コロナ禍以降は季節性が乱れていますが、例年では毎年冬になると流行る乳幼児の感染の一つがRSウイルスです。はっきり言ってこれは乳児には新型コロナ以上に厄介です。よく肺炎や細気管支炎になり、乳児の入院の大きな原因の一つになっています。現在でもパリビズマブ(商品名:シナジス)というモノクローナル製剤のRSV重症化予防薬があり、実際に使用されているのですが、早期産児や心疾患のある児にしか適応がなく、かつ毎月筋肉注射に通う必要がありコストも高く、なかなか使いにくい薬となっています。

本日ご紹介するのはイギリスの治験ですが、Nirsevimabという新薬が正期産児のRSV重症化予防に有効だったという論文です。まずは引用を。

 

『英・St. George's, University of LondonのSimon B. Drysdale氏らは、RSウイルス(RSV)感染による下気道疾患の予防薬として昨年(2023年)米食品医薬品局(FDA)の承認を得たモノクローナル抗体nirsevimabの第Ⅲb相非盲検ランダム化比較試験HARMONIEを実施。パリビズマブの適応外となる生後12カ月以下の健康な乳児において、nirsevimab単回筋肉内注射がRSV関連下気道感染症による入院および重症化を予防することが示されたとN Engl J Med2023; 389: 2425-2435)に発表した。

 

 全体の85.2%が在胎37週以上の正期産児で、nirsevimab群の23.4%と対照群の23.9%が生後28日以下の新生児だった。

 解析の結果、主要評価項目としたRSV感染流行期におけるRSV関連下気道感染症による入院は、nirsevimab群の11例(0.3%)と対照群の60例(1.5%)に発生。「1-発生率比(%)」として算出したnirsevimabの有効性(予防効果)は83.2%(95%CI 67.8~92.0%、P<0.001)だった。

 副次評価項目とした最重症RSV関連下気道感染症(酸素飽和度90%未満で酸素投与を要するRSV関連下気道感染症による入院)は、nirsevimab群の5例(0.1%)と対照群の19例(0.5%)に発生し、nirsevimabの有効性は75.7%(95%CI 32.8~92.9%、P=0.004)と算出された。

 

 国別に見たRSV関連下気道感染症による入院に対するnirsevimabの有効性は、フランスで89.6%(調整後95%CI 58.8~98.7%、多重性調整後P<0.001)、英国で83.4%(同34.3~97.6%、P=0.003)、ドイツで74.2%(同27.9~92.5%、P=0.006)とほぼ同等で、nirsevimabのベネフィットは診療環境が異なっても維持されることが示唆された。

 有害事象の大部分はグレード1または2で、なんらかの有害事象(nirsevimab群36.8% vs. 対照群33.0%)、グレード3有害事象(同1.2% vs. 1.1%)の発現率は両群で同等だった。治療関連有害事象はnirsevimab群の2.1%に発現した。

 以上の結果を踏まえ、Drysdale氏らは「nirsevimabは健康な正期産児および早産児のRSV関連下気道感染症による入院および最重症RSV関連下気道感染症を予防し、安全性プロファイルが良好だった」と結論している。今回の解析では大部分の乳児の追跡期間が約3カ月と短かったが、HARMONIE試験は追跡期間をランダム化後12カ月以上として継続中であり、追加データの収集が見込まれている。』

 

以上です。単回注射で8割以上の高い重症化予防効果を示したことは注目に値します。ただ最後の段落にありますが、今回は3か月のみの追跡なので、その後に感染する可能性は十分にありますから続報を待つ必要があります。しかしながらRSウイルスは小さい子ほど重症化しやすいので、この薬によって半年でも感染を遅らせることが出来れば、それはそれで十分に意味はあるように思います(またその場合は半年後に追加注射するという手もありますね)。

Nirsevimab、乳児にRSVの入院予防効果あり|感染症|小児_薬剤情報|医療ニュース|Medical Tribune (medical-tribune.co.jp)