「ちょっと外出ようか。」

そう言われ、ニノと外へ出た。


ビルの壁にもたれ掛かりながら、ふーっと煙を吐く。


「いる?」


「いや、吸わないから。」


「そ。
…最近潤くん来てなくてさ。最後に来たの、多分翔ちゃんが相手した時だよ。」


「え?」


…ということはあれだ。

急用が入って帰ってしまった時。


「でも来るのなんて気まぐれなんだろ?前に言ってたじゃん。忙しい人なんだし。」


「まぁそうなんだけど…。」


どこか歯切れの悪いニノに首を傾げた。


「なんか、、、いや、ただの勘ではあるんだけど…。」


「…?」


「いや、やっぱいいや。なんでもないよ。」


「んだよ、それ。」


はぁ、とため息をついた。


なにかニノにしか感じ取れないようなことがあるのだろうか?

でもそれは根拠のない、ただの勘でしかないんだろ?


「…。
マネージャーから会って話がしたいって言われて帰ったけど。なんか関係あんのかな。」


「…さぁ。分からない。
ま、俺らが悩んだってどうしようもないよ。彼とはそもそも住んでいる世界が違うんだ。俺らが巡り会えるのは潤くんがここに来てくれた時だけ。」


…この前の相葉さんの言葉を思い出す。

CMに出演していた潤を観て、「まるで別世界の住人ですよね。」って。


その時は前日に潤の相手をしていたからあまり強く共感出来なかったが、今となってみると確かにそうかも知れない。


というか、そうだ。

相葉さんとニノの言う通りだろう。


年齢も仕事も趣味もなにもかも、全部彼と違う。

ただひとつ共通点があるとするならば、ここの店に来る、ってことだけで。


俳優と警察官。

客とスタッフ。


この店に来ることがなければ、俺らは一生交わることもなかっただろう。


それほど住んでいる世界が違うのだ。

例え同じ地球、日本、東京に住んでいたとしても。


「…それにお店の売上も伸びないよー。潤くん、忙しいんだろうな。
うぅ、、さむ…。戻ろっか。」


んー、とひとつ伸びをすると、あくびをしながらまた店の裏口へと向かって歩き出した。


ーーー


結局非番の時間を削って来ているのにも関わらず、その後も潤と会うことはなかった。

潤と顔を合わせなくなってから1ヶ月とちょっとが過ぎた頃。。。


「…2ヶ月ずっと来ないと無条件に専属解消されちゃうんだよね。」


「………へ?」


スタッフルームでスマホゲームをしていたニノが、ふと漏らした。


「ほら、俺らみたいな専属は特定の客の相手しか出来ないでしょ?極端に言ったらその客に生活費全てを預けているようなもんなんだよ。翔ちゃんは警察官としての収入があるけれど、俺みたいなここ1本でやってる人はね。お金が入らないと生活危なくなっちゃうの。店としても痛いし…、専属として働いている優秀なスタッフが使えないのは。」


「…。」


「潤くんに来てもらえないと、俺ら潤くん以外の相手することになっちゃうよ。」


やだなー、というニノの不満気な声は夜の闇へと消えていった。


ーーー


…もしかしたら専属が解消される、なんて不安は杞憂に終わった。

その1週間後に、潤は店に来た。


杞憂に終わったっつっても、専属が無条件で解消されてしまうホントギリギリだったから、ニノがちょっと怒っていたけど。


でもまぁ、仕方ないよな。

潤は忙しいんだもん。


って俺は割り切っていたから、プンスカしているニノにごめんごめんと笑いながら謝っている潤がなんだか可哀想に見えてきた。