#1-3


…気を取り直して。

俺は半袖短パンに着替え、リベンジとしてもう一度潤の元へ。


「おかえりじゅーん。」


ニッコニコの笑顔を浮かべ、再び両腕を広げるも、潤は「ただいま。」とソファーに座りながらこちらを見て微笑むだけ。


「ただいまおかえりのハグは!?恒例でしょ!」


「恒例って…。恒例だなんて初めて聞いたけど、」


「…いまのところ俺がおかえりと両腕を広げた回数472回に対して潤が応じた回数は0。潤から俺に両腕を広げてきたことも0。」


「わぁーすごーい。よくそこまで覚えてるねー。」


「そして今回で俺が両腕を広げた回数は473回となった!」


「そう。
…多分これからも応じることはないし、俺からハグをおねだりするようなこともないから恒例から除外してよ。
そんなことより…晩ご飯食べたいものとかある?」


「そんなことって…。そういや今日雅紀も…。
あっ、えっと…食べたいものね。…潤が作るご飯は全部美味しいから潤の手作りならなんでもいいんだけど、、、うーん、潤今日帰り遅くて疲れてるだろ?簡単なのでいいよ。それとも俺が作ろうか?」


「………いやいいよ、俺が作る。」


「そんな無理しなくても、」


「無理なんかしてない。ご飯作るくらいで。
…それに翔さんのリクエストは俺の料理でしょ。翔さんが作ったら意味ないじゃん。」


「…じゅん、!!!」


聞いた?今の聞いた!?

潤ってほんっっっっっっっとこういうところなんだよ!!!


なぜだか分からないけど俺に結構冷たくするんだけどさ、こんな風に突然爆弾投げ込んでくるの!

俺の心臓なんていくつあっても足りねえよ。


感激のあまり立ち上がった潤の細い腰に勢いよく抱きつこうとしたのだが、呆気なくかわされてソファーへとダイブしてしまった。


「…うぅ、、、痛い…。」


言っとくけど潤に嫌われている訳じゃないから。これ大事だよ?

これも潤が俺を好きな証♡


「すぐ抱きついてこないで。」


「ごめんってぇ。」


「こうして謝っても改善されたことないからね。」


「だって潤が好きすぎて抱きしめたくて抱きしめたくて堪らないんだもーん。」


「…。」


その言葉を最後に潤の声は返って来なくなった。

ふふ、照れてる。可愛い。


そしてそんな潤は素知らぬ顔して料理を始めた。


…んだろ?潤ったら可愛いだろ?

でもごめん、ぜーーーーーーーったいにあげないから。

いやこれでも俺と潤ってちゃんと関係は持ってるからね?舐めんなよ???


…なのにこの冷たさなんだよなぁ。

まぁさっきも言った通り、これも潤が俺を好きな証!

全て潤からの愛の言葉♡


まぁ気になるところだろうけど、その話は一旦置いておいて。




とんとんとんと野菜を切る音の聞こえるキッチン…つまりは潤の元へひょこっと顔を出す。


料理中の麗しい横顔をじっくり堪能しようと潤の真横に立ち、その顔を覗き込んだところで潤の目が真っ赤なことに気がついた。

そしてうるうると潤っている目から涙がぽろぽろ溢れ出す。

グズ、と鼻を啜った潤はゴシゴシと目元を擦った。


「え、、、潤…?」


「…なに、、、」


「…どうした、、、?」


「、、あぁ、玉ねぎが、」


「大丈夫か!?誰に泣かされた!!!?」


「、、、えっと、誰とかじゃなくて玉ね、」


「誰だ潤を泣かせたやつ!!!」


「いや、だから、た、」


「いいよ落ち着いてゆっくり話してみろ。深呼吸して、な?俺が直々にそいつをぶん殴ってやるから。涙が出るほど辛かったんだろう?」


「………。」


「ほら、遠慮するな。俺ら恋人同士だろ?困難はお互い手を取り合って乗り越えていこう。…で、誰に泣かされた?いいよ、言いにくいのは分かるけど、」


「…玉ねぎ。」


「…えっ?」


潤の背中をさすってあげようと伸ばした手を慌てて引っ込める。


「玉ねぎ。」


「玉ねぎ…。」


「………。
もうさ、邪魔になるからあっち行っててくれない?ご飯はカレーにしたから。」


目を赤くさせている潤に、もはやこれ以上なにかを言われることもなく…。

俺はそのまま背中を押されて追い出され、これから料理中のキッチンを出禁にされてしまった。