世の中にはいろんなタイプの反ワクチン派がいます。一番多いのは新型コロナワクチン反対派ですね。まあ確かに副作用が強いのでわからなくはないですが、科学的に分析すると明らかにワクチン接種のメリットがデメリットを上回っていますので、合理性を欠く主張と言っていいでしょう。更に酷いのはHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)反対派ですね。HANSと呼ばれた一連のワクチン副作用は名古屋スタディという大規模スタディにより否定されましたし、HPVワクチンを打っている先進国では子宮頸がんの劇的な減少が報告されているのに、反対する意味が分かりません。で、一番ひどいのがすべてのワクチンに反対する人たちです。彼らの主張はもはやオカルトと言わざるを得ません。

今回ご紹介するのは、過去50年の全てのワクチン接種により、どれだけ子供の生存率が改善したかというものです。まずは引用を。

 

『1974年以降、小児期の生存率は世界のあらゆる地域で大幅に向上しており、2024年までの50年間における乳幼児の生存率の改善には、拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization:EPI)に基づくワクチン接種が唯一で最大の貢献をしたと推定されることが、スイス熱帯公衆衛生研究所のAndrew J. Shattock氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月2日号に掲載された。
 

 研究グループは、EPI発足50周年を期に、14種の病原菌に関して、ワクチン接種による世界的な公衆衛生への影響の定量化を試みた(世界保健機関[WHO]の助成を受けた)。

 モデル化した病原菌について、1974年以降に接種されたすべての定期および追加ワクチンの接種状況を考慮して、ワクチン接種がなかったと仮定した場合の死亡率と罹患率を年齢別のコホートごとに推定した。

 次いで、これらのアウトカムのデータを用いて、この期間に世界的に低下した小児の死亡率に対するワクチン接種の寄与の程度を評価した。
 

 1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。

 これは、ワクチン接種が90億年の生存年数と、102億年の完全な健康状態の年数(回避された障害調整生存年数[DALY])をもたらし、世界で年間2億年を超える健康な生存年数を得たことを意味する。

 また、1人の死亡の回避ごとに、平均58年の生存年数と平均66年の完全な健康が得られ、102億年の完全な健康状態のうち8億年(7.8%)はポリオの回避によってもたらされた。全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。
 

 世界の乳幼児死亡率の減少の40%はワクチン接種によるもので、西太平洋地域の21%からアフリカ地域の52%までの幅を認めた。この減少への相対的な寄与の程度は、EPIワクチンの原型であるBCG、3種混合(DTP)、麻疹、ポリオワクチンの適応範囲が集中的に拡大された1980年代にとくに高かった。

 また、1974年以降にワクチン接種がなかったと仮定した場合と比較して、ワクチン接種を受けた場合は、2024年に10歳未満の小児が次の誕生日まで生存する確率は44%高く、25歳では35%、50歳では16%高かった。このように、ワクチン接種による生存の可能性の増加は成人後期まで観察された。

 著者は、「ワクチン接種によって小児期の生存率が大幅に改善したことは、プライマリ・ヘルスケアにおける予防接種の重要性を強調するものである」と述べるとともに、「とくに麻疹ワクチンについては、未接種および接種が遅れている小児や、見逃されがちな地域にも、ワクチンの恩恵が確実に行きわたるようにすることが、将来救われる生命を最大化するためにきわめて重要である」としている。』

 

以上です。ポイントを書きだしますと、一つは『1974年6月1日~2024年5月31日に、14種の病原菌を対象としたワクチン接種計画により、1億5,400万人の死亡を回避したと推定された。このうち1億4,600万人は5歳未満の小児で、1億100万人は1歳未満であった。』という点ですね。特に1歳未満の子供の生存率改善に有効だったようです。もう一つの点は『全体として、この50年間で救われた1億5,400万人のうち9,370万人(60.8%)は麻疹ワクチンによるものであった。』というところです。最近、日本でも輸入感染症としての麻疹が話題になりますが、ほんの30年ぐらい前までは普通に麻疹患者がいました。私の研修医時代の同僚が麻疹で入院したり、川崎病を疑ったけど麻疹だったという症例もありました。ふと麻疹ワクチン効果が最も高かったのに、なぜ乳児の生存率の改善が最も大きいんだ?と思いましたが、国外では1歳未満から麻疹ワクチンを打ったりしているのかもしれませんし、殆どの人が麻疹ワクチンを打つことで麻疹自体が流行らなくなっていることが大きいのかなと思いました。

蛇足になりますが、わりと長いこと小児科をやっている者の意見としては、劇的な効果をもたらしたのはHibワクチン、肺炎球菌ワクチンです。これらが普及するまでは小児科の入院の半分以上は細菌性肺炎だったのですが、それが激減しました。またある程度の規模の病院であれば年間数人以上、細菌性髄膜炎という厄介な病気を診たものですが、Hib&肺炎球菌ワクチンの普及以降、殆ど見なくなりましたね。そんなふうにワクチンの効果を身をもって体験している身としては、科学的根拠もなくワクチンに反対している人たちには怒りすら覚えます。

ワクチン接種、50年間で約1億5,400万人の死亡を回避/Lancet|医師向け医療ニュースはケアネット (carenet.com)