M side


…最近ようやく芽を出すことが出来た。


台詞のないモブキャラから始まったドラマ出演も、ついこの前主演として受けられた。

CMも有難いことに3本近く出させてもらっていて。


俳優というこの仕事が楽しくて、やりがいを感じられて…、でも。


なにか足りない。

仕事には満足しているけど、どこか満たされない。


そんな時に出会ったのがカズだった。


確か、、、街の中をプラプラと散歩していたんだよね。

マネージャーにバレたら怒られるんだけど、気分転換したくて。

夜だったし、マスクしてたら身バレはしないだろうと思っていた。


で、ひとつ雰囲気のある細い道があって、好奇心に駆られて足をそこへ進めてしまった。


「…。」


ビルの壁に背を預けて男が立っている。

そう気づいて、2、3秒見た後にまた正面へと視線を戻した。

時間も時間だったから、人が外にいるのがその時は不思議で。


するとこちらに気づいた男が、「こんばんは。」と声をかけてきた。

…こんなこと言うのもおこがましいけど、それなりに名前も顔も知られてきた方だと思っていたから、声をかけられた時は焦った。

かといって無視する訳にはいかないし。。。


「こ、こんばんは。」


「おにーさん、オトコに興味ない?」


「…え?」


童顔なその顔からは考えられなかった言葉が彼の口から出て、思わず戸惑ってしまう。


どういうこと?

口説かれてる?


「…えっ、と…。」


「ここ、俗に言うSMクラブってのでね。
…刺激、欲しくありませんか?」


ドクンと心臓が跳ねる。


"刺激、欲しくありませんか?"

なんて、どこか満たされていない俺を誘うには十分な言葉だった。


確かに怪しいかもしれない。

でもそんなものよりも好奇心の方が上回っていた。


「…少しだけ、なら…やってみたい、、かも…。」


小さく漏れた呟きは、しっかりと男の耳に届いていた。

嬉しそうににっこりと微笑むと、俺の手を引いてビルの中へと階段を降りていった。


…このことがきっかけで、ズブズブとこの世界の沼に嵌っていた。

別に男にも大して興味はなかったのに、全部カズのせいで。。。


もちろん、この時から今でもマネージャーには秘密にしている。


ーーー


そんなある日、カズが連れてきたのは"櫻井翔"という新しいスタッフだった。


とてもタイプの顔だった。

…カズよりも。


それだけの理由で、俺は彼を専属にしたいとカズに伝えたのだ。


…客とは言えあまりにも勝手でわがままなお願いだったかもしれない。

初めてだからまだまだ下手な未熟な部分はあったけど、それでも俺は彼がよかった。


最終的にはそんな無理なお願いも聞いてくれた。

本当に有り難い。


そうして、新たに増えた専属に期待を膨らませながら、いつものペースで通っていたのだが。