オールド・フォックス 11歳の選択 2024.6.15 新宿武蔵野館3 | ギンレイの映画とか

ギンレイの映画とか

 ギンレイ以外も

 父タイライ、息子リャオジエの暮らすアパートのオーナーはこの辺りの地主シャで腹黒いキツネ(オールド・フォックス)と呼ばれていた。彼は成金だ。成金であっても裸一貫一代で財を成したのだから大したものだ。多分そうとう強引な手段も使ったのだろう。見た感じからして分かる。ヤクザかギャングの親分のようで、普通なら近づきたくない人物だ。金銭に強欲なのは性格だろう。金持ちほどケチらしい。だから金がたまったとも言える。

 

 シャが雨に濡れてるリャオジエをひろって車に乗せたのは偶然ではない。きっと分かって車を停めてドアを開けたのだ。気まぐれな行動は余裕があるからできることだ。いわば暇つぶしのようなこと。今どきの子どもはどんな感じなのか知っておいても悪くない、くらいな気持ちだったろう。

 

 リャオジエはあんがい度胸があって、見知らぬ老人を恐れることはない。人間は見かけに寄らないはずなのに、誰もが見かけで判断しがちだ。それでも彼がいい人には見えないのは確かだ。じゃあ見かけで判断してるじゃないか、と言われても仕方ない。結局そうなのだから、でもそう思われる人はたぶん自分でもわかっているから、逆にギャップを利用してシャのように車のドアを開けるのも良いかもしれない。

 

 どこの誰だか知らないところから次第に彼の正体が知れてくる。この界隈を大きな顔して、運転手付きの時もあれば、自分でスポーツカーを走らせることもある。自分の領地を見回ってるのだろう。ここからここまで自分の土地、自分の財産が目に見えるのってどんな気分だろう。

 

 いま頭に殺生与奪という言葉が浮かんだ。昔の殿様や王がやりたい放題できた頃の言葉だ。生かすも殺すも思いのまま、こんな権利、立場にあっても使いたくない。シャにはそこまでの権力はない。でもアパートの家賃を上げれば住人はたちまち困る。ここを出たら生きていけないかもしれない。これすなわち殺生与奪になる。

 

 金を持つことが特権を得ることにつながる。そして知らないうちに殺生与奪を行使するようになる。

 

 日本において殺生与奪使用者になる最も早い方法は政治家になることだ。初めから国会議員は無理でも、市会議員や区議会議員くらいならなんとかなる。そんな悪意ある試みがある。乗っ取るのは簡単だ。村長のなり手がいなくて、辞めるつもりの前村長がまたやることにした、というニュースを聞いた。

 

 ホウ・シャオシェンは「恋恋風塵」を見てから以前のを追いかけた。新作は作らなくなりプロデュースにまわってしまった。彼の映画は好きだった。あんな映画を見たいと思っていた。

 

 この映画はホウ・シャオシェンだ。時代と学生服、街のたたずまい。ホウ・シャオシェンは郊外や田舎が多かったが、都会の喧騒もいい。生きていることで精一杯でも望みはある。ささやかな望みを一つずつ叶えていけばいいがそんな思いも成就しそうにない。

 

 シャをめざすか、父を応援するか、リャオジエの明日は決まっていない。

 

監督 シャオ・ヤーチュアン

出演 バイ・ルンイン リウ・グァンティン アキオ・チェン ユージェニー・リウ 門脇麦

2023年