のんびりと歩きつつも、周囲にきちんと目を配りながらパトロールをする。


もちろんあの店の前も通った。

夜と違って太陽の光に照らされているビルの姿は、夜とは全然印象が変わる。


…特に人の気配はない。

路地裏のここも昼ならまぁ変なこともないかと思い、そのまま通り過ぎようとしたところ、1人の人影が目に入った。


「え、潤…?」


黒いキャップを目深に被り、黒い布マスクをつけた男。

顔のほとんどが隠されているというのに、一目見ただけで分かってしまった。


「…潤だろ…?ここでなにしてるの?こんな時間に、、、」


「…翔さん、、、、、」


消え入りそうなほど小さな声が、かろうじて耳に届いた。


「翔さんこそ…その服、、」


「パトロール中だよ。これが俺の本業だし。
ど?それなりに警察官制服も似合ってるだろ?」


「うん。かっこいいね。」


「んだよ、なんか言わせたみたいじゃん。
…で、潤は?」


「俺は、、、、、なんとなく。
今日は1日お休みでさ。散歩好きだから散歩してただけなんだけど、気づいたら足がこっちに向かっちゃったっていうか。。。頭から離れないんだよね。翔さんのことが。」


ビルを見上げながら呟く潤の姿が、やけに美しく儚げに見える。

店内で見るのと昼間の外で見るのとはかなり印象が変わってくるんだなと、ほとんど隠された横顔を眺めながら思った。


「…俺結構凄いことさらっと言ってるんだけど。」


「、、、分かってるよ。なんて返そうかなって考えてたところ。
そうだな…。そんなに俺のことが好きなんだってびっくりしてる。」


「…本気なことくらい昨日分かったでしょ。」


「まぁ…。
ごめん、答えは、」


「急がなくていいよ。って、上から目線で言うのもあれだけど、、、翔さんだって忙しいでしょ。」


「うん、ありがとう。
じゃ、仕事に戻るよ。」


「お疲れ様。頑張って。」


ひらひらと手を振りながら潤を見送った。


数十メートル離れたところでもう一度振り返ってみると、まだビルの前に突っ立っている潤がいる。


潤のためにも、早く自分の気持ちをはっきりさせないとな。


ーーー


それから数日後。

店から電話がかかってきた。

…今から来て欲しい、だってよ。


非番の夜を狙ったのか、それともたまたまなのかは分からないけれど。

従わない訳にはいかなかった。





「櫻井さんですね。店長がお呼びです。」


着替えて店に入るや否や、1人のフロントのボーイが声をかけてきた。

言われるがままについて行くと、とある部屋に辿り着いた。


では、とここまで案内したスタッフが軽く腰を曲げ、来た道を戻っていく。


「…。」


…店長からの呼び出し、ねぇ…。

一体なにを言われることやら。


もちろん店長が店が空いてる時間はほとんどここにいるのは知っていたけど、特に話したこともなければ見たこともない。

このタイミングでお呼ばれするなんて、あんまりいい内容のようには思えず、、、


はぁ、とため息をついてからノックをした。







「こんばんは。」


どうぞ、と言われ中に入るとそこにはにっこりと微笑んで会釈をする男の姿が。

浅黒く日焼けした肌に、タレ目で人の良さそうな顔。

黒いスーツに黒いネクタイとでバシッと固め、店長としての威厳は忘れていない。


「…こんばんは…、、、」


「櫻井だよね?
松本さんの2人目の専属の。」


"2人目"というワードがやけに喉にひっかかる。

笑っているようで笑っていないような、どちらともとれる分からない表情に、ゴクリと唾を呑んだ。