皆さんご存じのことと思いますが、MRIでは非常に高い磁場が発生するため、金属製品の持ち込みは厳禁です。ストレッチャー(搬送用ベッド)に備え付けていた酸素ボンベが飛び出してMRI装置に突っ込んだなんて話もあります。私たちもMRI室に入るときは、酸素ボンベは勿論、他の金属製品もすべて外して入るようにしています。

本日ご紹介する論文は、どんな金属製品ならどれくらいMRIに近づけると飛んでいくかを調べたものです。失礼ながら「お前ら暇なん?」とちょっと思いました。では引用を。

 

MRI室には絶対に金属を持ち込んではならないと言われますが、持ち込んだらどうなるのかについて聞いたことはあっても、見たことがあるのは酸素ボンベがミサイルのように飛んでいく様子くらいでしょう。看護学校でのMRIの講義の際に、YouTubeで検索してみてもらっていますが、いつみてもなかなか恐ろしいものがあります。MRIでは基本的に、スキャナーボア(トンネル)を中心にフリンジ磁場が作られており、磁力に反応するものを一定の距離以上に近づけると、スキャナーボアに向かって飛んでいくことになります。しかし、「どんなもの」を「どこまで近づけたらまずいのか」は、知られていません。普通近づけませんから。そこで、どんなものをMRIに近づけたら危なくて、実際にどんな挙動を示すのかを調べた研究がこちらになります。

 

論文タイトルからお察しの通り、BMJクリスマス号の文献です。

 過去、MRI室に持ち込まれたことが確認されているものや持ち込まれそうになったもの、持ち込まれた可能性があるものを中心に、3T(テスラ)のMRIに近づけた際の挙動について調べています。ただ近づけてMRIがぶっ壊れたら困るので、アクリルパネルを敷き、人体への影響を調べるために、筋肉組織に近い硬さを持つ弾道ゼラチンも用意されました。良い子は真似しないでねというか、真似できません。

 この文献では、磁場の引力が静止している物体の静止摩擦に打ち勝ち、MRIに向かって加速が生じるポイントを「The site where applied newtonian mechanics triggers acceleration (SANTA)」と名付けています。MRIの“シュヴァルツシルト半径”は「サンタさん」というわけです。ここを超えるとMRIの磁場から逃れることはできず、MRIに向かって突進していくのです。あたかもサンタさんが僕らの枕元にプレゼントを届けにいくように……。ちなみに論文のサイトには、一部実験の様子も動画で紹介されています。

 全然関係ありませんが、皆さんはサンタさんをいつまで信じていましたか? 僕は幼稚園で卒業してしまいました。翌年から来なくなってしまったので、もったいないことをしたと今でも思っているのですが、12歳のうちの子は証拠をつかもうと、12月24日の夜は家にiPadのビデオを仕掛けています。カメラの目をかいくぐりながらプレゼントを配る親の姿は完全にメタルギアソリッド。年々カメラの数が増やされているので、そろそろとダンボールをかぶって移動しなくてはなりません。そんな努力をしつつ親が夢の世界の維持に努めている中、昨年のプレゼントに娘が若干“おこ”でした。子供たちが色々欲しいものを手紙に書いていたものをお届けしたはずが、自分が欲しかったコスメが入っていなかったと。娘よ……それはオモチャじゃない。

 さて、話を戻して、さまざまな物質のSANTAを調べたわけなのですが、例えばペンライトは51cmくらいまで近づけると飛んでいき、iPhoneは64cmまで近づけると飛んでいくようです。医師がポケットに入れそうなものとしては、体温計が70cm、聴診器が79cmということで、1m以内に近づくときには確実にポケットを空にする必要があります。そのほか、ハサミは128cm、スプーン149cm、フォーク152cm、ナイフ157cmと、カトラリーは結構遠くからでも飛んでいきます。フォークは見事に弾道ゼラチンに刺さりました。スプーン曲げやフォーク曲げをいつでもできるようにポケットに入れている医療従事者は重々気をつけなくてはなりません。

 なお、SANTAの距離は、物体の重量とは相関しておらず、純粋に磁力への反応性を反映するようです。また、よく看護師さんが持っている先端がプラスチックで守られた安全バサミは、磁場から離れていても飛んでいくものの人体を損傷させる力は弱く、万が一持ち込まれてしまったときも安全に寄与するかもしれません。個人的に感動したのは金属製のクレジットカード。75cmくらいから飛んでいき、弾道ゼラチンに刺さっていました。いや、刺さっているように見えるだけで刺さっていません! 表面で止まっています。意外にも安全なようです。メタルヒーローシリーズ12作目の『特捜ロボ ジャンパーソン』でジャンパーソンが投げるJPカードを彷彿とさせますが、武器を変えた方が良さそうです。

 それにしても、クリスマス号に向けてふざけたネーミングをつけつつもしっかりとした研究が行われており、さすがだなと思わずにはいられません。』

 

以上です。要点を抜き出すと『例えばペンライトは51cmくらいまで近づけると飛んでいき、iPhoneは64cmまで近づけると飛んでいくようです。医師がポケットに入れそうなものとしては、体温計が70cm、聴診器が79cmということで、1m以内に近づくときには確実にポケットを空にする必要があります。そのほか、ハサミは128cm、スプーン149cm、フォーク152cm、ナイフ157cmと、カトラリーは結構遠くからでも飛んでいきます』というところですね。やはり極めて危険です。この論文では酸素ボンベの記載はありませんが、恐らく危険すぎて行われなかったのでしょう(MRIを壊したらウン億円かかるでしょうし)。というわけで、やはりMRI室に入るときはすべての金属製品を外す必要があるといういうことです。

フォークを持ってMRI室に入ったら:日経メディカル (nikkeibp.co.jp)