S side
ニノから説明された。
潤が俺を専属にしたい、って言い出したこと。
店長に伺ったら専属を2人つけることを許されたこと。
1回だけという約束だったはずなのに、俺に否定権はないこと。
…俺がここで働くことが決まってしまったこと。
「最悪だ。意味分かんねぇ…。」
ソファーに勢いよく腰掛けて、思わず頭を抱えた。
絶対にもう二度と関わらないと決めたのに、働くことが決まってしまった?
冗談じゃない。
潤ったら、なんで俺を専属にしたいなんて言ったんだ。
俺の酷さはさっき分かっただろう。
全然なにも出来ないんだよ。
「なんでニノも否定しなかったんだよ…。」
「店長がおっしゃったならその通りにするしかないよ。どっちにしろ、専属が増えたら店の儲けも増えるからね。」
「所詮は金か。」
「…ふっ、そりゃそうでしょ。じゃないとこんな仕事やってらんないよ。」
…静かに自嘲を含んだ笑みを浮かべたニノの、何だか見てはいけない一面を見てしまった気がした。
そりゃスタッフ全員が俺みたいにゲイっていう訳ではないのだろう。
ニノもきっとその1人。
一体ニノはどういう経緯でこんなところに…。
「とりあえず、今日は帰っていいよ。
あ、連絡先交換させて。コッチの仕事入れる日、教えてね。…だって警察官なら夜勤とかもあるんでしょ?」
「まぁ。。。」
そう返事をしながら、スマホを取り出し、連絡先を交換した。
「…。」
「…逃げたらダメだよ?」
「逃げないよ。」
「ふふ、よろしい。
じゃ、ばいばーい。」
ひらひらと手を振ったニノを見て、潤の時は外まで見送ってくれるのに、と何だからしくないことが思い浮かんだ。
ーーー
…次に店に来れたのは3日後の夜だった。
昼は普通に交番で勤務して、夜は店に来る。
これからは随分とハードスケジュールになりそうだと、思わずため息が漏れた。
裏口から入ってスタッフルームに行くと、ニノがソファーに座ってスマホゲームに勤しんでいた。
来た俺に気づくと、お、と声を漏らしてスマホをジャケットのポケットにしまう。
「仕事終わり?」
「ん、」
「お疲れ。
今日はただの授業?みたいなもんだよ。まずは育成をしないとだからね。ほら、この前言ってたスタッフの基本みたいなやつ。翔ちゃんはよく学べば絶対いいスタッフになる。」
「…はぁ。」
「じゃ、こっちの部屋おいで。俺が教育係でマンツーマン指導するから。」
「今日は潤は来ないの?」
「あの人忙しいからね。来るっつっても気まぐれで、毎日のように通う月もあれば、一切来ない月だってある。まぁ、だいぶ間隔空いてから来た時の潤くんはホントすごくて、サービスを提供するこっちも中々楽しませてもらえるんだけど。…俺はソッチの人じゃないけどね。それでもえっろいって思う。」
思い出すように目を細めると、すぐに翔ちゃんも分かるよ、と付け加えた。
…ゲイじゃないニノがえっろくて楽しませてもらえるって言ってるんだから、果たしてゲイの俺はどうなってしまうのだろうか。
初めて潤を見た時のあの表情が再び鮮明に思い出されて、体が一瞬火照った。