今日はちょっと専門的な話をします。ネフローゼ症候群という病気があります。腎臓病の代表格の一つですから、聞いたことはあるという方も多いのではないでしょうか。多くは原因不明で、蛋白尿が出たり体がむくんだりする厄介な病気です。これまでも局所から免疫複合体が見つかったり、ステロイドや免疫抑制剤が有効だったりと、自己免疫疾患っぽい病気ではあったのですが、ようやく原因(の一つ)がはっきりしたようです。まずは引用を。

 

『成人の微小変化型と原発性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、および小児の特発性ネフローゼ症候群は、ネフローゼ症候群を引き起こす免疫介在性のポドサイト障害(podocytopathy)とされる。ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのFelicitas E. Hengel氏らは、循環血中の抗ネフリン抗体(自己抗体)は、微小変化型または特発性のネフローゼ症候群の患者に多くみられ、これらの疾患の活動性のマーカーと考えられるとともに、スリット膜でのこの抗体の結合がポドサイト(糸球体上皮細胞[足細胞])の機能障害とネフローゼ症候群を誘発し、これは病態生理学的な意義を示すものであることを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年5月25日号で報告された。
 

 研究グループは、糸球体疾患(微小変化型、FSGS、膜性腎症、IgA腎症、抗好中球細胞質抗体[ANCA]関連糸球体腎炎、ループス腎炎など)の成人と特発性ネフローゼ症候群の小児、および対照群において、抗ネフリン自己抗体を解析する目的で多施設共同研究を行った(ドイツ研究振興協会[DFG]などの助成を受けた)。

 また、遺伝子組み換えマウスネフリンを用いた能動免疫法により実験的マウスモデルを作製して解析を行った。

 539例(成人357例、小児182例)の患者と117例の対照を解析の対象とした。
 

 成人患者では、微小変化型の105例中46例(44%)、および原発性FSGSの74例中7例(9%)で抗ネフリン自己抗体を検出したが、他の疾患の患者ではまれであった。

 また、特発性ネフローゼ症候群の小児患者では、182例中94例(52%)で抗ネフリン自己抗体を検出した。

 一方、免疫抑制療法を受けていない活動性の微小変化型および特発性ネフローゼ症候群のサブグループでは、それぞれ69%および90%と高い確率で抗ネフリン自己抗体を認めた。
 

 抗ネフリン自己抗体の値は、成人、小児患者とも、試験開始時と追跡期間中に疾患活動性と相関を示した。

 実験的な免疫法により、マウスにおいて、ネフローゼ症候群、微小変化型様の表現型、ポドサイトのスリット膜へのIgGの局在、ネフリンのリン酸化、重度の細胞骨格の変化を誘導することが示された。

 著者は、「抗ネフリン自己抗体の測定は、微小変化型および特発性ネフローゼ症候群の診断、治療評価、予後予測において有用なツールになると考えられる。また、ネフリンを標的とした治療法の開発にも貢献する可能性がある」としている。』

 

以上です。私的にキモは『免疫抑制療法を受けていない活動性の微小変化型および特発性ネフローゼ症候群のサブグループでは、それぞれ69%および90%と高い確率で抗ネフリン自己抗体を認めた』というところですね。未治療の特発性(遺伝性や薬剤性などの特定の原因がなく発症するもの。ネフローゼ症候群の多くはこれです)ネフローゼ症候群の9割に見つかったということですから、これが原因である、少なくとも強い関連があると言っていいと思います。ただ治療に関しては、当面はステロイドと免疫抑制剤を中心とした今の治療から大きくは変わらないように思いました。

抗ネフリン抗体、ネフローゼ症候群の活動性マーカーの可能性/NEJM|医師向け医療ニュースはケアネット (carenet.com)