御存じの方も多いかもしれませんが、私はよく外来で「意味のある迅速検査は溶連菌とインフルエンザだけ」と言っています。理由は単純で、特異的な治療法があるからです。迅速診で調べられる検査には他にもRSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、新型コロナウイルス、マイコプラズマがありますが、マイコプラズマを除きすべて基本的には対症療法になるため、検査で陽性が出ようが出まいが治療方針に影響がないんですね。唯一新型コロナだけは5日間の隔離ルールが残っていますから、状況に応じて調べればいいと思いますが。で、マイコプラズマも細菌ですし、ちょっと特殊な抗菌薬が必要なので調べる必要があると言えなくもないですが、これは検査の感度が悪いんですね。だからマイコプラズマ抗原迅速が陰性だからと言って、マイコプラズマ感染ではないとは言えません。したがって私の場合はマイコプラズマを疑えば、臨床症状とレントゲン(±血液検査)でマイコプラズマに矛盾しない所見であれば抗菌薬を使用することが多いです。

前置きが長くなりましたが、今日のテーマは「溶連菌検査の適応」です。前述のごとく溶連菌検査には意味がありますが、溶連菌が流行っているというだけで検査するとか、親が希望したから検査するというのは明らかに過剰です。ある医師用の掲示板で、小児科専門医の方が良いコメントをしていたので引用します。

 

『小児の溶連菌感染症の抗原検査においては親の希望があったとしても事前確率が高い場合か、保菌者であっても治療すべき状況の時に限定されるかと思われます。 IDSAのガイドライン(PMID: 22965026)や米国小児学会などは、基本的に3歳未満の小児におけるルーチンの抗原検査は推奨していません。理由としては3歳未満は溶連菌感染症が稀であること、リウマチ熱の発生頻度が非常に低いことなどが挙げられています。さらにこの年代は典型的な臨床症状を示さず臨床診断が困難とされています。 しかし、前述のようにそもそも発症頻度が低くかつ重篤な合併症頻度も少ないため基本的には検査は推奨されていません。ただし、確実に溶連菌感染症と診断されている兄弟がおり、3歳未満の溶連菌感染の症状(38.3℃以下の発熱、持続する鼻汁、リンパ節腫脹*3歳未満は全身性リンパ節腫脹もあり)を有する場合は検査を検討するとされています。自分はこの年代は基本的には検査しませんが、家族内で確実に診断されている場合で症状が長引く場合に検査を考慮しています。 また、3歳以上の小児の場合はCentorの診断基準に年齢補正を追加したMcIsaacの基準を使用し、0-1点の時は検査は不要とされています。鼻汁・咳嗽・結膜炎などウイルス症状を有する場合はこの年齢層では検査は推奨されていません(嘔吐・腹痛は溶連菌感染症の症状としてあり)。その上で身体所見として咽頭所見、特に口蓋垂を中心とした発赤や軟口蓋点状出血、猩紅熱様皮疹がある場合はより疑われます。猩紅熱様皮疹と軟口蓋点状出血は陽性尤度比が高いそうです(PMID: 22048053)。典型的な所見があり、かつウイルス症状がない場合、この年代は抗原検査を行い感染を判断するようにしています。 抗原検査は特異度は高いですが、保菌者もあぶり出してしまうためルーチンで検査を行うと不要な治療患者を増やしてしまうことになります(保菌者は基本的に治療不要)。流行時は20%の保菌者が出るとされているため注意が必要です(PMID: 22432746)。 ただし、溶連菌感染症後急性糸球体腎炎またはリウマチ熱の市中発生増加時、リウマチ熱の家族歴のある患者、適切な抗菌薬療法にもかかわらず家族内で症候性GAS咽頭炎が何週間にもわたって複数回発生した患者、頻回のGAS感染により扁桃摘出術が検討されている患者などは保菌者であっても除菌も考慮されるため検査を行っても良いかもしれません。 抗原検査は特異度が95%と高いものの感度は85%程度であるので、逆に事前確率が高いにもかかわらず抗原陰性の場合は咽頭培養が推奨されています(リウマチ熱の治療は9日以内が目安なので、深頚部感染症などなければ培養結果を考慮して治療を待っても良いかもしれません)。』

 

以上です。流行っているからとか希望されたからというだけで検査していては、ただ保菌しているだけの子(ここでは流行時で2割と書かれています。他には15~30%と書かれているものもあります)もひっかけてしまうんですね。だから私の場合は、症状と咽頭所見を確認して必要と判断した例にのみ検査しています。

溶連菌の迅速検査、適応の考え方は? | Docpedia | m3.com