20州の急性期病院25施設に入院した60歳以上のRSV感染症患者304例、COVID-19患者4,734例、インフルエンザ患者746例を対象に、治療の対応を比較する前向き疫学調査ではいずれも他の2疾患と比べRSV感染症で有意に頻度が高かった

成人・高齢者では排出ウイルス量が乳幼児の約1,000分の1と少なく、排出期間も短いため陽性となりにくいことから、抗原迅速キットでの陽性検出率は2割程度にとどまる。

・今年3月に承認、5月22日に発売されたニルセビマブ(商品名ベイフォータス)は重症化リスクの高い乳幼児だけでなく、それ以外の全乳幼児(保険適用外)が対象になり、1回投与で流行期の1シーズンをカバーできる長期間作用性を特徴とする。

・英・仏・独で行われたRSV関連下気道感染症による入院を主要評価項目にしたランダム化比較試験で入院はニルセビマブ群で11例(0.3%)、対照群で60例(1.5%)、予防効果は83.2%(95%CI 67.8~92.0%、P<0.001)であった。

 

以上です。これでも結構多いですが、内容が濃いですね。これからするとRSウイルスは乳幼児と高齢者の疾患という感じです。抗原検査は成人では感度が低すぎてちょっと使えないですね(まあ分かったところで特に治療法もないんですが)。今年から使えるようになったニルセビマブはかなり期待できそうです。あと、ここでは省きましたがワクチンの有効性も明らかになっており、妊婦(新生児のRSウイルス感染予防目的)や高齢者のワクチン接種が有効です。

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