2040年、トヨタの新車販売台数は半分以下の400万台になる…米投資会社が出した衝撃の予測
トヨタの電動化戦略は、本当にスゴいのか
2021年末、日本の自動車業界に大きな衝撃を与えるニュースが流れました。あの世界最大の自動車メーカーであるトヨタが、ついにEVに本腰を入れるということを発表したのです。
トヨタは、世界初の量産ハイブリッド車であるプリウスを皮切りに、ハイブリッドというカテゴリーで圧倒的な地位を確立し、全方位戦略と自称して、ガソリン車、ハイブリッド車、EV、プラグインハイブリッド車、そして水素燃料電池車まで、あらゆるパワートレインの開発と商品展開を並行する戦略を採用してきましたが、その中で残念ながらEVの商品展開には最も消極的でした。一部の機関投資家やメディアからも、トヨタは全方位戦略と自称しながらも、EVに対しては消極的だと批判されていたのです。トヨタはそのような世の中の懸念を払拭するためにも、EVに特化した投資概要を発表する必要性に迫られ、2021年末に豊田章男社長自らが登壇して、2030年までのEV戦略を発表したのです。
2035年までにレクサスの完全EV化完了へ
それでは、トヨタがどのようなEV戦略を発表したのか、具体的に見ていきましょう。
・2030年までにトヨタ・レクサス合計で350万台のEVを発売
・2035年までにレクサスの完全EV化完了
・2030年までに電動化に対して最大8兆円を投資
・2030年までに年産280GWh(ギガワットアワー)ものバッテリーを確保
以上が、トヨタの「バッテリーEV戦略に関する説明会」において発表された特筆すべきポイントです。
このように見てみると、やれEV30車種であったり、やれ8兆円投資など、極めてインパクトの強い数値が目に飛び込んでくるため、ついに巨人トヨタが本格的にEV市場に参入してきた、と感じる方が多いかもしれません。
しかしながら、このトヨタが発表してきたEV戦略に関する数値をしっかりと分析し、競合メーカー勢と比較しなければ、本当の全容をつかむことはできません。ひとつずつ詳細にその内容を見ていきましょう。
フォルクスワーゲンの電動化戦略はトヨタを上回る
まず第1に「2030年までにトヨタ・レクサス合計で30車種のEVを発売」という点ですが、例えば日産は、2030年までに15車種ものEVを発売することをすでに表明しています。トヨタと日産は、グローバル販売台数でおおよそ倍程度の差があることから、トヨタの販売車種が日産の倍であるのは当然です。とすると、実はトヨタの30車種のEV発売というのは、日産の電動化戦略と同じ規模感である、ということになります。
一方、現在既存メーカーの中で最も電動化にシフトしていると定評のあるドイツのフォルクスワーゲングループの電動化戦略を見てみると、2030年までになんと70車種ものEVをラインナップすることを表明しています。もちろん、車種というカテゴリーがどのような切り口となるのかによって、一概にトヨタの30車種と同列に比較するのは適当ではないものの、少なくとも販売台数ベースで同等のトヨタよりも明らかに展開車種が多いのは明白です。つまりトヨタのEV30車種という数値は、世界基準で比較してみると取り立てて多い数値ではないのです。
2030年時点でのEV化率でも見劣り
第2に、「2030年までにトヨタ・レクサス合計で350万台のEVを発売」という点ですが、こちらもEV30車種と全く同様、絶対値としてはインパクトのある台数ではありますが、例えばフォルクスワーゲングループのEV販売台数予測を見てみると、2030年までに全乗用車の販売台数のうち、50%以上をEVにリプレイスするとアナウンスしています。フォルクスワーゲングループの乗用車販売台数は概ね1000万台程度ですから、フォルクスワーゲングループが想定している2030年時点でのEV販売台数は500万台程度ということになります。
するとトヨタの350万台というEV販売台数は、確かに絶対数として見れば多いように感じるものの、ライバルメーカーと比較すると、むしろその販売台数は少ないのです。
2030年時点におけるEV比率を比較してみても、トヨタは30%程度。対するフォルクスワーゲングループは50%と見劣りします。EV販売台数350万台という数字だけを見て、トヨタのEV戦略が極めてアグレッシブだとは言えないのです。
高級車ブランドでもレクサスの出遅れ感が否めない
すでにEVに舵を切っている世界の高級ブランド第3に、「2035年までにレクサスの完全EV化完了」という点ですが、確かに今から10年ちょっとでレクサスから発売される車両が全てEVになってしまうとイメージすれば、これは大きな変化です。しかし、このレクサスが属する世界の高級自動車ブランドを見渡してみれば、各ブランドはそろってEVに舵を切る方針をすでに表明済みなのです。例えばドイツ御三家であるメルセデス・ベンツは、2030年までにはグローバルで発売する全ての乗用車をEVのみにする用意があることを表明し、そのためのバッテリー生産量を確保する投資概要を発表済みです。
アウディも、親会社のフォルクスワーゲングループの意向に沿う形で、2026年以降に発売される新型車は全てEVのみ。2033年以降については、原則として内燃機関車の販売を完全終了する方針を表明しています。
またBMWは、全てEV化するという流れには懐疑的で水素を活用したモビリティの開発を進めたりしていますが、やはり将来中心に展開していくのはEVであり、2023年中にも全てのセグメントに最低1車種以上のEVをラインナップし、2030年までにはグローバル販売の50%以上をEVに置き換える方針を表明しています。傘下のロールスロイスについても2030年までにEVブランドに移行する方針を表明して初のEVとなるSPECTRE(スペクター)を発表し、2023年中にも納車をスタートする予定です。
世界の高級車ブランドは2030年までにEV化を完了
韓国の自動車メーカー、ヒョンデの高級車ブランドであるジェネシスは、2025年以降に発売される新型モデルは全てEVか水素燃料電池車の排気ガスを一切排出しないゼロエミッション車両とし、2030年までには既存モデルの内燃機関車の販売を完全に終了することを表明。つまり2030年からジェネシスはEV、もしくは水素燃料電池車の専業ブランドとなる方針を表明しています。EVシフトが加速する中、特にそのペースが早い高級車ブランドは、2030年ごろをひとつの目安として、そろってEVへの転換を計画しているのです。EVはそもそもの車両パッケージとしてエンジンがないため振動がなく、静粛性に優れています。バッテリーが車両底面に搭載されていることによって車体の重心が非常に低く、より安定し、かつスポーティな走行を楽しめます。まさに高級車メーカーの目指す理想の車をEVによって体現することができるのです。
こうしてみると、2035年までにレクサスがEVしか発売しなくなるという方針は、世界の高級ブランドのEV戦略と比較してみると、取り立てて特筆すべきEV化のタイムラインではありません。むしろ高級ブランドの完全EV化はもはや避けては通れないので、トヨタグループとしてはその世界の潮流に追随する形で、EV一辺倒の戦略を遅ればせながら採用してきたというわけなのです。
トヨタのEV投資額はフォルクスワーゲンの約半分
第4の「2030年までに電動化に対して最大8兆円を投資」を見てみましょう。8兆円という投資規模を漠然と聞くと圧倒的なスケール感でEV戦略が進んでいくと感じるわけですが、この8兆円という投資規模は、あくまでも2030年までのトヨタの「電動車」全体に対する投資総額です。
気をつけていただきたいのは、この「電動車」という言葉です。トヨタをはじめとする日本メーカー勢は、よく電動車という用語を用いてEV戦略を説明するわけですが、電動車=EVではありません。電動車の定義にはEVだけではなく、プラグインハイブリッド車や水素燃料電池車、そしてトヨタや日本メーカー勢お得意のハイブリッド車も含まれています。つまり8兆円という投資規模というのは、EVに対してのみの投資額ではなく、プラグインハイブリッド車、水素燃料電池車、そしてハイブリッド車に対する投資額全てを合計した総額です。8兆円の投資額を分解してEVのみに対する投資額を見てみると、その金額はズバリ4兆円。この金額を生産台数ベースで同格のフォルクスワーゲングループと比較してみると、フォルクスワーゲングループは2021年から2026年までの5年間で、520億ユーロ、日本円に換算しておよそ7.3兆円をEVに対して投資する予定です。
トヨタは2022年から2030年までの9年間で4兆円。フォルクスワーゲングループは2026年までの5年間で7.3兆円。このように比較してみると、フォルクスワーゲングループの投資額が飛び抜けており、トヨタのEVへの投資額が取り立てて多いのかと言われれば、そうでもない、ということがわかります。
トヨタのバッテリー調達力は多いとはいえない
最後に第5として、「2030年までに年産280GWhものバッテリーを確保」という点ですが、年産280GWhという数字からトヨタの大規模なバッテリー生産計画を連想されるかもしれません。
しかし例えば日産は、同じく2030年までにグローバルで130GWhというバッテリーを確保する方針を表明しています。先ほどご説明した通り、日産はトヨタの半分程度の車両販売台数ですから、単純計算してみると、トヨタの280GWhというバッテリー調達能力は、日産と同等の調達能力であるということが簡単にわかります。
韓国ヒョンデも、2030年までにグローバルでEV販売台数187万台という目標を達成するために、ズバリ170GWhというバッテリーを確保する方針を表明済みです。ヒョンデの乗用車全体の販売台数がコロナ禍以前の2019年時点で447万台程度、同年のトヨタの販売台数1074万台に対して約半分であったことを勘案すれば、少なくともトヨタよりも乗用車の販売台数に占めるバッテリーの調達量の割合が高いということになります。
フォルクスワーゲンはヨーロッパに6つのバッテリー工場を建設
特筆すべきはフォルクスワーゲングループで、ヨーロッパ域内に合計6つものバッテリー生産工場を建設する方針を表明し、すでに3つの工場の建設をスタートしています。2030年までにはこの6つの工場で年産240GWhという生産キャパシティを確保することになります。加えて現在、北米市場においてもバッテリー生産工場の建設を計画中です。
さらに中国市場においては、CATLや株式を多く保有するGotion High-Tech(ゴーション・ハイテック)などのバッテリーメーカーと更なるバッテリー調達の契約を結ぶことも間違いありません。
圧倒的な規模でバッテリー生産を計画しているフォルクスワーゲングループと比較すると、トヨタが主張しているバッテリーの生産キャパシティは、世界と比較しても特段多いとは言えないのです。
大きなニュースになったトヨタのEV戦略ですが、こうしてひとつひとつじっくり見てみると、世界のEVシフトの中では、取り立てて際立った戦略ではないということがわかります。
2040年には自動車業界地図が塗り替わる
このようにして、かつてEV先進国であった日本は、EV戦争の第一線から後退してしまっているだけでなく、すでに周回遅れ状態となってしまっています。特にEVの販売台数を決定づけるバッテリーの生産体制は、現状の計画が世界と比較しても控えめです。日本国内のメディアに絶賛されたトヨタのバッテリー調達も含めたEV戦略は、世界と比較してみると特に目立った戦略ではないことがおわかりいただけたと思います。このトヨタに関して、一部の投資会社が驚きの予測を示しています。アメリカの投資銀行であるパイパー・サンドラー社が見立てた2040年時点における自動車メーカーの販売シェア予測によると、2040年にフォルクスワーゲンは、全体のシェアで最多の11%を獲得。台数ベースではおよそ920万台ということで、現時点と比較してもあまり変化しない見込みですが、注意していただきたいのが2035年以降、主要先進諸国では新車はEVしか売ってはいけない時代に突入し始めているという点です。
テスラは2022年時点で140万台程度の販売台数ですが、2040年時点での予測値が800万台以上となり、フォルクスワーゲンに次ぐ世界第2位の自動車メーカーになると予測されているのです。
トヨタの販売台数は半分以下の400万台にまで落ち込む
その一方で、現在1000万台の販売台数を誇るトヨタの販売台数は、なんと半分以下の400万台にまで落ち込むと予測されています。フォルクスワーゲンとトヨタが1000万台というレンジで競っている現在の状況から約20年後、フォルクスワーゲンはなんとか920万台を維持する一方、トヨタは半分以下にまで落ち込み、トヨタに代わってテスラが820万台にまで販売台数を伸ばし、世界のトップメーカーに成り代わるという驚くべき逆転の構図です。
周回遅れのEVシフトによって、将来的に日本の自動車産業が大打撃を被る未来が予測されているという事実は、多くの日本人が知っておくべきなのではないでしょうか。
EV専門ジャーナリスト