今日はホワイトデーですね。最近は義理チョコ文化がなくなってきているので、ちょっと寂しい気がしないでもないですが、お返しのお菓子を買って配る手間(とお金)が省けたのはちょっとありがたくもあります。で昨日、数少ない義理チョコを買うためにゴディバに行ってみたのですが、最近やたら高くなってませんか? なんでピンポン玉サイズのチョコが3個で2000円もすんねん? 「日本は、義理チョコをやめよう」という広告を出したのはゴディバでしたが、それで凄い儲けが減ったんちゃうかなと余計な心配をしてしまいました。

前置きが長くなりましたが、今日はホワイトデーにちなんでチョコの話です。と言ってもクソ真面目な話でして、チョコレートの効果を示した論文に疑問を呈した、なかなか秀逸な記事でしたのでご紹介します。長文ですが一般紙にしては結構よく書けています(さすが日経)ので全文を引用します。

 

『「効果に科学的な証拠がある」という触れ込みで販売されている製品はいくつもある。ただ実際に一般の人がその証拠にきちんと目を通すことはあまりないだろう。約7年前と2024年2月にあった「チョコレートで脳が疲れにくくなる」という発表をみると、科学と広告のあり方の課題が浮かび上がってくる。

 

「カカオポリフェノールを豊富に含む高カカオチョコレートの摂取が連続的な認知課題遂行時における認知機能のパフォーマンスの維持と、脳活動の労力を低減することで脳の効率的な活用に寄与することを示唆。介入研究により判明。国際科学雑誌に論文掲載」

明治は2月末、こう題した記者発表を開いた。理化学研究所の研究者との共同研究の成果である2本の論文が国際学術誌に掲載され、その内容を中心となった理研の研究者が説明した。研究ではカカオポリフェノールを多く含む高カカオチョコの脳の疲労への効果を調べる臨床試験をした。市販の高カカオチョコ25グラムを食べた場合と同量の低カカオチョコを食べた場合について、摂取後に認知機能を調べる「ストループ課題」などのテストを実施し、その正答率や被験者の疲労感、集中力などを比較した。

1つ目の論文では、20歳以上50歳未満の日本人22人を半分に分け、それぞれが高カカオチョコ、低カカオチョコを摂取した後にテストを15分ずつ2回実施した。

 

記者会見では正答率と集中力について「高カカオチョコを摂取したとき1、2回目で有意な変化はなかったが、低カカオチョコを摂取したときは2回目に有意に下がった」ことを強調。「高カカオチョコの摂取が継続的かつ努力を要する認知課題におけるパフォーマンスと集中力の維持に寄与したことが明らかになった」と説明した。

2つ目の論文では、30歳以上50歳未満の日本人33人を分け、高カカオチョコ、低カカオチョコをそれぞれ食べた後にテストを2回実施した。摂取前とテストを実施した後の脳の活動を機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)で調べた。

認知課題の処理に関わるといわれる脳の特定領域に注目して解析した。低カカオチョコを摂取した人ではその部位の活動が2回目の後に増したが、高カカオチョコを摂取した人では減っていた。こうした結果から「高カカオチョコの摂取が課題遂行に必要な脳の活動量を減少させ、脳の認知資源の効率的利用に寄与した可能性を示唆している」とまとめた。

 

今回の発表は高カカオチョコと低カカオチョコを食べたときの効果に「統計的に有意な差が出た」ということを前面に出したものだ。ただ実際にその効果に関する数字をみると、人によって解釈のしかたは異なるかもしれない。1つ目の論文で報告したストループ課題の正答率をみると、高カカオチョコを摂取した人では1回目テストが96.7%、2回目が96.8%だったのに対し、低カカオチョコを摂取した人では、97.3%から96.4%に減った。

この1%にも満たない正答率の変化を効果と受け止めるのか。変化しないことが確認されたようにも思える。研究をリードした理研の水野敬客員主管研究員は「(2回の試験で)計30分の負荷ではこの結果だが、長く実施すればより大きくなるはずだ」と説明する。記者発表では特に触れなかったが、論文には課題を処理する反応時間は高カカオチョコと低カカオチョコを食べた場合で有意差はなかったと報告している。

2本目の論文では、脳の2つの領域の活動に関する測定値が、低カカオチョコを摂取した人では2回目に2倍以上に増えているのに対し、高カカオチョコを摂取した人では半分以下に減っているとした。ただ、この臨床試験でも認知機能のテストの正答率を調べているが、高カカオチョコと低カカオチョコの摂取による有意差はなかったと報告している。科学的な手続きから見れば、この論文では脳の一部領域の働きと課題の正答率の関係はつながっていないわけだ。

 

脳とチョコを巡る研究では約7年前のことを思い出す。2017年、国の大型研究プロジェクト「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」の研究チームが「カカオを多く含むチョコを食べると脳が若返る」とする発表をして問題となった。

1日25グラム、4週間食べ続けたところ「学習などに関わる大脳皮質の量が増えた」と報告した。ただ報告は第三者の査読を受けていなかった。高カカオチョコを食べた前後の脳の大脳皮質の量を比較しており、異なるカカオの量を食べた人を比べるような比較試験ではなかった。科学的なずさんさが指摘され、研究に資金を提供している内閣府も「発表は不適切」と認めた。

このときと今回の研究チームには、明治と理研で中心となった研究者が入っている。比較試験の体をなしていなかった前回とは異なり、今回は比較試験をしているようにもみえる。ただ、低カカオと高カカオではチョコの味が違う。食べた人はそれに気づくと思われ、被験者がどちらを食べているか分からないようにする厳密さは実現できていない。

こうした「科学的な証拠」は決して珍しいものではない。企業が証拠となる科学的なデータを示した上で国に届け出る機能性表示食品ではよく見受けられる。

「機能性表示食品では、多くの臨床試験が有利な結果ばかりを強調し、不利な結果については消費者に伝えられていない」と国保旭中央病院の染小英弘医師は指摘する。

機能性表示食品を食品メーカーなどが開発する際には、開発を受託する機関(CRO)に臨床試験を依頼する場合が多い。染小氏らは国内で臨床試験をする場合に登録するデータベースをもとに、CRO大手5社が登録した計726件の臨床試験の中から100件をランダムに選び、臨床試験の比較データの作り方やデータの解析の仕方といった研究の「質」を調べた。

そのうち76件が食品に関連しており、32件が論文を出していた。この結果を広報するプレスリリースは3件、広告は8件あったという。論文32件のうち26件(81%)で「得られたデータのうち都合のいいデータだけを強調し、都合の悪いデータや矛盾するデータを無視して結論を出す不備があった」と指摘した。プレスリリースや広告の計11件でも8件(73%)に結果と解釈の不一致があった。

不一致とはどのようなものだろう。例えば、ある食品を4週間食べると腹囲が減ったという報告があるとする。しかし実験データをみると、内臓脂肪や体脂肪率、体重は減っていない。このような場合には、結果の矛盾について理にかなった説明がいるが、そうなっていないわけだ。

こうした不備を消費者が見つけるのは難しい。論文の内容については査読者が科学誌に掲載する際に確認する場合が多い。だが近年は掲載料を目当てにした査読の甘い「ハゲタカジャーナル」がはびこっており、科学の信頼性が揺らいでいる。

機能性表示食品は企業側の言いっぱなしになりかねない。23年夏には消費者庁が中性脂肪の低減などをうたう機能性表示食品について科学的根拠の裏付けを求めたのに対し、事業者が届け出を撤回した例が出た。

論文と広告の違いについては特に確認する機関があるわけではない。「機能性表示食品の制度は見直しが必要だ」(染小氏)。メディアのチェック機能も問われている。』

 

以上です。キモは「高カカオチョコレートが認知機能に良好な効果があった」というところですが、実際には『高カカオチョコを摂取した人では1回目テストが96.7%、2回目が96.8%だったのに対し、低カカオチョコを摂取した人では、97.3%から96.4%に減った』ということです。いや、それ、ほとんど変わらへんやん。むしろ低カカオの方が1回目は優秀だったやん。しかもこれ22人にしか調査してないんですね。有意差が出たと書かれていますが、ほんまか?と言いたくなります。数千人、数万人以上の大きな研究では、わずかな差(数パーセント以下の致死率の差など)でも有意差が出ることがありますが、片側11人のこのスタディで1%に満たない差が有意と出るかどうか、私的にはちょっと信じがたいですね。

他にもこの記事では、恣意的な解釈に注意せよと言っています。心したいところですね。

科学と広告、再びの「脳・チョコ」発表が示す課題 - 日本経済新聞 (nikkei.com)