人の鼻の中にいる細菌であるスタフィロコッカス・ルグドゥネンシス Staphylococcus lugdunensisが作る物質から、抗生物質の新薬が誕生するかもしれません。本日公開された論文(Zipperer, A. et al. Nature 2016:535, 511)から。
シャーレに入った赤い培地にまかれたスタフィロコッカス・ルグドゥネンシスの培養状態を示す写真。菌が白っぽい(写真ではわからないが黄色みがかっていう)筋状、あるいは点状にコロンーを形成しています。こちらから引用。
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ドイツのテュービンゲン大学のア研究者らは、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシスが産生するルグドゥニン Lugduninという物質が、すぐれた抗生物質となりうる可能性を発見しました。
抗生物質を産生する菌は、多くの場合土壌の中の菌からみつけられます。今回、人間の体にいる菌が人間の役に立つ物質を産生することがわかったのは驚きです。
ルグドゥニンの構造式。上記論文から引用。
抗生物質開発は、薬が効かない耐性菌発生との耐久レースのようになってきています。つまり新しい薬がでても、薬が乱用されてそれが効かない菌が発生(耐性を獲得)することの繰り返しです。抗生物質については、新薬が最近あまりできていませんでしたから、今回の発見は非常に明るいニュースです。
中国の抗生物質の危険な使用状況については以前の記事★をみてください。
なお、人間に用いるまでには、安全性の確認などが必要ですから、実用化にはまだ時間がかかります。
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スタフィロコッカス・ルグドゥネンシスはブドウ球菌の一種です。血漿を凝固するコアグラーゼを分泌しないためcoagulase-negative staphylococci (CNS)に分類されています。
フランスのリヨンにある研究所で1988 年に初めて報告されたため、リヨンのラテン名であるLugdunumにちなんで本菌名が名づけられました。
リヨンの街並み。いってみたいです。写真はこちらから引用。
スタフィロコッカス・ルグドゥネンシスは健康な人の鼻の中や皮膚に常在していて、普段は病原性は低いと考えられています。しかし、何かのきっかけでひとたび心内膜炎(心臓の内側を覆う膜の炎症)を起こすと心臓の弁を破壊し、致命率が高い病状を引き起こすという特徴があります。このほかにも敗血症、髄膜炎といった重い病気の原因となりえます。
おとなしいのか危ないのかわからない、ちょっと変わった性質をもった菌なのです。別の菌である黄色ブドウ球菌(この耐性菌がMRSAとよばれ世界中で問題となっている)との常在頻度の差が今回の研究の発端になったようです。
今回の研究者には拍手を送りたいですね。