【5】大人のミハル
僕が卒業するころ、ミハルは大検に合格した。
僕は専門学校へと入学し、ミハルは運良く
近くの会社の事務として就職することが出来た。
お互い、日中の行動時間があまり合わなくなってきたせいか、
向かいに住んでいるにもかかわらず僕らはほとんど会わなくなっていた。
ただ、時折僕の親から聞く話では、ミハルは職場で、
原因のよく判らないイジメにあっているようだった。
そんな、ある日の夜のこと。
バイトも休みの夜、何をするでもなくベッドで横になっていると、
どこからか歌が聞こえた。
耳を澄ませると、それがミハルの声だということが判った。
小さい時、ミハルが隣で歌ってくれた…その時の歌。
カーテンをめくって外を見ると、二階のバルコニーにミハルがいた。
ミハルは、透き通るような声で、あの歌を歌っていた。
久しぶりに見た、ミハルの姿。
それを見て、僕は思わず息を呑んで凍りついた。
月明かりになびく薄布の衣服。
ミハルの身体は、細く、細く…
もはや折れそうなほど痩せ衰えていたのだ────