ずいぶん間が空いてしまいました。

 暑さにやられていたのもありますが、何か本を紹介したいなと思いつつも頭に浮かぶのはすでに書いてしまったものが多く、足踏み状態が続いて今に至ります。

 今日は広島に原爆が投下された日です。

 原爆を主題にしたものではありませんが、手元にちょうど戦争を描いた絵本があるのでそれを紹介しますね。

 

 『この本をかくして』 マーガレット・ワイルド 作 フレヤ・ブラックウッド 絵 アーサー・ビナード 訳 岩崎書店

 

この本をかくして この本をかくして
1,620円
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 あらすじとしては、

  ピーターの住む町が空襲に遭い、図書館も破壊されます。

  本はすべて木っ端みじんになって紙吹雪が散るのを人々は惜しみました。

  そんななか、実は一冊だけ無事の本がありました。

  ピーターの父親が貸し出ししていた物語の本。

  敵に街を占領され退去命令が出た時に、父親はそれを大切に布に包んで持ち出しました。

 

  『ぼくらにちながる、むかしの人たちの話が ここにかいてある。

   おばあさんのおばあさんのこと、おじいさんのおじいさんのまえのことまでわかるんだ。

   ぼくらがどこからきたか、それは金や銀より、もちろん宝石よりだいじだ』

   (原文引用)

 

 そうして父子は難民として長い旅に出ることになります。

 しかし、道半ばで父は衰弱していき…。

 父の遺志を継ぐピーター。

 どのような方法で彼が本を守ったのか、それは実際に絵本を読んでみてくださいね。

 

 なぜ、本がそれほどまでに大切なのか。

 そして、本とは図書館とは、人にとってどのようなものなのか。

 それを、静かに優しく語りかけてきます。

 

 

 本とは、何だろう。

 私は、文化の一つと思います。

 そして、文化とは、人が人である証であり、砦だと思います。 

 人は記憶または想像したものを誰かに伝えたいまたは残したいと思った時、その手段としておおむね文字を使います。

 文字がなければ口伝や絵で、また歌や踊りや音、身振りなどを使って受け継ぎ、広めます。

 こうして人々は誰かの作り出したものを頭と心でなぞって楽しみ、共感するのだと思います。

 しかし、それらを受け継ぐ力がなくなったとき、ぱたりと途絶えてしまうのも文化です。

 本は記録であり、記憶です。

 そして、知識の扉であり、心の支えでもあります。

 

 ときに、戦争は。

 ひとを根だやしにしてしまいます。

 それは、爆弾の力だけではなく。

 正義を掲げて攻め込む側は人の心をなくして化け物になり、攻め込まれる側はただの的であり人とはみなしてもらえません。

 そんななか、人が、人であることはとても難しい。

 生きていくために必要なものはもちろん安定した衣住食です。

 しかし、人として必要なものは文化だと私は思います。

 その導き手の一つが本です。

 誰かを思うとき、考える時、自分一人では限界があります。

 何かを知れば、その答えを見つけられるかもしれません。

 無用な争いを避けることができるかもしれません。

 辛いことや悲しいことがあって心が波立っているとき、違う世界へ連れて行き、視線を変えてくれるのも、また本だと思います。

 

 戦争とはなんだろう。

 人とはなんだろう。

 一瞬でも、一人でもいいから考えるきっかけになるために、本は存在しているのではないでしょうか。