潤を見送ってからまた先程まで居た部屋に戻り、放り投げたままだった紅いキャプテンハットを手に取ってから、今度はスタッフルームに向かう。


案の定、ニノがそこには居た。


「…あれ?早かったね。」


ドアが開いたことで俺が来たことに気づいたニノは、スマホを見ていた顔を上げた。


「あぁ。急用入ったって帰ったよ。」


「お金は?」


「ん、5万もらったよ。1時間もしてないのに。
これ、フロントに渡せばいいんだろ?潤に言われた。」


…1番最初に金のことを気にするのが、金好きのニノらしくて厭らしい。


「うん。
…ね、潤くんはどうだった?」


「え?」


受付に金を渡し、ついでに着替えるかとまた出ようとしたところをニノに引き止められた。


「どう、って…。」


「どんなことしたの?」


「…。」


さっきのことを思い出す。

言っても20分ちょっとしかやってないから、キスして…フェラしただけ、、、だよな。


「大したことはしてないよ。
じゃ、俺着替えて、」


「"潤くんはどうだった?"
って質問には答えてくれないの?」


再び足を止めた。

振り返ると、ソファーの肘掛けに肘をついてこちらをニヤリと見つめるニノと目が合う。


「…。
……よかったよ、すごく。」


「そう、それは何より。
また入れる日教えてね。ま、俺は毎日ここにいるから翔ちゃんなんて来なくていいんだけど。」


ふふ、と微笑んだニノを見て、俺はなにも返さずに部屋を後にした。


…いまいちニノの考えていることが分からない。

なんだろう…潤を自分のモノみたいな感じにしてる、っていうのかな。


そりゃニノの方が先輩だし、潤の扱い方にも慣れている。

圧倒的に経験値があるのはニノの方。


どこか上から目線で話してくるのもニノらしさだとは思っている。


でも、

…いや、憶測であれこれ人のことを言うのはよくない。


けど、ひとつだけ分かった。

ニノが俺のことをあまり良く思っていないのは確かだ。


ーーー


「珍しいね、浮かない顔して。」


その翌日。

"警察官"として交番で勤務していた日中に声を掛けてきたのは、タメだけど上司にあたる相葉さんである。


「あ、そんなに顔に出てました?」


思わず自分の頬をぺたぺたと触った。


「いつもの櫻井さんにしてはむっすーってしてるなぁって。
…悩みなら聞いてあげるよ。」


「ありがとうございます。
でも、大丈夫です。」


相葉さんは本当にいい方だ。


だからなおさら、俺が今悩んでいたことを相談することは出来ない。


もちろん、"今悩んでいたこと"というのは夜の話。

次潤に指名された時はどんなことをしようかと考えていたところだった。


「あー、あまり人に言えないことですか…。なら櫻井さん、頑張ってください!!
って応援することしか出来ないですが…。」


「有り難いです。」


…交番勤務ってのは、暇な時はホントに暇なんだよね。

そりゃいつなにが起こるかは分からないから、油断しちゃいけないけど。


まぁでも…だからこうして今は仕事には関係ないことで悩むことが出来る。