多罪耐性菌の問題は知っている人は知っているでしょう。使える抗菌薬が無くなり、それによって多くの人が亡くなるだろうと予想されています。今回ご紹介する論文は、新生児および小児の重症感染症に対する抗菌薬の効果を見たものです。まずは引用を。

 

『薬剤耐性菌の増加に伴い、一般的な小児感染症の治療において長らく使用されてきた抗菌薬の多くがもはや効果を失っていることが、新たな研究で明らかにされた。論文の筆頭著者であるシドニー大学(オーストラリア)感染症研究所のPhoebe Williams氏は、「抗菌薬の使用に関する世界的なガイドラインにこの結果を反映させる必要がある」と述べるとともに、乳幼児や小児用の新しい抗菌薬の開発に重点を置くべきだと呼び掛けている。この研究結果は、「The Lancet Regional Health - Southeast Asia」に10月31日掲載された。

 世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性菌の増加を世界的な公衆衛生上の脅威のトップ10に位置付けている。世界全体では、毎年約300万人の新生児が敗血症を発症し、57万人が死亡しているが、その原因の多くは薬剤耐性菌に有効な抗菌薬がないことである。

 Williams氏は、「薬剤耐性菌の問題は他人事ではなく、すぐそこに差し迫っている脅威だ。薬剤耐性菌は、われわれが考えている以上のスピードで増加している。多剤耐性の侵襲性感染症や年に何千人もの子どもの死亡を食い止めるためには、新しい解決策が早急に必要だ」と主張する。

 Williams氏らの今回の研究は、東南アジアおよび太平洋地域の低・中所得世帯の子どもに処方された、経験に基づく抗菌薬治療がどの程度有効であるのかを検討したもの。研究グループは、システマティックレビューにより抽出した、11カ国で収集された6,648の細菌分離株の感受性データを使用してパラメーター化した、WISCA(weighted incidence syndromic combination antibiogram)と呼ばれる薬剤感受性のデータベースを構築。これにより、新生児と小児の敗血症や髄膜炎に対する治療において、WHOが推奨する特定の抗菌薬(アミノペニシリン、ゲンタマイシン、第3世代セファロスポリン、カルバペネム)がどの程度有効であるか(coverage)を推定した。

 その結果、新生児の敗血症/髄膜炎に対して、アミノペニシリンは26%、ゲンタマイシンは45%、第3世代セファロスポリンは29%、カルバペネムは81%有効であることが示された。一方、小児の敗血症と髄膜炎に対しては、アミノペニシリンはそれぞれ37%と62%、ゲンタマイシンは39%と21%、第3世代セファロスポリンは51%と65%、カルバペネムは83%と79%有効であった。

 こうした結果を受けてWilliams氏は、「小児や新生児に対する新たな抗菌薬による治療法の研究に、資金を優先的に投入する必要がある」との見解を示す。「抗菌薬に関する臨床研究は成人に焦点が当てられることが多く、小児や新生児は置き去りにされている。そのため、小児や新生児に対する治療法の選択肢は少なく、新しい治療法に関するデータも極めて限定的だ」と指摘する。

 論文の上席著者で、アンコール小児病院(カンボジア)のカンボジア・オックスフォード・メディカルリサーチユニットのディレクターを務めているPaul Turner氏は、「この研究により、小児の重篤な感染症治療に有効な抗菌薬について、その利用可能性に関する重要な問題が浮き彫りになった。また、薬剤耐性菌の拡大状況をモニタリングするために、質の高い検査データが必要であることも明示した」と述べている。』

 

以上です。キモは4段落目で、「新生児の敗血症/髄膜炎に対して、アミノペニシリンは26%、ゲンタマイシンは45%、第3世代セファロスポリンは29%、カルバペネムは81%有効であることが示された。一方、小児の敗血症と髄膜炎に対しては、アミノペニシリンはそれぞれ37%と62%、ゲンタマイシンは39%と21%、第3世代セファロスポリンは51%と65%、カルバペネムは83%と79%有効であった」というところです。アミノペニシリンの代表格はアンピシリン(商品名:ビクシリンなど)やアモキシシリン(商品名:サワシリン、ワイドシリンなど)です。第三世代セファロスポリンにはセフトリアキソンやメイアクト、フロモックスなどが含まれます。カルバペネムはメロペン、カルベニンなどですね。どれも小児の感染症にはよく使われる薬です。

以前は風邪などにも普通に抗生剤が出されることが多かったですが、最近はだいぶ減ってきている印象です。また肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンが導入されて以来、小児の重症感染症は劇的に減りました。そういう意味では、日本では小児の感染症を取り巻く状況は以前よりも改善している印象でしたが、海外では抗菌薬が普通に薬局で売られている国もあり、耐性菌が大きな問題となっていますし、日本でもワクチン接種前の新生児ではやはり耐性菌は大きな問題です。

解決策としては、筆者の書いている通り新たな抗菌薬や治療法に優先的に資金を投入するということも必要だと思いますが、耐性菌をこれ以上増やさないよう、無駄な抗菌薬投与を極力抑える努力が必要だと思いました。

小児感染症に対する抗菌薬、多くはもはや効果を見込めず|医師向け医療ニュースはケアネット (carenet.com)