年収の壁への対策
夫の被扶養者だったら、社会保険料もタダで、健康保険にも年金にも入れていたのに、少し年収が上がったら、保険料が天引きされて、手取りが減ってしまった!
一定の年収を超えると、社会保険料を負担することになり、かえって手取りが減ってしまう。
この現象は、「年収の壁」と呼ばれて、政府による対策が進んでいます。
壁を超えないように働き控えをすることで、人手不足が深刻化していることが、問題視されているのです。
大きな会社にお勤めの場合、たとえば基本給が105万円から106万円にあがり、社会保険に加入すると、保険料が15万円ぐらい天引きされて、手取りが減るという逆転現象が起きます。
手取りを回復するには、125万円ぐらいまで、基本給が上がらなくてはなりません。
扶養から外れないために、労働時間を短くするという選択をするパートさんも増えました。
また、特に年末になると、130万円を超えないように、お休みするパートさんが相次ぎ、繁忙期に人手不足が加速することも多いと聞きます。
先日、厚生労働省は、一時的な事情で収入が130万円以上になっても、扶養にとどまれるという通知を出しました。
この秋に向けて、健康保険組合などに周知する方向だそうです。
6月13日に閣議決定された「こども未来戦略方針」には、若い世代の所得を増やすための基本理念の中で、
「被用者が新たに106万円の壁を超えても、手取りの逆転を生じさせないための当面の対応を、本年中に決定した上で実行し、さらに、制度の見直しに取り組む」
ことが盛り込まれています。
さらに「いわゆる「年収の壁(106万円/130万円)」への対応」の具体策として、
「◯いわゆる106万円・130万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに引き続き取り組む」
「◯こうした取組と併せて、人手不足への対応が急務となる中で、壁を意識せずに働く時間を延ばすことのできる環境づくりを後押しするため、当面の対応として、被用者が新たに106万円の壁を超えても手取り収入が逆転しないよう、労働時間の延長や賃上げに取り組む企業に対し、複数年(最大3年)で計画的に取り組むケースを含め、必要な費用を補助するなどの支援強化パッケージを本年中に決定した上で実行し、さらに制度の見直しに取り組む」
ことが明記されています。
こうした政府の方針に沿って、企業向けに、一人当たり最大50万円の助成金が支払われることになりました。
早ければ2023年度中に始められます。
3年程度の時限措置とされています。
どんな企業が貰えるの?
今回の助成金は、週の所定労働時間を増やし、従業員の賃上げに取り組む企業に対して給付される方針となっています。
具体的に出ている案では、一週間の労働時間を3時間以上延ばしたり、基本給を3%以上アップさせ、その計画を申請した場合(最長3年間)などが想定されています。
これは、あくまでも企業に対しての助成金で、政府が労働者に直接支給するものではありません。
企業は、助成金を受けて、逆転現象が起きない程度まで、基本給を引き上げる、あるいは、新たに保険料の負担が生じた従業員に対して、保険料を穴埋めするための手当てを支払い、手取り収入が逆転しないようにしてくれる、という仕組みです。
企業は、社会保険料を折半して負担しなければなりません。
労働時間を延ばしたり基本給をアップさせて、従業員を社会保険に加入させると、企業の負担も増えてしまいます。
そのため、あえてパートタイマーの基本給を低く抑えたり、短時間にして、扶養の範囲に収めておきたい企業も、たくさんあります。
企業は、助成金をもらうことによって、従業員を社会保険に加入させやすくなるというわけです。
社会保険に加入するということ
社会保険(健康保険や厚生年金)に加入しなくてはならないお勤めの方は、だんだん増えています。
従来は年収130万円以上の方が、社会保険に加入することになっていましたが、現在は、勤め先が従業員101人以上の規模の場合は、週20時間以上勤務し、年収106万円以上となると、社会保険の扶養から外れて、自分で社会保険料を払わなくてはなりません。
(2024年10月以降は、企業規模が51人以上まで拡大されることになっています。さらに今後は、このような企業規模条件は撤廃される方向で進むことが、見込まれています。)
それまではタダで入れていた社会保険、その保険料が天引きされて、手取りが逆転してしまうことは、「働き損」と嫌われ、「働き控え」を呼び、その結果、労働者不足の原因の一つになっているとも言われています。
年収が125万円程度に上がれば、保険料が天引きされても、手取りは同じぐらいに回復します。
今回創設された助成金は、労働時間を延ばしたり、基本給の引上げに努力する企業に対して支給されます。
この助成金が、パートタイマーの賃上げや、保険料の肩代わりに使われることで、働き損を恐れて扶養の範囲内で働いてきた主婦層が、社会保険デビューをするきっかけが作られそうです。
助成金の財源は?
雇用保険料を財源とする「キャリアアップ助成金」が拡充され、新たな助成金が設けられます。
キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを進めるために、正社員にしたり、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。
パート社員の保険料の穴埋めに、なぜ雇用保険料が使われるのか、という批判が、ネットでも散見されます。
保険料が肩代わりされるということに対しても、保険料を収めている人から、不公平という声があがっています。
しかしながら、今回の助成金は、従業員の処遇改善に努力する企業に対して支給される、という面を見れば、キャリアアップ助成金の主旨から、外れてはいないとも言えます。
3年程度の時限措置
政府はこの助成金を「当面の対応」とし、これを実行した上で「さらに制度の見直しに取り組む」と繰り返しています。
2025年には、年金制度の改正が予定されているので、それに向けて、抜本的な社会保険制度の見直しに取り組む方針と思われます。
会社の規模にかかわらず、短時間労働者が社会保険に加入する適用拡大は、この先も、どんどん進められていくでしょう。
一定の年収以下ならば、配偶者の扶養に入り、保険料もタダで済むという第3号被保険者制度は、以前から議論の的でした。
被保険者は次第に少なくなっていて、その傾向は加速するかもしれませんが、根本的な制度の改変は難しいようです。
将来、抜本的な改革が実現し、働きたい人が、働きたいだけ働ける、そして自分自身の社会保険に加入して、将来の年金も増やせるような制度となるには、まだ相当な時間がかかるかもしれません。
今回の助成金が、それに向けて、どのように有効活用されるか、それとも、場当たり的なばらまきで終わるのか、注目していく必要があります。
年収の壁について、過去記事はこちら
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