「待って、辞めたってどういうこと?」


「そのまんまだよ。店からもういなくなったんだって。」


「…なんで、、、」


「簡単な話。
潤に2ヶ月以上指名されなかったから。…別に専属解消されても続けられるんだけど、一般人相手するのは嫌だってさ。要は自分のプライドが許さなかったって訳だよ。」


「…。
それって、、、俺のせい、じゃん…。」


目を伏せ、長いまつ毛が影をつくる。


「違うよ。専属解消されたのはまぁ…仕方のないことだけど、辞めたのは100%ニノの意思だから。スタッフ続けられることだって出来たのに。」


「………。」


「そうだ、、、それで聞きたかったんだけど…。
、、、なんでしばらく店に来ていなかったの?いやまぁ、そりゃ俳優だから忙しいのは分かってるんだけど、ちょっと気になって…。」


うってかわって今度は表情が読み取れない。

さっきはマスクをしていても分かるような顔をしていたのに。


「…長話になりそうだからさ、、、うち、来ない?」


ぽつりと声を漏らした。


「え?えっと、
…なんつーか、大丈夫なの?」


「うん、いいよ。」


あっさりと了承した潤にこちらが不安になる。


だって相手は芸能人。

芸能人にも芸能界以外の繋がりがもちろんあるとはいえ、なんだかこちらが緊張してしまう。


「…なにかあった時は翔さんが護ってくれるでしょ。警察官なんだから。」


「…潤が襲われるようなことはないと思うけど。」


俺が心配していたのはそういうんじゃないけど、潤がそう言うならまぁいいか。


ーーー


「住所とか晒さないでよ。」


なんてムスッとした顔で言われて、松本潤の住所を晒せる器があったら、SMクラブ通いもとっくに晒しているだろうなと思う。


さっきの場所から数分歩いたところにある高級マンションの一室に住んでいるらしい潤。


…これ以上はもう何も言わないでおこう。

晒すなって言われちゃったし。


「テキトーに座ってていいよ。今飲み物出すから。」


部屋のリビングは言わずもがな広く、「テキトーに」と差したソファーはめっちゃフカフカ。


警察官もそこら辺と比べたらいいお給料もらっているとはいえ、やっぱり芸能人はそのさらに上をいくんだな。

家具とか見てたらなんとなく分かる。


「で、、、なんで来ていなかったの、だったよね。」


コトンとテーブルに置かれたガラスのコップには、冷えた水が入っている。


「まぁ…この業界の人なら誰もが経験するんだけど…いわゆる"撮られた"ってやつだよね。最後に店に来た時、タクシーに向かうところを翔さんと週刊誌…マスコミに撮られた。
…だから、もしかしたらマスコミが張り込んでいるかもしれないって。。。通うことは控えろって言われちゃって、、、」


そっちか、と内心自分の頭を叩く。


撮られたことは知っている。

ニノに教えられたからね。


「でも、」


「ん?」


「…もうひとつある。
どちらかと言えば、こっちが本当の理由で、撮られたことはちょうどいい言い訳になったのかもしれない。」


「…。」


もしかして、と思った。


「…あのね、、その…結論、から、話す…と…まぁ、なんというか、、、」


途端にぎこちなく言葉を紡ぐ潤がなんだかおかしく感じてしまう。

いちいち「結論から話すと」って言ってるのに、そこからが長い。


言いづらいことなのかな、てことはやっぱり俺が思っていたあれなんじゃないかな。

…やっぱり俺、潤に辛い思いをさせてしまっていたのかな。