賃上げのニュースが増えています。
嬉しいことですね。
春闘では満額回答が相次ぎ、正社員だけでなく、パート、アルバイトの時給も引き上げる会社が多いようです。
最低賃金の全国平均1,000円超えも、実現するかもしれません。
それに伴い、最近注目されているのが、「年収の壁」です。
収入が一定額を超えると、税金や社会保険料が増え、手取りが減るという現象が起きるのですが、これが「年収の壁」と呼ばれています。
会社員の夫を持つパート主婦の方々が、夫の扶養の範囲内で働くために、壁を超えないよう、年末になると働く時間を調整することは、以前から広く行われていました。
今後は、最低賃金が引き上げられたり、社会保険に加入する人の対象範囲が増えていくことによって、この就業調整を行う人が、ますます増えると予測されています。
この春は、コロナ禍の行動制限がなくなり、経済活動にも活気が戻りつつあります。
特に、飲食業や観光業は、これから多くの働き手を必要としています。
そんな折に、年収の壁によって、働くことを控える人が増えるのは、人手不足の大きな要因となることが、先日の国会でも問題に上がりました。
働く主婦にとっても、この物価高の折、パートで少しでも生活費を稼ぎたいのに、それができないというジレンマになっているようです。
国会では、手取りの減少分を国が補うという案も出て、岸田首相は、対応策を検討することを表明しています。
ですが、単身者やフルタイムの共働き夫婦との公平性を損なってまで、国が専業主婦を援助する必要はあるのでしょうか。
今後、どのような対応策が講じられるのか、気になりますね。
前置きが長くなりましたが、今回は、この「年収の壁」について、お話したいと思います。
年収の壁
一口に年収の壁といっても、内容はかなり複雑です。
まず壁は1つではありません。
6つもあります。
100万円、103万円、106万円、130万円、150万円、201万円の6つです。
そして、壁には2種類あります。
税制上の壁と、社会保険上の壁です。
上記6つのうち、106万円と130万円は、社会保険上の壁で、それ以外は税制上の壁です。
130万円の壁は、一番有名ですね。
年収がこれを超えると、自分で健康保険や年金に入らなくてはならないため、保険料が発生し、手取りが減る現象が起きます。
お勤めの会社の規模によって、106万円の壁もできました。
この年収の壁について、大変わかりやすい表がありましたので、ご紹介します。
次の表を見てください。
これは、夫が会社員で社会保険に加入、給与所得が900万円以下、妻がパートで、夫妻には他に収入が無く、扶養親族もいないという前提で、妻の年収に応じて、税金や社会保険料がどのようになるか、を示したものです。
表は、FP協会の会報誌から作成しました。
●収入と税金・社会保険との関係
※FP協会 FPジャーナル 2022.2月号より作成
●100万円の壁と103万円の壁(税制上の壁)
住民税は、年収100万円以下までは課税されません。
所得税は、年収103万円以下までは課税されません。
この違いは、住民税と所得税の課税方法の差です。
給与所得者の場合、まず収入から給与所得控除を引いて、所得を求めます。
給与所得控除は、162万5,000円までの給与収入なら55万円です。
年収100万円なら、所得は45万円。
年収103万円なら、所得は48万円。
住民税には、所得割と均等割があります。
所得割の非課税限度額は、全国一律で45万円です。
均等割の非課税限度額は、東京では45万円ですが、こちらは地域差があり、もっと低くても課税される地域もあります。
共に45万円であれば、所得割も均等割も課税されません。
地域差はありますが、100万円以下は住民税がかからない、と言えます。
一方、所得税の場合は、所得から、所得税の基礎控除48万円を引きます。
年収103万円以下の人は、所得が48万円以下なので、課税所得がゼロとなり、所得税はかかりません。
●106万円と130万円の壁(社会保険上の壁)
社会保険とは、ここでは健康保険と厚生年金を指します。
パート従業員など短時間労働者の方が、社会保険に加入するには、本来、所定労働時間や労働日数が、フルタイムの一般社員の3/4以上である必要がありました。(4分の3基準)
2016年から、社会保険に加入すべき人の範囲は、徐々に拡大されており、現在は、従業員101人以上の会社で、週20時間以上、かつ契約上の月額賃金が8万8千円以上で勤務する場合も、社会保険に加入して、保険料を納める必要があります。
この従業員数の条件は、2024年10月からは、従業員51人以上の会社にも拡大されることになっていて、今後は従業員数の条件そのものが、撤廃される議論も始まっています。
月額8万8千円を年収に換算すると、88,000×12ヵ月=105万6,000円となるため、これが、106万円の壁と呼ばれています。
社会保険料が発生し、手取りが減って、働き損になることもあり得ます。
一方、将来、厚生年金額が増えたり、健康保険が手厚いというメリットもあります。
この月額賃金は、契約上の賃金であり、残業代や賞与、通勤手当などは含まれません。
つまり、年末に残業を減らして106万円未満に抑える必要はないわけです。
一方、130万円の壁の方は、残業代や交通費、諸手当などを含みます。
106万円の壁をクリアした場合、
つまり、勤め先の従業員が100人以下だったり、週20時間未満しか働いていなかったり、月額賃金が8万8千円に満たない被扶養者でも、
年収が130万円以上になると、配偶者の社会保険の扶養からはずれます。
社会保険料が発生し、手取りが減って、働き損になる可能性もあります。
一方、将来、厚生年金額が増えたり、健康保険が手厚いというメリットもあります。
注意したいのは、勤め先の社会保険に入ることができない場合です。
その場合は、国民健康保険や国民年金に加入して、国民健康保険料や国民年金保険料を納めなければなりません。
時給が高く、労働時間が短いケースなどが、当てはまります。
たとえば、従業員100人以下の会社では、勤務時間が正社員の3/4未満の場合、勤め先の社会保険に入れません。
勤め先の社会保険であれば、保険料の半分を会社が負担してくれますが、国保・国民年金の場合は、保険料は全額自分で支払う上、将来の厚生年金額も上がりません。
自分で保険料を納めるメリットが、あまり感じられないケースです。
でも、今後は、企業規模にかかわらず、週20時間以上、契約賃金が年106万円以上でお勤めしていれば、誰でも社会保険に入る時代がやってきそうです。
多くの短時間勤務の方が、社会保険に加入することとなれば、130万円の壁に当てはまる人は、少なくなっていくことでしょう。
●150万円と201万円の壁(税法上の壁)
これらは、妻ではなく、夫の税金に関係する壁です。
夫の給与所得が900万円以下の場合、妻の年収150万円超から、夫の配偶者特別控除が徐々に縮小されていきます。
201万円を超えると、配偶者特別控除はゼロになります。
夫の配偶者控除は、38万円~3万円まで、少しずつ減っていきます。
手取りには、あまり影響が出ません。
以上、6つの壁について見てきました。
漠然と年収の壁と言っても、色々な種類があり、その影響も異なります。
働き損にならないためには、税金や保険料がいくらになるのか、知っておきたいものですし、妻の年収によって、配偶者手当を支給する会社等もあるようですので、ご自分の年収を把握し、壁を超えるメリット・デメリットを考える必要がありますね。
税金や保険料を恐れて、働き控えが行われるのを防ぐためとして、今後どのような対応策が取られるのか、それはまだ、よくわかりません。
助成金などの案も出ていますが、対応策は、専業主婦ばかり優遇されるような、不公平感を煽るものであってはならないという声が上がっています。
そもそも、配偶者の扶養に入れば、年金や健康保険の保険料を払わなくて済むという、「第3号被保険者」制度そのものが、時代に合わない専業主婦優遇制度として、かなり以前から批判されてきました。
もともと、第3号被保険者制度は1985年に始まり、収入の少ない女性を保護し、年金を確保するために設けられた制度です。
働く女性が増え、年収も上がってきている現在、助成金などの小手先の対応ではなく、時代の変化に合わせた抜本的な社会保険制度の見直しが必要なのかもしれません。
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