今日も川崎病の話をします。今日のはちょっと専門的な内容になりますので、ご興味のある方だけご覧いただいたらよいかと思います。川崎病の治療法はほぼ確立されていると昨日書きました。治療のメインになるのは血液製剤の免疫グロブリン製剤というもので、これを大量に点滴することでネガティブ・フィードバックを起こし、患者の免疫を抑えることで川崎病の治療をするというものです。だいたいこれで8割~8割5分が治りますが、残りは再度免疫グロブリンを投与したり、ステロイドや免疫抑制剤などを併用することになります。それら治療でも奏効しないケースでは、ステロイドパルス(ステロイド大量療法)や最終的に血漿交換療法を行います。まあそこまですればまず発熱などの急性期の反応は抑えられます。さらに免疫グロブリンに対する反応が悪いと予測される症例を年齢やデータから予測し、初めから免疫グロブリンに加えてステロイドや免疫抑制剤を併用するやり方も一般的になってきました。

今回ご紹介するのは、約5年前の記事ですが、免疫抑制剤であるシクロスポリンを併用することで冠動脈異常の頻度が有意に下がったというものです。この記事が「昨日の小児科医師によるニュースランキング」というところに上がっていまして、ちょっと川崎病が話題になったから昔の記事を見直した小児科医が多かったのかなと思いました。では引用を。

 

『免疫グロブリン療法(IVIG)不応例である川崎病患者に対し、シクロスポリンの併用は、安全かつ有効であることが確認された。東京女子医科大学 八千代医療センターの濱田 洋通氏らが、日本全国22ヵ所の病院を通じて行った、第III相非盲検無作為化エンドポイントブラインド試験「KAICA trial」の結果で、Lancet誌オンライン版2019年3月7日号で発表した。遺伝学的研究で、川崎病に関与する遺伝子変異が特定され、それらがIVIG不応例患者のリスクである冠動脈異常に関与するのではないかと考えられていた。研究グループはこの所見を踏まえて、川崎病の病態生理の基礎をなすカルシウム-活性化T細胞核内因子(NFAT)経路の上方制御が、有望な治療になりうると仮定し、シクロスポリン併用の有効性と安全性を評価する試験を実施した。
 

 研究グループは2014年5月29日~2016年12月27日にかけて、日本全国22ヵ所の病院を通じ、IVIG抵抗性のリスクが高いと予測された川崎病患者(175例)を適格とし試験を行った。

 被験者を無作為に2群に分け、一方にはIVIG+シクロスポリン(5mg/kgを5日間、併用群)を、もう一方にはIVIGのみを行った(単独群)。被験者について、リスクスコア、年齢、性別で階層化した。

 主要エンドポイントは、試験期間である12週中の冠動脈異常発生率で、心エコー検査で日本の厚生労働省が定める基準に基づき中央にて判定した。分析対象としたのは、試験期間中に、試験薬を1回以上投与し、評価のために1回以上受診した患者だった。
 

 被験者のうち、1例は登録後に試験参加の同意を取り下げ、また1例は最終の心エコー検査結果が得られず分析から除外した。解析集団は、併用群86例、単独群87例。

 12週中の冠動脈異常発生率は、単独群31%(27/87例)に対し、併用群は14%(12/86例)と有意に低かった(リスク比:0.46、95%信頼区間:0.25~0.86、p=0.010)。

 有害事象の発生率は、群間で差は認められなかった(併用群9% vs.単独群7%、p=0.78)。』

 

以上です。一言でまとめると、冠動脈異常のリスクの高い川崎病患者に最初からシクロスポリンを併用すると、冠動脈異常の発症が半減したというものです。まあまあの効果ですね。ちなみにこの結果を持って(結果自体は5年前なので)当院でもハイリスク症例に対しては最初からシクロスポリンを併用する治療を行っています。すでに10例以上経験していますが、今のところ冠動脈異常の発症はありません。ただ5日でやめてしまうと高確率で川崎病症状が再燃してしまうので、最低10日として炎症反応などを見てシクロスポリン中止時期を決定するようにしています。また、最初からシクロスポリンを併用してもなかなか解熱せずに再度免疫グロブリンを投与したり、それでも解熱せずにステロイドパルスを施行した例もありました。印象としては確かに効果はあるが十分とは言えないなといったところです。今後個人的にはハイリスク症例に対して「免疫グロブリン+シクロスポリン+ステロイドのカクテル療法」なんてのを考えているのですが、その前に当院の症例をまとめて論文にしたいし、新しい治療を試みるなら倫理委員会を通さにゃならんし・・・とまあわりとすべきことがあるので、やるとしてもまだ先になるでしょう。

IVIG不応川崎病、シクロスポリン併用が有益/Lancet|医師向け医療ニュースはケアネット (carenet.com)