先日子供と抗生物質の関連の研究結果が上海の復旦大学のグループから発表されました(Wang H, et al. Environ Int. 2016;89-90: 204)。
彼らが調べた子供の尿の8割において抗生物質が検出され、肥満と関係しているという内容です。
この研究では上海の8-11歳の子供586人の尿について、21種類の人間用あるいは動物用の抗生物質が検出されるかを調べました。つまり体に入ったかどうかを尿中排泄の有無で調査するものです。
その結果、79.6%の尿から1種類以上の抗生物質が検出されました。しかも動物用の抗生剤が検出された子供は、過体重または肥満の傾向にあり、特に男児でその傾向があったそうです。
検出され、肥満と関連があったのはフロルフェニコール(牛、豚、鶏や一部の魚類に対して使用され、人間には使わない)やトリメトプリム(主に豚に使う。時に人間に配合剤の形で用いることもある)などです。
写真はこちらのHPから引用。
抗生物質は治療薬として飲む以外に、家畜に使われたものがその肉などに残留し、それを食事で摂取することで体に入ります。今回の子供の尿中の抗生物質は、多くが食品から不必要に人体に入ったものでしょう。
人間できちんとした証明はなされていませんが少なくとも動物では、抗生物質を慢性的に摂取すると腸内細菌が変化して結果的に肥満をもたらすといわれています(家畜としては、肉が多くなる方が商品としてはいい)。
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中国は世界で一番抗生物質を消費しています。2013年には16万2千トンが消費され、打ち七万8千トン(48%)が人間に、残りが動物(家畜)に使われています。
この図はこちらのHPから引用。
ちなみに昔から日本は抗生剤の使用量が世界的にみて多いという誤った理解が広まっていますが、中国の方がずっと多い(人口一人当たりで日本の20倍)のです。使用が多いと言われるアメリカと比べても中国の消費はその10倍以上です。
実際に中国のクリニックで治療をした日本人の話を聞くと、量の使い過ぎまたは選択した薬がそれでいいのかの疑問を感じることがまれではありません。
中国で抗生物質が人間で多く使われる要因は誤った認識(医師も患者さんも)です。例えばインフルエンザも抗生物質で治療するといった正しくない理解が存在します(タミフルは別)。
中国の市民の誤った認識についてはWHOの調査レポートも参照してください。
人間に対しても、家畜に対しても、適切な抗生剤使用が重要です。また医師や市民に対する実効性のある啓発活動も必須ですね。