現代ビジネス田中亜紀子の記事をお借りしました。


202468日から11日まで、横浜アリーナにて、高橋大輔主演の氷上総合エンタテインメント「氷艶」が5年ぶりに行われた。毎回異業種のエンタメとフィギュアスケートがコラボする挑戦的な試みだが、今回の「氷艶 hyoen 2024 -十字星のキセキ-」は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした氷上ミュージカル。舞台を彩る音楽は、すべてアーティストのゆずの楽曲が使われ、最後にはゆずのライブも行われるバラエティーに富んだ内容のショーだった。ライターの田中亜紀子さんがレポートする。


「直前の試練」が団結力に

直前に大きな試練があったことでチームの団結力が一層高まり、エネルギーが増した公演となった気がする。

終演してすでに約1ヵ月たつが、いまだに心は銀河空間に漂い、夜な夜な公演録画を見ている方も多いのではないか。今回の「氷艶」は、これまでのように日本の歴史ものではなく、現代劇であることから、風合いが違ったものとなったが、日本文化を扱い、さまざまな分野の才能が集い、徐々に進化して大きな化学反応が起こっていく、という「氷艶」らしさはかわらない。主演の高橋大輔さんは、今年2月に、氷上エンタテインメント「滑走屋」を初めてフルプロデュースという、体験を経ての主演。スケートでの演技はもちろん、当然のように演技と歌を披露する姿から、彼のパフォーマーとしての広がり、そして座長としての成長など、公演を通してもさまざまな進化が感じられた公演であった。


今回は、公演約3週間前に公式サイトから、演出の宮本亞門氏が演出から演出原案の立場に変更となったお知らせがあり、その数日後、セカンドポジションだったミュージカル俳優、小野田龍之介さんが、スケートリンクでの合宿前に降板という事態があった。

外側からはうかがい知れない苦労がスタッフや出演者にはあったと思う。が、逆にそのことを血肉に、一層の力を発揮しようという姿がSNSなどから、座長の高橋さんはじめ、出演者やスタッフの姿勢からは感じられた。公演のサイトで発表があった時、一瞬、個人的に心配になりかけたが、出演者のエハラマサヒロさんの「本日も氷艶の練習 さぁやるでやるでやるでー」とやる気に満ちたSNSの投稿を見たことで、「大丈夫!」と心強い気持ちになったことを覚えている。彼は、その後もマメに情報を伝えてくれ、抜群のムードメーカーぶりを示し、スケートの上達もすばらしかった。


「火中の栗」を拾った3

その不測の事態に、「火中の栗」を拾った3人がいた。宮本亞門氏の演出原案に従い、わずか3週間前に演出統括というまとめ役を引き受けた尾上菊之丞さん。彼は初回の氷艶から、スピンオフの「LUXE」まで氷艶のすべてに関わり、今回も所作指導として関わっているとはいえ、多忙な中、他者の構想で魅せる舞台を作るのは難関だったろう。


そして、今回は多くのスケーターにセリフや演技があることから、演技指導を引き受けたのが、俳優の福士誠治さんである。彼は2作目の氷艶に、自らも出演し、高橋さんの演技指導役も担っていた。その後も氷艶メンバーの絆が続いていたこともあるのか、本来は俳優やミュージシャンという表舞台で活躍する彼が、やはり多忙な中、裏方として、合宿に駆けつけた。


さらに救世主として現れたのが、合宿前日の緊急代役オファーを快諾した大野拓朗さんだ。英国で舞台出演後帰国し、秋にはニューヨークでの「進撃の巨人」のミュージカルも決まっている彼は、合宿初日から稼働。初スケートだったにもかかわらず、特訓を経て氷の上で歌に芝居を披露し、見事に大役をこなした。「氷艶」は、俳優も歌手も氷上で演技し、歌わなくてはならないため、何ヵ月も前からスケートの練習に入る。大野さんは、ほかの出演者がある程度氷の上で動けるようになっている中、合宿で初のスケート靴をはくことになったわけだが、非常に前向きに取り組んでいる様子がSNSから流れ、合宿で全体の士気もあがっているのが感じられた。


と、つい、前おきが長くなったが、そんな風にして始まった「氷艶 hyoen 2024 -十字星のキセキ-」。特に印象的だった場面を振り返ってみたい。

高橋大輔さんと大野拓朗さんの「歌声」が流れ

冒頭、いきなりアリーナ空間の両側の客席にいる高橋大輔さんと大野拓朗さんにスポットライトがあたり、その表情が、リンク奥にしつらえてあるスクリーンに鮮やかに写る。「銀河鉄道の夜」らしく、星を見ている二人のセリフから哲学的にゆっくりと始まったと思ったら、現世でたどった悲劇の運命がいきなり外野から暴露され、列車の音と共に舞台は暗転する。

そこからゆずの「HAMO」のイントロに、高橋大輔さんと大野拓朗さんの歌声が流れ、本篇が始まる。アリーナ空間のリンクの四隅に設けられた台座で、風水の聖獣、あるいは四神の如く4人の歌い手がリンクに向かい「HAMO」を熱唱している。通称、コロス(ギリシャ語でコーラスの語源)隊のエハラマサヒロさん、長谷川開さん、エリアンナさん、まりゑさんら歌い手たちは役に出演しながらも、いれかわり立ち代わり、舞台全編を彩る「ゆず」の曲をシーンに合わせて歌うしつらえである。この歌とLEDによる鮮やかな照明がリンクを青春のひと時に、主人公たちの日々に、残酷な瞬間に、そして銀河空間へと変えていく。


まずは全編を通してのキーとなる、幼馴染の3人が中学時代に自分たちの夢を叶えると誓いあうシーンが描かれる。この時、カケル役高橋さんの子供時代を演じた友野一希選手とトキオ役、大野さんの子供時代を演じた島田高志郎選手のスケートのなんとキラキラしていることよ。その二人に、村元哉中さん演じるユキの子供時代を演じる占部亜由美さんの3人が夢の実現を誓うと、幕が割れて高橋大輔さん、大野拓朗さん、村元哉中さんの3人が登場し、子供時代といれかわる。


高橋さんの「パフォーマーとしての武器」

主演の高橋大輔さんのカケル役は、わかりやすいヒーローではなく、現世編での彼の役割はどちらかというと受け身だ。しかし、大野拓朗さん演じるトキオの思慕をうけとめながら静かに自分の想いを燃やし、魂になってからの「銀河」編では、戦士のごとくの扮装で、戸惑うトキオをリードしながら、星々の旅で時に戦いトキオを守り、魂の再生に力を添える。


現世編で、バレリーナの夢を持ちながら、病に倒れたユキ役の村元さんと、二人で滑る演技の悲しく美しいこと。広いアリーナでは表情はわかりにくいが、録画したテレビ画面で見た時の、高橋さんのユキへのやさしい表情、哀しみや心配している気持ちを表す表情が本当にすばらしかった。しかも最初は高橋さんの歌にあわせ、村元さんが舞うというレアなシーンから、二人で滑るシーンへ。「パフォーマーとして生きていく上で、武器を増やしたかった」という気持ちもあって、アイスダンスに転向し、世界でも戦績を残すほど取り組んだ3シーズンが生き、物語を雄弁に魅せている。

そこからは鉱物学者として若く成功したカケルと、ロケット開発者として有名になっているトキオ、病に倒れバレリーナの夢をあきらめたユキという3人の現世での「悲劇」が、ジェットコースターのように描かれる。

「悲劇」の末、トキオが目覚めると、先に魂の存在になっているカケル(高橋さん)が、戦士のような恰好をして待っており、そこから二人の銀河鉄道の旅が始まるというわけだ。

銀河鉄道は、大道具はなく、アンサンブルスケーターたちが隊列を組んで、スピーディーに滑ることで表現。高橋大輔さんがフルプロデュースしたアイスショー「滑走屋」で活躍したアンサンブルスケーターたちもここで活躍し、スピーディーで一糸乱れぬ隊列で滑るスケートが見ものであった。今回はアンサンブルスケーターは、オーディションで選抜されたこともあるのか、全編を通しいろいろな役割で、スピードに乗ってすばらしかった。


そして銀河鉄道にのって、リンクはさまざまに銀河の星々へと変わっていく。例えば、毎日がフェスティバルのケンタウロス星では、リオのカーニバルのような衣裳をつけたスケーターや俳優たちが登場し、ドレッドヘアの長谷川開さんが歌う「イロトリドリ」にあわせてavecooさんが振りつけたダンスを本当に楽しそうに氷上で踊る。高橋さんも、星人である島田高志郎をリフトしたり、男性カップルでステップを踏んだり、みなでラインダンスをしたりと非常にダンサブルで楽しい演技を見せ、ノリよく前半が終わった。



と、詳細なリポートでその場で観た様な気持ちにさせてくれました(^^)


D1SKのこれまでのスケートを通じて育まれた友情や彼の人柄を慕って集った仲間達がこれからのD1SKを支えフィギュアスケートの市民化を成し遂げて行く力となる。


突発的に生じた苦難をも血肉に変換して行くパワーを持つ高橋大輔と言う男を再認識した「氷艶2024」でした。

さて、次は・・・(^^)