今日はちょっと専門的な話になります。皆さんは「CRP」ってご存じですか? 発熱などで血液検査をした場合は多くのケースで説明されていると思います。いわゆる「炎症反応」の一つで、細菌感染で上がりやすいパラメーターの一つです。今回ご紹介するのは、そのCRPの正しい解釈の仕方を説明している記事です。専門的な内容ですが、簡単な言葉で書かれており、医療関係者じゃなくても分りそうな内容だったのでご紹介します。

 

『Q:「CRPが上昇している場合、臓器特異的パラメーターの異常がなくても抗菌薬を投与すべきか?」

 

A:のっけから、だいぶ込み入ったハナシになりそうな予感がしますが……。僕のスタンスということで聞いてください。

 まず、CRPが感染症の確定診断に役立つケースは極めてまれです。僕自身の少ない経験ではあるものの、CRPの値から何かを確定診断した例は正直思い付きません。

 本筋に入る前に、CRPが何たるかを簡単に説明しておきましょう。先生方は「CRPって何?」という質問に、クリアカットに回答できますか? かなり浸透している検査項目だとは思うのですが、いざ「何?」と聞かれると困るのではないでしょうか。

 CRPはC-reactive proteinの略で、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が持つC多糖体に結合することから命名された蛋白質です。その後、色々な検討の中で、IL-6などの刺激により肝臓で合成されることや、好中球や単球系に作用して免疫機能を調節する働きがあることが分かっています。なんだ、臨床で測定されるためだけに生まれてきたんじゃないのか、君。

 感染症と縁が深そうなCRPですが、残念ながら感染症を診断する能力、言い換えれば特異度は高くありません。「市中で発生した敗血症の診断(現在の敗血症の診断基準とは異なることに注意)に、CRPがどれくらい役に立つか?」という前向き研究1) を見てみましょう。CRP 3.8mg/dLをカットオフとすると、感度と特異度がそれぞれ79.7%、57.9%、5.0mg/dLだと71.6%と63.2%、10.0mg/dLで63.5%と94.7%──と、10.0mg/dLでやっとこ多少は期待できる程度の結果となったのです。

 「え、なんだ、CRPも診断に役立つじゃん」と思ったアナタ。惜しいです。

 敗血症は感染症の病名ではありません。症候群です。そこには感染臓器の情報も微生物の情報も一切含まれていません。ホラ、思い出してください、感染症診療の根幹を成す5つの要素(患者背景、疑われる感染臓器、推定原因微生物、抗微生物薬、治療経過の予測)を……。

 

 感染症診療では臓器特異的なパラメーターを重視しなさいとか、具体的な微生物名を思い描いて最適な治療を組み立てなさいとか、いろいろとうるさく言ったじゃないですか。それらを考えるのに、CRPはあまりにも非特異的過ぎます。CRPと臓器解剖学的診断・微生物学的診断は結びつきません。つまり、CRPは抗菌薬の選択や治療期間の設定といった治療の部分にほとんど寄与しないのです。

 そして何なら感度も低い。救急外来などで感染症のスクリーニングに活用したくてもできない程度の性能なのです。

 「え、なんだ、CRPって何の役にも立たないじゃん」と思ったアナタ。待ってください。ちゃんと役立つこともあります。それも、2つも。

 さっきの前向き研究の結果を、もう一度見てみましょう。CRP 10.0mg/dLをカットオフとすると、敗血症診断の特異度は94.7%まで上昇しました。この値を超えていたら、市中発症の敗血症かもしれない、あるいは敗血症じゃないにしろ結構ヤバい状況だと考えられるかもしれません。感染症を疑うヤバい状況の時にすべきことは?

 そう、キッチリとしたワークアップです。身体所見をちゃんと取り直したり、胸部X線検査を実施したり、場合によってはCT検査を行ったり、そして、血液培養2セットを忘れず出したりと、CRP高値を見たら精査に乗り出す閾値を一段下げていただきたい。いわば、セーフティーネットとしてCRPを使っていただきたいんです。この思考回路は大変重要です。

 そして、精査の結果、何らかの異常が見つかったら、異常があった臓器の専門家に連絡してください。その時、相手へ必要な情報を伝え終わった後で、ちょっと小さい声でこう申し添えましょう。「CRPが〇〇mg/dLもあります」と。そうすると、相手の医師もギアを一段上げてくれるかもしれません。こういうコミュニケーションでも、CRPって結構大事です。ちょっとズルいし本質ではないですが、特に若手のうちは使えるものは使うべきです。これらがCRP測定の大きな意義です。

 だいぶ脱線しましたが、最初の質問に回答しましょう。「“高CRP血症”に対して抗菌薬を投与するか?」──これは、NOです。こういう時こそ安易な抗菌薬投与に逃げるのではなく、診断にこだわってください。臓器特異的パラメーターの異常は本当にありませんか。感染性心内膜炎や化膿性脊椎炎、肝膿瘍などを、見逃していませんか。感染症を疑うのであれば、複数回・複数セットの血液培養、CTやMRI、時にPETなどの詳細な画像検査、そして高次医療機関への相談を選択肢に入れておくとよいでしょう。そして、膠原病内科や血液内科など、頼れる医師への相談もお忘れなく。安易に抗菌薬を投与したために、曇ってしまう診断があるかもしれませんよ。』

 

以上です。ご覧の通り、若い医者向けの丁寧な解説ですが、ご理解いただけたでしょうか。簡単にまとめるとCRPは細菌感染で上がりやすいですが、ウイルス感染でも上がりますし、川崎病や周期性発熱、腫瘍性疾患でも上がることがあり、特異度が低い(CRPが上がっているから細菌感染であるとは言えない)です。また臓器特異性もないので、CRPが上がっているからどこかに感染病巣があるかもしれないからそれを探す必要があるということです。感染する部位によって主な起因菌が変わりますし、当然抗菌薬の選択も変わるからです。例えば扁桃炎なら溶連菌、肺炎なら肺炎球菌か年長児ならマイコプラズマ、急性腸炎なら大腸菌やサルモネラ、キャンピロバクター、尿路感染なら大腸菌、経皮感染ならブドウ球菌などです。ね、結構違うでしょ。だから「CRPが高いから抗生剤出しときましょう」という医者に当たったら、ちょっとこの医者大丈夫かと思ったほうがいいかもしれません。

蛇足ですが、当科では発熱患者に採血する際はプロカルシトニン(PCT)も一緒に見ていることが多いです。これも炎症反応のパラメーターの一つですが、重症感染で上がりやすく、またウイルス感染では殆ど上がらないという特徴があります。PCT、CRPや白血球数、そして勿論臨床症状などと合わせて感染病巣を推定し、それから予測される起因菌に対して有効だと思われる抗菌薬を選択するわけですね。だから安易に「CRPが高いから抗生剤出しときましょう」という医者は要注意だと思うわけです。

CRPは測定不要!?:Cadetto.jp (nikkeibp.co.jp)