#1-2
「潤ちゃん元気?最後に会ったの昨年末くらいだからさ。」
日替わり定食の本日のメニューであるとんかつ定食を食べながら雅紀が言う。
俺と雅紀、そして恋人の潤は高校で一緒に生徒会を務めていて…で、潤という恋人の存在をよく知っているのは恐らく雅紀くらいだろう。
「元気元気。めっっっっっっちゃ可愛いよ。なんか日に日に可愛さが増していってる。いやこれ絶対勘違いとかじゃなくてガチ。ホントに可愛い。しかもかっこよさもあるし、可愛さと一緒にエロさまで兼ね揃えてて…。」
「翔ちゃん。ここ職場ね。」
つい潤のこととなると止まらなくなってしまう俺を牽制してくれるのはいつも雅紀の役割。
まぁ雅紀くらいにしか潤のこと話してる人はいないんだけどさ。
…実は俺と潤、同性愛者ってやつで。
まぁ日本の割合的には異性愛者の3分の1くらいかな。
別に同性婚は普通の時代なんだけど、頭カチカチの上の年代にいくにつれてまだ理解のない人も正直いる。
ま、そんなこともあって雅紀にしか俺らのことは話していない。
雅紀自身はただの異性愛者。
…あ、潤がいるから女性を一切相手にしないのももちろんなんだけど、女性がそもそも嫌いでね。
まぁこの話はまた今度。
今は俺の話なんかより潤の話を聞いてくれよ。
潤は俺の2つ下で、8月30日生まれ。乙女座のA型で、好きなもの第一位は恐らく…てか絶対に俺!!!
黒髪にちょっとくせがあってくるくるしてる。可愛い。
声は低めで鼻にかかってる。可愛い。
目が大きくてまつ毛がばっさばさ。可愛い。
唇がぷるぷるしてる。可愛い。
肌が白い。可愛い。
腰がキュッとくびれてる。可愛い。
全部可愛い。
「…はぁ、、、やばい。潤のことを考えてたら潤不足で干からびそう、、、てかもう干からびる5秒前。。。これはスマホに日々追加されている潤の秘蔵写真を見て潤いを取り戻さねば!………うっ、、、可愛い…だめだ、、、」
「………俺も自分のこと馬鹿だなぁって思うけど、翔ちゃんは俺以上に馬鹿だと思うよ…。」
ふと我に返ると雅紀が冷たい目でこちらを見ていた。
「、、、んんっ。雅紀くん、失礼なことを言うねぇ。…雅紀だって恋人出来たら絶対俺みたいになるから!」
「なりません!絶対に!!!そんなのになって堪るか!」
「おい!そんなのってなんだよ!そんなのって!」
収拾がつかなくなりそうなところで俺は諦めてため息をつき、美味しい美味しいオムライスを再び口にし始めたのだった。
ーーー
「たっだいまーーー!!!!!!じゅーん!!!!!!!!!」
仕事が終わればいつも爆速で帰宅。
両親が早くに他界し、残ってしまった家…つまりは俺の実家で潤とは2人で暮らしている。
いや、""同棲""している。
潤も別の会社で働いており、同じタイミングで帰宅出来ることはほとんどない。
それでも潤の方が帰って来ることが早いことが多いから、俺はいつも玄関のドアを開けるなりこうやって叫んでいるんだけど…今日は返事がない。
部屋の電気も点いていないし…今日は俺の方が早かったか。
「…なんだ、つまんねー。」
"潤がいない"="帰宅後の楽しみが先延ばし"ということで、俺のテンションは一気にダウン。
潤の居ない家に帰ってきても嬉しくない!潤はまだ?!
「はぁ…。」
いそいそとスーツを脱ぎ、シャワーを浴びる。
…ちょうど体を拭き終えた頃くらいだろうか。
俺の地獄耳が家のドアが開く音を聞いた。
「潤!?」
裸のまま走って玄関に向かうと、靴を脱いでいる潤の背中がそこにはあった。
「じゅーん!!!おかえりー!」
「あぁ、ただいま翔さ、、、、、」
振り返った潤の顔が、途端に死んだ顔になっていく。
「…服くらい着てくれない…?風邪引いても看病しないよ。」
ゴミを見るような…どこか引いた顔でこちらを数秒見つめると、潤は俺の横をすり抜けて行ってしまった。
「…じゅーん…。」
おかえりのハグをしようと両腕を広げ待っていたのだが、潤は完全無視。
俺の声だけが玄関を満たした。