富澤ユリが上京して俳優をめざしたがうまく行かず、故郷の下関に帰る。何かをめざすと東京になるのは需要があるからだ。仕事が多くある、特に俳優のように特殊な仕事は演じる場やテレビ局、撮影所のあることが必要だが、東京である決定的な理由はない。舞台なら東京でなくてもあるし、テレビ局、撮影所もある。
東京以外でも俳優できなくないか? 山の中や過疎の地域ではない、映画館や劇場のある地方都市なら劇団もあるだろう。そこに潜り込めばなんとかなりそう。東京で役をもらえなかったのに田舎で俳優はやはり無理か。仲間たちとほそぼそ芝居を続けるのならなんとかなりそうだ。
俳優や芸人志望の人はいくらでもいるだろう。そして皆が東京に行く。大都市に集中した俳優志望者の競争率は高まるばかりだ。これはどちらが先かという鶏卵論にはまり込んでしまうだけだ。解決はつかない。競争率の高い大学に入るための方法を解いても全面的解決にならない。志望者全員を無試験で合格させたら学校は人で溢れる。教室にも入りきれない。教師は足りない、まともな授業は開けない。いっそ抽選で決めるのはどうか、ただし卒業は難しくする。
勉学はともかく社会に出てからの生活、つまり生活費を稼ぐ方法が問題になる。仕事はなんでもいい、好きなことをしたい、有名になりたい、政治家になって社会貢献したい。働かないでぐーたらしたい、これも選択肢に入る。
ユリは父が経営するFM局の手伝いを始めたが、局は経営危機だ。スポンサーが降りるといってきた。放送局にとってスポンサーが一番だ。金をスポンサーが出さなければ終わる。悲しい立場だ。地方のFM局でさえこうだ。全国展開する放送局は放送法で許認可権が政府にある。放送の内容まで毎時審査されるようだ。地方のFM局が審査されることはないと思うが、リスナーがいなければ成り立たない。身近な内容で、かつ役立つ放送。どうすりゃいいんだ。
局では色々と試してみる。ラジオで朗読、小説の朗読は実際にある。小説を読むのではなく聴く。読むのが苦手な人はいる。黙って聞いていれば読んだのと同じ効果がある。これなら簡単だ。しかも朗読者は朗読に長けた俳優などがする。たぶんじっくりと聴けば楽しめると思う。私は読む派なので聴いたことはほぼない。
小泉八雲の怪談「耳なし芳一」をゆかりの下関から放送することになる。全国各地にゆかりの話がある。童話でも小説でも唱歌でも良い、いくらでも放送にのせられるじゃないか。工夫次第で生き延びれる。はたしてユリはここに居続けるのか、東京に戻れるのか。ユリの代わりに俳優の深町友里恵を注目しよう。
旅行に行った時、その地方の放送を聞くことがある。今は東京にいても地方のラジオを聴けるようになっているようだが、やはりその土地にいる時に聞くのがいい。下関のFM局、あったら聞こう。
監督 グ・スーヨン
出演 深町友里恵 加藤雅也 大後寿々花 西尾聖玄 山崎静代 佐野史郎 大和龍之介 澄田壮平 伊藤由紀 IKKAN 坂牧良太 鎌田秀勝 サトウヒカル 加賀成一 福場俊策
2023年