通常ワクチン接種は皮下注射か筋肉注射が一般的です。わずかですがロタウイルスワクチンのような経口ワクチンや、今後日本でも認可される予定の点鼻のインフルエンザワクチンなどもありますが。今回ご紹介するのは、表題のごとく「貼るワクチン」です。貼り薬と言えば痛み止めのシップが一般的ですが、小児でもよくつかわれる気管支拡張剤(商品名:ホクナリン、ツロブテロールなど)やニコチン中毒患者用のニコチンパッチなどがありまが、「貼るワクチン」はちょっと画期的ですね。まずは引用を。

 

『予防接種の注射を嫌がる子どもに、痛みのないパッチを腕に貼るという新たなワクチンの接種方法を選択できるようになる日はそう遠くないかもしれない。マイクロニードルと呼ばれる微細な短針を並べたパッチ(microneedle patch;MNP)を腕に貼って経皮ワクチンを投与する方法(マイクロアレイパッチ技術)で麻疹・風疹ワクチン(measles and rubella vaccine;MRV)を単回接種したガンビアの乳幼児の90%以上が麻疹から保護され、全員が風疹から保護されたことが、第1/2相臨床試験で示された。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットで乳児免疫学の責任者を務めるEd Clarke氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に4月29日掲載された。

 Clarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術による麻疹・風疹ワクチン投与(MRV-MNP)はまだ開発の初期段階にあるが、今回の試験結果は非常に有望であり、多くの関心や期待を呼んでいる。本研究により、この方法で乳幼児にワクチンを安全かつ効果的に投与できることが初めて実証された」と語る。

 この臨床試験では、18〜40歳の成人45人と、生後15〜18カ月の幼児と生後9〜10カ月の乳児120人ずつを対象に、MRV-MNPの安全性と有効性、忍容性が検討された。これらの3つのコホートは、MRV-MNPとプラセボの皮下注射を受ける群(MRV-MNP群)とプラセボのMNPとMRVの皮下注射(MRV皮下注群)を受ける群に、2対1(成人コホート)、または1対1(幼児・乳児コホート)の割合でランダムに割り付けられた。

 その結果、ワクチン接種から14日後の時点で、MRV-MNP群に安全性の懸念は生じておらず、忍容性のあることが示された。MRV-MNPを受けた幼児の77%と乳児の65%に接種部位の硬化が認められたが、いずれも軽症で治療の必要はなかった。乳児コホートのうち、ベースライン時には抗体を保有していなかったが接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対する抗体の出現(セロコンバージョン)が確認された対象者の割合は、MRV-MNP群でそれぞれ93%(52/56人)と100%(58/58人)、MRV皮下注群では90%(52/58人)と100%(59/59人)であった。接種後180日時点でも、MRV-MNP群では91%(52/57人)と100%(57/57人)の対象者で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンを維持していた。

 一方、幼児コホートで、ベースライン時には抗体を保有していなかったが、接種後42日時点で麻疹ウイルスと風疹ウイルスに対するセロコンバージョンが確認された割合は、MRV-MNP群で100%(5/5人)、MRV皮下注群で80%(4/5人)であった。風疹ウイルスに対しては、研究開始時から全ての対象児が抗体を保有していた。

 こうした結果を受けてClarke氏は、「マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種としては麻疹ワクチンが最優先事項だが、この技術を用いて他のワクチンを投与することも今や現実的になった。今後の展開に期待してほしい」と話す。

 研究グループは、マイクロアレイパッチ技術によるワクチン接種が貧困国でのワクチン接種を容易にする可能性について述べている。この形のワクチンなら、輸送が容易になるとともに冷蔵保存が不要になる可能性もあり、医療従事者による投与も必要ではなくなるからだ。論文の筆頭著者であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院の医学研究評議会ガンビアユニットのIkechukwu Adigweme氏は、「この接種方法が、恵まれない人々の間でのワクチン接種の公平性を高めるための重要な一歩になることをわれわれは願っている」と話す。

 研究グループは、今回の試験で得られた結果を確認し、さらに多くのデータを提供するために、より大規模な臨床試験を計画中であることを明かしている。』

 

以上です。マイクロニードルという非常に細かい針を使うようなので、ちょっと湿布や気管支拡張剤のように完全に貼るだけとは言えないかもしれません。鍼(はり)治療を受けたことのある方はご存じかもしれませんが、非常に小さな針のついたパッチを貼る鍼治療はあります。私も腰痛で苦しんでいた時期にやってもらったことがあるのですが、そのパッチが効いたのかどうかはちょっとよくわかりませんでした。

引用文の最後の方に、「この形のワクチンなら、輸送が容易になるとともに冷蔵保存が不要になる可能性もあり、医療従事者による投与も必要ではなくなるからだ」と記載があり、途上国の医療に役立つことを期待されているようです。ちょっと個人的には冷蔵保存が不要となる理由がピンときませんが(フリーズドライかな?)。小児科医としては、ワクチンの痛みを減らすという意味では日本のような先進国でも有用な気がしますが、どれだけの間貼る必要があるのかとか、途中ではがれてしまった場合はどの程度効果が期待できるかはちょっと知りたい気がしました。気管支拡張剤のパッチもよく剝がれる子がいますし。

腕に貼る麻疹・風疹ワクチンは乳幼児に安全かつ有効|医師向け医療ニュースはケアネット (carenet.com)