「で、今書いてるのはどんな話なんですか?超エリート精神科医とその患者のラブストーリーってとこでしょうか。」


ちら、と原稿用紙を覗き込んで言った。


「あ、バカバカ見るな見るな。
てかなんだよその面白くなさそうな話は。」


「なんだ、違うのか。」


「俺はラブストーリーなんかを書くような人間じゃ、、、」


途中まで言いかけてふと自分で気づく。

あれ…俺が今書いてるこのノンフィクションの話って、ラブストーリーじゃん。。。


「…どうかした?」


「あ、いや…なんでもない。」


「知ってます?なんでもないって言う時って、なんでもない訳がないんですよ。」


「へ?んっと、、、」


瞬時にニノが言ったことが理解出来なくて、何度もその言葉を頭の中で反芻した。


「ま、いいや。」


「…。
…なにしに来たの?」


「まぁこれといった理由はないけど…。これ、この前大阪行ったお土産。」


ん、と差し出した紙袋。

確かに来てからずっと気になっていたんだよねぇ、なんてことは例え旧友だとしても言えない。


「お、ありがとう。
いいなぁ、俺も遠出したい。けど、お金ないし、、、」


「売れればいい話じゃないですか。」


「そんな簡単に言うなよ。…俺今意外とピンチなんだよ?」


そして俺は自分が置かれている状況を話し始めた。


………


「ふぅん、、、それってかなりピンチですね。」


「だろー?こんなのんびりしてる場合じゃないんだよ。」


俺がさっき執筆作業のお供に淹れたコーヒーとクッキーをちゃっかり食べながら話を聞いていたニノ。

まぁ咎める暇もなかったからさ、、、


「よし、じゃあもう帰るよ。」


「え、まだ来たばっかじゃん。」


「だって早く書かないとピンチなんですよね。俺なんて邪魔でしょう。」


ニヤニヤとニヒルな笑みを浮かべた顔をこちらに向けると、最後の1枚になっていたクッキーを口に含んで玄関の方へと歩いていった。


「あ、…ありがとう。」


「本が発売されたら教えてください。1冊ぐらいなら喜んで買いますよ。」


ひらひらと手を振りながらさっさと出ていってしまったニノの背中と、手に提げてる紙袋の中身を交互に覗き込んだ。



ーーー


少し日が空くこと3日。

今日は午前から昼過ぎにかけて用事があったので、2時を過ぎたタイミングでカフェへ入店した。


人はまばらで店員もさほど忙しそうではなかったので、入店すると真っ先に松本さんがこちらに来た。


「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」


あくまで仕事としての笑顔をこちらに向け、ぺこりと軽く腰を曲げる。


店内を見回すとちょうどいつもの席が空いていたので、そこに腰掛けた。

身の回りが落ち着いたところで、また松本さんが俺の元へやってきた。


「ご注文はお決まりですか?」


「いつものください。」


…ちょっとイキったかな。

でももうこの店に来るのは両手で数え切れない程。

俺の注文を聞いてくれるのはほとんど松本さんで、俺はブラックのホットコーヒーしか注文しない。


流石にもう覚えてくれているだろう。