はちどり 2020.7.4 ユーロスペース ユーロライブ | ギンレイの映画とか

ギンレイの映画とか

 ギンレイ以外も

 ウニがドアを開けようとするが開かない。キーが効かない。なんども試して大声で母を呼ぶが返事はない。

 

 この間違え、覚えがある。自宅の真下のドアを鍵で開けようとした。自分家と思っているから、なぜ開かないのか何度もやってみた。そのうち気付いた。この部屋の住人がいなくて良かった。鍵をがちゃがちゃされて気分の良い人はいない。

 

 1994年ソウル。両親、姉、兄、一番下の14歳のウニの一家は団地に暮らしている。通っている学校に馴染めず、違う学校の親友と遊んだり、男子学生とデートをして過ごしていた。両親は餅屋をやっていて、忙しい時は家族みんなで手伝う。父は長男である兄に期待し、兄はまさに進学に向け勉学に忙しい。女性である姉とウニには関心さえないようだ。

 

 兄は親の目を盗みウニに暴力を振るう。たぶん両親の期待に応えられないいらいらを妹にぶつけるのだろう。そんな中ウニが通っている漢文塾の女性教師ヨンジに惹かれる。ウニは自分の話を聞いてくれるヨンジに心を寄せる。彼女から勉強以外のことをもっと聞きたい。

 

 ウニの病気は円形脱毛症のような精神的な原因からのように思える。入院したウニの見舞いにヨンジが来てくれた。

 

 ソンス大橋が崩落したニュースが大々的に報道される。姉が乗るバスが橋を通過する時間帯での出来事だった。姉は無事だった。まもなく、ヨンジから一通の手紙と小包がウニの元に届いた。

 

 冒頭の部屋を間違えて母にいらつく娘とか、兄が突然泣き出すところとか、わざわざ描く事はない場面をあえて挿入している。当人には分かっていることで言い訳しない。そんな理解不能な出来事、行動はある。物語の進行に無駄なこととされていたと思う。でも他人の考えることはわからないし、わざわざ尋ねたりはしない。また自分がなぜそうしたのか、どう思ったかを行動に合わせて検討することはない。映画の伏線かと思って記憶してしまうが、そうではなかった。

 

 表に出る行動を全て説明する事はない。そこに焦点を合わせる、なんて鋭い感性かと思う。そこに気付いた私も鋭い!?

 

 赤の他人の行為のそんなこといくらでもあるし、また家族の誰かの行動にも不可解な部分がある。変だなぁとか、疑問に思ってもほとんどそのまま通り過ぎてしまう。そんな事は日常茶飯事だからだ。

 

 実際にあった事故や事件に人物をはめ込む。韓国映画に多い。韓国に大事件や出来事が特別に多かったわけではないが、誰にでも思い当たる事件が多かったと思う。日本にもニュースとして入ってきていたし、事故であってもきちんと責任を追及する人たちの抗議行動を目にした。事故として諦めてしまえば終わってしまう。責任を明らかにしで裁くのは裁判所だとしても、そこで決着が完璧に着いたとは言えない。人々の気持ちの中に残る限り、事件は終わらない。ここに出た橋の崩壊、それによる犠牲者が身近な人であってほしくない。

 

 だが事件や事故は人を選ばない。殺人さえ相手を選ばない。殺すのならそれだけの理由が必要だ。事故はそこに居合わせたことが不幸なことだが、ほとんどは防ぎうることだ。橋梁の崩壊なんて完全にそうだ。建造物は壊れる。鉄やコンクリートには寿命がある。もろくなりいつか壊れる。食品に賞味期限があるように建造物にも期限をきめてほしい。

 

 ばらばらだと思われた家族だが、気になっていないわけない。気づかいはある、あるけど普段は出ないだけ。家族ってそんな感じじゃない?

 

 ごく普通の家族を描くのって難しい。ありきたりすぎてつまらなくなるかもしれないし、事件ばかり起こるのも変だし、傷は小さくても心に刺さったり、気にならなかったり。人それぞれの気持ちを整理してまとめて、はいこれがそうです、とはならない。同じことがあった、同じように思ったな、そこに触れるかどうか。かなり触れた。

 

監督 キム・ボラ

出演 パク・ジフ キム・セビョク チョン・インギ イ・スンン パク・スヨン キル・ヘヨン

2018年