乳房よ永遠なれ 2023.11.18 国際映画アーカイブ | ギンレイの映画とか

ギンレイの映画とか

 ギンレイ以外も

 夫の安西茂は戦後の混乱の中、求職を熱心にする気はないし、妻に文句ばかり言いながら気持ちは愛人にあった。妻がとびきりの美人なのに、なんの不満があるのだろう。ここが分からない。ふみ子の最初の結婚は失敗に終わった。

 

 離婚して実家に戻って、自分の好きなことをしようと、短歌の会に入って活動を始める。彼女には才能があるようで、会の中で発表する句は好評だ。特に幼馴染の堀卓と歌会で会えることを喜んだ。彼とは同級で彼の妻のこともよく知っていた。実はこころ密かに堀卓が昔から好きだった。ところが同じ友人のきぬ子に取られてしまった。三角関係ではないが、本当は私の方が良かったのにと思っている。それなのに自分はつまらない男と結婚してしまった。と言っても友人のこともあるし、堀卓と何とか関係を持とうとしても無理なことだ。それに彼は病気持ちだ。

 

 ふみ子は情熱家で愛情には積極的だ。そのために夫に避けられたのかもしれない。実際にいた人物なのにこんなにあからさまに描いて良いのかな。そういう姿勢がこの映画にはある。あからさまに、隠すことなく、本能のおもむくままに生きることが、女性の本能であるように描いている。いろんな女性がいるとして、描くなら一方の極端を描くことも重要だ。誰もが認める平凡さは必要ない。むしろ毒害でもある。脚本、監督とも女性なので、特に主人公の女性を飾ることなく見せたのだろう。そういう彼女が乳がんに罹ってしまった。今でも完治は難しい病気だが、当時は切除するしかなかった。自分の気持ちに任せて生きることを優先させたが、病気には勝てなかった。

 

 また新聞記者の大月との関係も隠すことなく、むしろ煽るような描き方だ。当人以外の実在の人物に了解を得ていたのだろうか。小説家は自分自身や家族、友人を描くというが、映画監督はそこまではしない。でも田中絹代の俳優としてのイメージとは離れている。ここはむしろ演じる側とは正反対を向いて作ったのだろう。謀反を起こしても自分の陣地でだから誰からも文句は出ない。俳優は選ばれて演じるもので、自分で出演作を選ぶことはない。溜まったフラストレーションの捌け口としたのかもしれない。田中絹代の監督作品は6作にとどまった。

 

監督 田中絹代

出演 月丘夢路 葉山良二 織本順吉 川崎弘子 大坂志郎 安部徹 田島義文 森雅之 杉葉子 北原文枝 木室郁子 田中絹代 坪内美詠子 呉藤孝行 植木マリ子 飯田蝶子 左卜全 坂井美紀子 芳川千鶴 光沢でんすけ 相馬幸子 志賀夏江 菊野明子 浦島久恵

1955年