中国産の牛肉・豚肉に、赤身を増やすため人為的に与えられた、喘息治療薬でもある筋肉増強剤が残留していることがあり、スポーツ界のドーピング検査で問題になっています。以下産経新聞2016年5月14日の記事から。

 

中国産牛肉・豚肉を食べただけでドーピング違反になるなんて…「筋肉増強剤で汚染」と米NFLが注意喚起
> 米プロフットボール、NFLが今月、中国産とメキシコ産の食肉を食べないよう、選手らに注意を呼びかける通知を出した。両国で生産されている食肉に、NFLが使用を禁止している筋肉増強剤「クレンブテロール」が含まれている恐れが確認されたためだ。実はこの問題、少なくとも2010年の時点で、公になっていた。(以下略)

 

正直、「またか」あるいは「まだやってるのか」呆れました。中国では2010年よりも前からこのことが社会問題になっていたのに、いまだに同じことを繰り返している。2006年には上海で409人の薬剤性食中毒がありました(後述)。

 

クレンブテロール(日本では商品名スピロペントで、喘息および尿失禁治療薬、中国名は克伦特罗)は、食肉の脂肪を減らして筋肉を増やします。このため脂肪の少ない赤身肉を作る目的農家が意図的に動物に投与することがありました。瘦肉精と呼ばれます。当然禁止されている行為です。

 

 

写真は医薬用のスピロペント錠。製薬会社のHPより引用。

 

 

この薬はボディビルダーが筋肉を増やすために自己責任で内服することもあります。しかし多くの競技スポーツの世界ではこの薬の使用を禁止しており、競技者の尿などから検出されるとドーピングと判定されます。

 

なお治療薬としてクレンブテロールを内服する必要があるスポーツ選手は、あらかじめ治療特例の申請(TUEという)をして各競技連盟に届ける必要があります。

 

 

問題は赤身肉を害がないと信じて口にする消費者の健康被害(混入を知らないで食べるスポーツ選手もこれに含まれる)。死亡に至るケースはほとんどありませんが、クレンブテロールを多量に摂取すると、手足のふるえ、興奮、不眠、めまい、眠気、動悸、不整脈、血圧上昇、吐き気、頭痛が起こりえます。

 

上海の事件[文献1]

> 上海市において2006年9月13日午後から翌日にかけて、動悸、手のふるえ、めまいを訴える患者が総計409名、医療機関を受診した。15日には新規発生はなかった。病人の発生は上海市全域にわたっていた。対症療法で軽快し、死亡者はなかった。みな豚肉を食べていた。

> 豚肉はいずれも上海の農産物の中心卸売市場の9009と9055番の出店(李某が販売)で売られたもので、この肉は浙江省で育てられた274頭の豚のものであった。後日の検査によるとその肉には1kg当たり最高5990.06μg、最低3.67μgの塩酸クレンブテロールが含まれていた。(当方で抄訳)

南京での豚の検査。写真は中国における豚へのクレンブテロール投与を論じた2011年のTime紙の記事から引用。2011年には上記事件とは別に、河南省で、クレンブテロールが入った豚肉を食べた数百人が体調不良を訴えた事件があり、クレンブテロールの製造と引き渡しを行った男が2年間の執行猶予付き死刑判決を、事件に関与したその他4人に対し9~15年の禁錮刑を下された。

 

全員ではなく、一部の悪意のある人がしていることなのでしょう。しかし、中国国民全体の薬物への意識をもっともっと高めてほしいものです。薬は基本的に毒になりうるものなのです。

 

中国ではクレンブテロール以外に、抗生物質の使い方もひどい(抗生物質乱用については以前の記事☆をみてください)。

 

食の安全は国の安全につながるのですから。

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[文献1]顾振华、郑雷军.中国食品卫生杂志、2007:19:10(中国語)