マドンナとの出会いがこんなに簡単なあっけないものとは思いがけなかった。ほとんど冒頭に出会ってすぐに別れる。ふみ(松坂慶子)とは後に大阪で再会する。大阪でのふみは見違えるようなあでやかさ、芸者姿では当然だ。もともとふみは美しい。寅が惚れるのも無理はない。
寅が惚れる理由は美しさだけでは足りない。綺麗な女性はいくらでもいる。美と哀しみが同居して合格だ。意識してそんな女性を探さなくても、あっちから寄ってくる。寅にはそんな女性を引きつける何かがある。はじめから相思相愛なのだ。
こんな出会いを求めても叶わないのが通常のこと。そこでそれを寅さんに託す。寅さんの恋愛が簡単に成就してしまっては、男性の観客は困る。ご苦労様だが今回も次回も失恋してほしい。
大阪は東京とはいちばん異なる都市だ。他の街を知ってるわけではないが、もっともよく分りやすい対象としての都市大阪がある。私の関心は文化としての大阪だ。寄席とか歌舞伎は東京にもあるが、彼の地にもしっかりとある。その存在が独特で同じものの別物として味わいたい。寄席はその最たるものだ。東京の寄席は何回か行ったけど、大阪のは行ってない。どんなのかも分からない。東京は落語が主でその他いろいろ、大阪は漫才が多いのかな。
映画はその点地方色はない。上映されるものは全国的だからだ。大阪でやって東京でやらないことはない。上映場所としての映画館は、どこも同じ形式のはわざわざ出かけるまでもない。それ以外の地方の特色のある映画館めぐりをしてみたい。
大阪は大阪人がいる。私は関西弁は苦手だが、芝居での大阪弁は歓迎する。味わい深い言葉だと思う。なぜか一般人の大阪弁は汚く聞こえる。この映画に出てくる笑福亭松鶴の使いようはなんだ。台詞もなくソファに寝ているだけ。ああもったいない。他の大阪の俳優は芦屋雁之助をはじめ男はつらいよの世界に馴染んでいた。
どんな事情があってのことか、ふみは弟と離れて10数年会っていない。今どうしているかすら知らない。姉と弟となれば兄と妹につながる。離れているからこそ懐かしく思い出すはず、寅はさっそく動く。離ればなれの姉弟に助け舟を出さずにいられない。
善は急げ、思い立ったらすぐ動く、これは大事だ。行動に移さないと次の機会は先送りになり、そのうち忘れる。そうなりがちだ。寅さんはそれを許さない。
弟の居場所は分かっていた。訪ねてみたら遅かった。これは意外であり残念だった。でもこうしないと先に進めない。ほかの方法はなかったかな。私には考えられないけど、こうしたのは監督の選択だから仕方ない。このシリーズの全てが成功とはしないが、好き嫌いはある。最後に残ったわけが知れた。松坂慶子に愛嬌がない、哀愁がない。特に今日の併映が、いしだあゆみだったから差が歴然。
大阪に寅の居所はあるのか。大阪に寅の仲間はいるのか。大阪は寅に合うのか。こんな疑問はあった。日本中あちこちに行っていろんな人たちと関わってきた寅さんに合わない場所があると思うのが間違い。大阪だけ特別扱いすることはない。
ジャジャーン、今回私は男はつらいよシリーズ全作品鑑賞をコンプリートした。1971年11月5日から2020年8月7日まで49年かかった。
監督 山田洋次
出演 松坂慶子 渥美清 倍賞千恵子 下條正巳 三崎千恵子 前田吟 吉岡秀隆 太宰久雄 佐藤蛾次郎 笠智衆 芦屋雁之助 初音礼子 正司照枝 庄司花江 大村崑 冷泉公裕 マキノ佐代子 関敬六
1981年