あれから3日が過ぎた。未だ前入居者からの連絡はない。
電話番号を知らないので俺から連絡することも出来ない。
唯一助かったのは敷金を2ヶ月分預かっていたことだ。
ここの家賃は11.5万円だった。
つまり敷金は23万円預かっているのだ。
本当にバックレたにしても、この分は取り敢えず手に入る。
改めて敷金の大切さを思い知らされた。
このアパートを譲ってくださった前オーナーに感謝する。
途方に暮れていても何も始まらない。
専門家より見積もりを取り、リフォームに備えた。
この部屋は55㎡と広めの間取りなので
クロスの張替えだけでも2ヶ月の敷金分を超えていた。
その他、ドアの引っかき傷やサッシ部分の修理、
部屋中にやたらと張り巡らされたケーブル、
室内外に放置された残地物、
これらを修繕、廃棄処理するとなるといくら掛かるのか、
考えただけでも胃に穴が空きそうだ。
満室オーナーチェンジは見えないリスクが山積みだ。
翌日の夕方知らない携帯番号から電話が入った。
「はい、もしもし」
「あ、○○です。まだ敷金を返してもらっていないので、
どうすれば良いかと思い電話しました。」
前の入居者からだった。
あんなに待っていた連絡なのに俺は複雑な気持ちだった。
なぜなら、連絡がなければ23万円はそっくり俺のものになった。
だが、電話の向こうのまだ見ぬ女性は敷金の返還を求めている。
あんなに部屋を汚しておきながら、サッシを壊し、
残地物を放置しているのに、敷金が戻ってくると思っているのだ。
この根本的なギャップはある意味とてつもなく恐ろしい。
俺は覚悟を決めてこう切り出した。
「ご連絡ありがとうございます。先週部屋を拝見しました。
残念ですが、クロスの張替えだけでも現在お預かりしている
敷金以上の費用が掛かることが明らかになりました。
つきましては破損部分に関して追加のご請求を考えています。」
しばらく沈黙があった。
無理もない向こうとしては全くの寝耳に水であろうから。
返金どころか支払いを要求されている事実を飲み込めないでいる。
電話の向こうの女性はヒステリック気味にこう言ってきた。
「私ではわからないので主人とあってください。」
「了解しました。それでは今週の日曜日は如何でしょう?」
携帯に着信履歴があるから、もう大丈夫だ。逃がすことはない。
何かあればこちらから電話できる。再度アポを取った。
そして先週末は約束どおり現地でずっと待っていた旨を
嫌味を込めて伝えてから電話を切った。
さあ、いよいよ直接対決だ!
交渉の為の準備に早速取り掛かった。
