レボフロキサシンという抗生物質があります。これは一般名ですがクラビットという商品名で呼ばれることもあります。キノロン系に分類されます。

 

この薬は中国語では左氧氟沙星(zuo3yang3fu2sha1xing1)といいます。商品名は可乐必妥です。中国でもよく使われていますので、使用したことがある人が多いのではないでしょうか。

 

普通1日1個(=1日トータル0.5g)内服する。なお以前は1個0.1gの製剤がよく使われ、1日に3回で1回に1個(=1日トータル0.3g)内服する方法で処方されていた。しかし1回に0.1g内服する方法は適正な使い方ではないので、特に理由がなければそのような処方はしてはいけない。

 

これはとても効果の高い抗生物質です。私もたまに処方します。優れた特性があり、うまく使うと大変よく感染症に効きます。効き目のある菌の種類が多いため、「抗菌スペクトラムが広い」と表現されます。

 

しかし、この優れた性質のために、残念ながら必要がないあるいは不適切な使用がされやすい薬です。

 

医師によっては何菌が原因かは考えるのが面倒なので「効けばいいや」と安易な理由で投与することがあります。理由にもなってないのですが。

 

乱用された結果として、この薬が効かない菌が増えてしまいます。例えば単純な膀胱炎の最大の原因である大腸菌には、昔と違い、もはや効果が高くありません。

 

 

とくに理由がなければ使わないほうがいい感染症は次のものが代表です。これらは他に治療法がなければこの薬を使うべきではありません。他の系統の抗生剤を使用します。

  • 急性細菌性副鼻腔炎
  • 単純な膀胱炎
  • 慢性気管支炎の細菌感染による急性悪化

 

また、慎重に使うべき感染症の例は以下です。これらでは、この薬を使うならばそれなりの理由が必要です。理由が適切なら、短い期間で処方します。

  • ウイルス性咽頭炎(ふつうの風邪はこれが多い。ウイルスには効果はない。二次感染があれば使うこともある)
  • ウイルス性胃腸炎
  • 結核が否定できない肺炎(もし結核なら結果的に治りが遅れる)

したがってレボフロキサシン(これに限らず抗生物質全般ですが…)は、必要性をよく見極めて使わなければならない、すこし厄介な薬です。

 

 

なんでレボフロキサシンは注意して使う必要があるのでしょうか。どうして安易に使わないほうがいいのでしょうか。

 

1つ目は副作用があること。めまいやしびれなどの神経症状、不整脈、アキレス腱断裂などがとくに有名です。副作用は出ない確率のほうが高いのですが、しびれなどは一度起きると永続的に残ることがあります。また、もともと存在する病気(高度の腎障害や重症筋無力症とか)によっては使用してはいけません。

 

2つ目に、他の薬との相互作用も多く「飲み合わせ」に注意を払う必要があること。ある種の胃薬と一緒に使うと効果が減りますので、内服時間をずらす必要があります。ある種の鎮痛解熱剤とは併用に注意がいります。

 

3つ目は耐性菌ができる可能性。無用に抗菌スペクトラムの強い薬を乱用すると、薬の効かない耐性菌を生み出す危険性が高まります。これについては全世界で今対策をとろうとしています。

 

4つ目は環境への影響。人工的に作られたこの抗生物質は、多くが尿に排泄され、その後に環境中に広がります。環境中でなかなか分解されない性質をもつ(だから体内でよく効く)ので、土壌や水系の中にそのままで長く残存します。結果としてやはり薬が効かない菌を環境中に増やすことになるのです。実際、蘇州の太湖の水からはキノロンを含め様々な抗生物質が検出されています(2016年の論文[1])。

 

5つ目は高価であること。抗生物質の中では高い薬ですから、経営の苦しい(?)クリニックでは乱用されます(苦笑)。このお金は患者さんが払います。

 

 

実際の臨床の場では、話はクリアでありません。100%の根拠はないがこの薬を使わざるを得ないと医師が判断することも多々あります。私も悩むことがよくあります。

 

現在、中国は世界最大の抗生物質消費国です(これについて過去の記事はこちら★。なお日本では抗生物質使用量は減少傾向にあります)。上海でも自分の処方された薬が何か、注意してください。不必要あるいは不適切な薬は服用すべきではありません。

 

なぜこの薬を使うのか、リスクや効果と不利益のバランスを考慮したのか、きちんと説明できる医師にかかりましょう。また、ちゃんと説明されない医療機関は避けましょう。選ぶのは患者さんです。

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[1] Song C​, et al. Occurrence of antibiotics and their impacts to primary productivity in fishponds around Tai Lake, China. Chemosphere. 2016;161:127