おひとり様の増加
単独世帯、いわゆる「おひとり様」が増えています。
2024年4月に、国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の世帯数の将来推計」によると、
「単独世帯」の割合は、「夫婦のみ」「夫婦と子」などを上回って最も多く、
2020年は2,115万世帯で世帯総数の38%。
その後、増加を続け、2036年に2,453万世帯とピークを迎えた後、
2050年には2,330万世帯となって、世帯総数の44.3%を占める
とされています。
特に65歳以上の単独世帯は、
2020年は738万世帯で世帯総数の13%
だったものが
2050年には1,084万世帯で21%
まで増えると予想されています。
さらに、65歳以上の全人口を分母にして独居率を見ると
2020年~2050年までの間に
男性の独居率は 16.4% → 26.1%
女性の独居率は 23.6% → 29.3%
と、男性の独居率が急激に増加すると見込まれています。
この数字は、過去の未婚率の上昇を反映したもので、
それに関連して、報告書は
「現在の高齢単独世帯は、過去の婚姻率や出生率の高さを踏まえれば、ひとり暮らしといえども別居子がいる割合が高いことに加え、本人の兄弟姉妹数が多いことからも、生存している近親者がいる可能性が高い。しかし、30年後の高齢単独世帯は、有配偶・死別・離別でも子どものいない割合が高まることに加え、本人の兄弟姉妹数も少なくなるため、近親者が全くいない高齢単独世帯が急増すると想定される。」
(上記 国立社会保障・人口問題研究所 日本の世帯数の将来推計より抜粋)
と警鐘を鳴らしています。
未婚率の増加、兄弟姉妹が少ない、さらに少子化といった要因が重なることで、未婚、既婚に限らず、家族や親族に頼れない高齢者は、今後ますます増えていくでしょう。
誰でも「おひとり様」になり得る時代です。
準備や心構えがないと、将来どうなるのでしょうか。
高齢期の不安を見える化する
一人住まいは、元気なうちは良いとしても、この先、ケガや病気をしたり、高齢になって身体機能や認知機能が衰えた時、子や配偶者ら家族がいない、いても頼れない場合どうなるのか、色々と不安です。
まずは、どんな場面で何が必要なのか整理して、「不安の見える化」をしてみることにしましょう。
今後想定される援助が必要な場面
①心身の衰えにより、家事などの日常生活行為が難しくなる
②金銭管理ができなくなる
③入院が必要となる
④施設入所が必要となる
⑤手術や治療方針、ケアプランの決定が必要となる
⑥葬儀方法の決定や死後事務が必要となる
①心身の衰えにより、家事などの日常生活行為が難しくなる
心身が弱ると、徐々に家事や買い物、通院が難しくなります。
民間の代行業者も様々ありますが、やはり介護保険など公的サービスを利用して、援助を受けられると助かります。
ここで大事なのは、日々の衰えに気付き、介護認定や医師の診断に繋げてくれる「見守り」です。
適切な見守りは、介護や医療と連携することで、ヘルパー等家事支援や医療サービスに結びつきます。
家族がいれば、早期に気づくことが可能と言われています。
ですが、見守ってくれるのは家族だけとは限りません。
趣味のサークルや(できれば)徒歩圏内の高齢者サロンに出入りしたり、友人やご近所の方々との交流も、孤立した高齢者とならないための秘訣です。
そこでは色々な情報を仕入れることができますし、アドバイスも貰えます。
事態が急変した時も(自宅で倒れるなど)早めに気づいてもらえます。
今は、サロンや高齢者カフェなど、身近に色々な場が設けられていますので、利用してみてはいかがでしょうか。
そういった所に出入りするのが苦手という方は、まずは早めに、役所や地域包括支援センター、社会福祉協議会を訪ねて、相談することをお勧めします。
一人暮らしの高齢者を訪問してくれる民生委員という制度もあります。
また、行政も「介護予防」という観点から、様々な見守りや介護予防のためのツールを整えつつあります。
(例えば、川崎市の「高齢者等緊急通報システム」や、東京都文京区の「高齢者見守りあんしん扉センサー事業」「あんしん電球事業」「あんしん電話」など。)
まだ要支援や要介護に該当しなくても、今後要介護状態にならないための、介護予防事業は増えています(二次予防事業)。
お住まいの自治体によって、制度は異なりますので、どんな事業が使えるのか、元気なうちに確認しておきましょう。
②金銭管理ができなくなる
足腰が弱ったため、自分で銀行に行って、払い出しや振り込みができない。
認知能力に不安が出始め、予算内のやりくりや入出金の管理が難しくなる。
これも誰にでも起こり得ることですが、不正や不適切な金銭管理の危険性があるため、金銭管理を第三者に頼むには、やはりきちんと契約を結ぶ方が良いでしょう。
これも、判断能力がまだそれほど衰えないうちに、準備が必要です。
判断能力が全く無くなってしまうと、契約行為ができなくなるからです。
代表的な契約が、信頼できる人と任意契約を結ぶ
「財産管理委任契約」です。
当事者間で自由に契約を結べて、依頼内容も自由に設定できます。
預金引き出しや振り込み、支払い代行などが、委任状なしでできるようになると、便利ですよね。
ただし、対応していない金融機関もあるので、確認が必要です。
この契約は、移行型の任意後見契約と併用して利用されることが多く、その場合は、登記された任意後見人が手続きを行うので、スムーズな金銭管理ができます。
ただ、成年後見制度の一形態である任意後見制度は、複雑で、何となく敷居が高いと感じている方は多いようです。
そこで、金銭管理が不安になったら、まずは地元の社会福祉協議会にご相談に行かれることをお勧めしたいと思います。
社会福祉協議会では、「日常生活自立支援事業」という事業を行っており、定期的な訪問・見守りや、ヘルパーやデイサービスなどの福祉サービスを受ける援助をしてくれます。
その中に「日常的金銭管理サービス」というオプションもあり、日常的な金銭の出し入れや、今後の大まかなやりくりを考えるお手伝いもしてくれます。
利用料金も、月一回で1500円程度と、成年後見制度などに比べると安価です。
定期的な見守りによって、将来の更なる判断能力の低下に対処することもできます。
成年後見制度を利用する前段階として、活用したい制度です。
③④⑤入院や施設入所、
治療方針やケアプランの決定が必要となる。
病院や施設を探すのも大変ですが、親族がいないおひとり様の場合、一番困るのが、身元保証人や身元引受人を求められても、対応できないことでしょうか。
2018年度に、「身元保証人がいないことだけを理由に病院や介護施設が入院・入所を拒むことがないよう指導を依頼する」という通知が、厚生労働省から都道府県に出されていますが、身元保証がないと、入院・入所が断られるケースは、まだまだ多いようです。
身元保証人は、
・緊急時の連絡先
・費用の支払い代行
・退院時や万一の際の身柄や荷物の引き取り
・治療方針や介護ケアプランの同意確認
・必要な物品の準備
・トラブル対応
などなど、様々な役割を果たします。
引き受けてくれる親族や知人がいない場合、身の回りの細々したものを持ってきてもらうことさえ、簡単なことではありません。
身元保証については、民間の高齢者等終身サポート業者がよく話題に上がります。
全国に400以上もの事業所があり、身元保証をしてくれるだけでなく、生活支援や財産管理、死後の手続きまで、幅広く対応してくれるところが多いです。
この契約ひとつで、①~⑥の見守りから死後事務委任まで、おひとり様が援助を必要とする場面すべてに対応することも可能なので、選択肢の一つとして、一度検討してみるのも良いでしょう。
ただし、現在のところ、監督官庁や法律がなく、契約内容や料金体系も業者によって異なるため、トラブルとなるケースも少なくないようです。
業者も玉石混交状態と言われていますので、事前に内容をしっかり確認する必要があります。
また、料金も預託金として100万円~200万円ぐらいかかる他、サービスを利用するたびに料金が発生するなど、契約が長期に渡り、金銭面で余裕がない場合は、利用が難しいかもしれません。
おひとり様の身元保証について、独自の取り組みを進めている自治体もあります。
品川区の社会福祉協議会では、任意後見契約を結ぶことで、身元保証や安否の確認等を行ってくれます。
足立区の社会福祉協議会では、支援可能な親族がいない「一人暮らしの高齢者」が、施設に入所する際や入院するときに、保証人に準じた支援を、預託金に基づいて行います。
民間のサポート業者と契約する前に、まず地元の自治体の相談窓口に相談に行くと良いと思います。
一例ですが、静岡市の地域包括支援センターでは、民間業者に対する「終活支援優良事業者認定事業」を開始していて、認定業者の紹介をしてくれます。
今後も、各自治体で、こういった取り組みが増えていくことも予想されます。
また、入院・入所の際に、身元保証が求められることについても、見直されていくかもしれません。
⑥葬儀方法の決定や死後事務が必要となる
おひとり様の心配は、生前だけではありません。
ただし、遺品整理などはしてくれないため、周囲の人に数々のトラブルを残すことにもなりかねません。
そうした事態を避けるためには、
生前から「死後事務委任契約」を結び「遺言」を残しておくことが有効です。
「死後事務委任契約」とは、亡くなった後の手続きや葬儀、納骨、埋葬や、未払金の支払い、遺品整理などを、信頼できる第三者に委任する契約です。
また、「遺言」を残すことによって、相続財産について、分け方や配分先を指定できます。
死後事務委任の契約相手を遺言執行者に指定しておくと、遺言の内容をスムーズに実行してもらえます。
死後事務委任契約を依頼する相手に制限はなく、司法書士や弁護士など専門家や、NPO法人、専門業者や金融機関に依頼するのが一般的ですが、友人・知人とも契約を結べます。
任意後見契約を結ぶ場合は、セットで死後事務委任も契約しておくと、安心です。
ここまで、①~⑥と、援助な必要な場面を取り上げてきました。
高齢となってから亡くなるまで、様々な場面で意思決定や金銭管理、人手が必要となりますね。
その時々で、必要な契約を結んだり、制度を利用したりすることで、安心して生活を送ることができますが、できれば、見守りから死後まで、ワンストップで、安価なサポートを、信頼できる組織が提供してくれることが望まれます。
そのためには、やはり、国や自治体の今後の取り組みが期待されるところです。
国は、2024年度から、おひとり様の身元保証や財産管理といった課題を支えるモデル事業を始めました。
厚生労働省
持続可能な権利擁護支援モデル事業について
事業の目的
身寄りのない高齢者等の生活上の課題に向き合い、安心して歳を重ねることができる社会を作っていく
そのための事業の概要
1.包括的な相談・調整窓口の整備
自治体に、身寄りのない高齢者のための相談窓口を設けて、コーディネーターを置き、公的支援や民間事業者等が提供するサービスなどのマネジメントや、各種支援・契約の履行確認等を行う
2.総合的な支援パッケージを提供する取組
民間業者を利用する資力のない身寄りのない高齢者向けに、自治体が、身元保証や日常支援、死後事務といった支援をまとめて提供する
(※上記2図は令和6年2月1日 厚生労働省 社会・援護局 地域福祉課成年後見制度利用促進室の資料より作成)
今後、こういった国の掛け声に応えて、各自治体の取り組みが進み、この構想にあるように、誰もが安心して老後を過ごせる時代を、手遅れにならないうちに実現させなくてはなりません。
そのためには、私たち全員が、制度を利用する側として、今後の国や自治体の動向に関心を持って、積極的に働きかけをする必要があると思います。
日常生活自立支援事業について、過去記事はこちら
成年後見制度について、過去記事はこちら
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