「あれ?
もしかして隣の方って…。」


「…あ、やべ、気づいちゃった?
ほら潤くん、バレちゃったよ。」


「、ん、、、」


「…松本潤。知ってる?最近人気の出てきた俳優さん。
…こんなところに通ってるなんてぜーったい内緒ね?他言無用で頼むよ。彼の築きあげた立場が保たれないからね。」


…知ってる。

テレビはほとんどニュースしか観ていない俺でも知っている。


その容姿と演技力を武器に、最近ドラマや映画、CMでも引っ張りだこの若手俳優。

街を歩いていれば彼の広告がよく目に入る。


そんな人気の俳優がまさかのSMクラブ通い…。

こりゃバレたら相当だな。


…バラしたいと思うほどの器はないから、そんなつもりはさらさらないけど。


にしても、こんなところにSMクラブなるものがあるとは知らなかった。


外観はただの普通のビルだし。

まぁ、看板が無いから怪しいなとは思っていたが。


「あ、ほらタクシー。もうちょっとだからね?」


なんて優しく声を掛けながら歩いていく2人の背中をぼんやりと眺めた。


…松本潤のあの表情、、、なんだかクるものがあった。


端正な顔をしているから、なおさら引き立てられるんだろう。

そういうものがすごい似合うというか、、、


どちらにせよ、ここではあんな顔に嫌でもさせられてしまうのか。


「………ふふ、おにーさんも興味ある?」


「え?」


松本潤を送り届けてから戻ってきた先程の男が、ニヤつきながらこちらに近づいてきた。


「あれ?今なんだか興味有りげな顔してたんだけどなー。」


「…そんなはず…。」


「ん、これあげる。俺の名刺。またいつでも来てよ。おにーさん、絶対売れるから。」


スッと差し出された名刺を素直に受け取り、まじまじと眺める。

白と黒で統一されたその名刺には、二宮和也という文字があった。


「…第一、私は警察官です。」


「じゃあ昼は警察官で、夜はここで働くってのはどう?」


「…。
仕事に戻ります。では。」


これ以上は触れてはいけない気がした。


ーーー


…はぁ、と息を吐く。

結局受け取ったままにしてしまった名刺は胸ポケットから取り出してカバンに入れたまま、今日の勤務は終えて自宅へと帰って来てしまった。


…頭から離れない。

彼の…、松本潤のあの満足そうな表情が。


艶とふわふわとした気怠い雰囲気を身にまとい歩く姿は、ゾクリと鳥肌が立ってしまうほど。

きっとこれは俺だけに限ったことではなく、誰が見てもゾクゾクしてしまうだろう。


「…SMクラブ、、、ねぇ…。」


受け取っていた名刺をカバンから取り出すと、なんだか捨てることも出来ずにそのままテーブルの上に置いた。