「、、、あの、」


「俺、翔さんのことが好きなんだ。」


「…。」


「ごめん。」


「謝らないでよ。
なんつーか…知ってた…?」


「え、?」


「『愛してる』って言ったのは流石にまずかったかなって。だって潤、すげぇ辛そうな顔するし。だから…もしかしたら…って、」


「…。
ごめん。」


「だからなんで、」


「だって…俺が好きになっちゃったせいで、翔さんはもうこの仕事を続けられないんだよ?」


「そんな真剣に続けようとは元々思ってないよ。そもそもニノに誘われてなんとなく、仕方なく始めてみたものだから。
てか、最初はすぐ辞めるつもりだったのに、潤が俺のこといきなり専属にするから…。」


「カッコよかったんだもん。
…一瞬で好きだなぁって。俺、面食いなのかな。てかきっとそうだよね。
そっからどんどん惹かれていった。翔さんの声も表情も指先まで、全部、…全部が好きで、俺は本っ当にこの人が好きなんだなぁって。どこまでも抜け出せない深い沼へと引きずり込まれていくみたいで。
カズよりも翔さんがいいって思うようになってしまった。ダメだったんだよ、やっぱり専属を2人つけるなんて。」


悲しそうに目を伏せた。


…さて、なんと返せばいいのだろう。

潤のことはカッコいいと思うし可愛いとも思っている。


でも他は?


もちろんこの前の「愛してる」なんて、サービスのひとつだ。

本心ではない。


あくまでサービスとして、潤とは色んなことをしてきた。

キスも、セッ クスも、全部。


…意識していなかった訳では無い。

そういうものをお金払ってまで楽しみにして来ている人がいるのに、俺も完全に割り切って仕事が出来るかと言えば、少なくとも俺には出来ていなかった。

ニノはどうか分からないけど。


でも、それが潤と同じ「好き」という感情に振り分けていいのかと言われると、なんだかよく分からない。


「俺はもう、、、ヒアソビなんか嫌だ。
正直、こんな生殺しみたいなこと…続けても俺だけが辛いだけ。でも諦められない。
………俺と、付き合ってくれませんか。」


最後の方は消え入りそうなくらい小さくてか細い声だったけれど、きちんと俺の耳に届いた。

髪の隙間から覗く耳が、ほんのりと赤くなっている。


「…ありがとう、嬉しいよ。」


「ホント、、、?」


「ホントだよ。
…けどごめん。ちょっと考えさせて欲しいな。やっぱり実際そう言われると戸惑うっていうか、焦るっていうか。
それに潤は、俺とは住む世界が違う人だから。」


「考えてくれるだけでも嬉しい。
…けど、住む世界が違うってなに?」


「俺は一般人、潤は芸能人ってことだよ。
そもそも芸能人…潤みたいな最近バリバリ売れてるイケメン俳優が恋人作るとか、どれほどのことかちゃんと分かってるよね。」


「…それが引っかかっているのなら、俺は今すぐにでも芸能人を辞めるよ。そしたら俺も"住む世界が同じ"になるでしょ?」


意思の強そうな真っ直ぐな黒い目に見つめられ、俺はなんとも返すことが出来なかった。


ただ、潤は本気である。

それだけがよく分かった。


ーーー


「はぁ…。」


潤と話した翌日。

勤務中にでも昨夜のことが頭に浮かんで、思わずため息が出てしまう。


「…パトロール行ってきます…。」


少しでも気を紛らわせようと、パトロールをするためパイプ椅子から立ち上がった。


「また行くんですか?まぁ全然いいことですけど。。。気をつけて。」


相葉さんの明るくもなんだか不思議そうな気持ちを含んだ笑顔に見送られ、外に出た。